腹水のPapanicolaou染色標本(別冊No. 10)を別に示す。矢印で示す細胞はどれか。

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出典:厚生労働省ホームページ(第70回臨床検査技師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
提示された画像(下図)に示される細胞は、核が細胞膜の一端に強く圧排され、細胞質の大半が透明な空胞によって占められている、特徴的な「印環(シグネットリング)状」の形態を示しています。これは、粘液を大量に産生する癌細胞、特に胃癌や乳癌など腺癌由来の印環細胞癌に典型的な所見です。腹水中にこのような細胞が認められる場合、消化管由来の癌の腹膜播種が強く疑われます。
選択肢ごとの解説
- 1. 組織球は通常、丸い核を持ち、細胞質は豊富で泡状または顆粒状ですが、印環細胞癌のような細胞質内に大きな粘液空胞を持つ特徴的な形態は示しません。正しくは:組織球は、炎症や異物反応など様々な状況で出現するマクロファージの一種です。細胞質内に粘液空胞は認められません。選びやすい理由:炎症性病変でよく見られる細胞であり、鑑別を考える際に候補に挙がりやすいです。混同注意:特に反応性の組織球は多形性を示すことがあり、悪性細胞と混同されることが稀にありますが、印環細胞癌の典型的な形態とは異なります。
- 2. 中皮細胞は、腹水中によく見られる細胞で、しばしば集塊を形成し、窓開け構造を示すことがあります。核は円形から卵円形で、核小体が明瞭なことが多いですが、細胞質内に大きな粘液空胞を持つ印環細胞癌のような形態とは異なります。正しくは:中皮細胞は、通常、細胞質内に粘液空胞を認めず、核は細胞の中心に位置します。反応性中皮細胞は異型を示すことがありますが、印環細胞癌の典型的な形態とは異なります。選びやすい理由:腹水中に最も頻繁に認められる細胞であり、炎症性または反応性変化を示す場合があるため、異型細胞の鑑別として考えやすいです。混同注意:反応性中皮細胞は核の腫大や核小体の明瞭化を示すことがあり、悪性細胞と混同されることがありますが、細胞質の粘液空胞の有無で鑑別可能です。
- 3. 正解。下図に示される細胞は、核が細胞の一端に偏在し、その大部分が粘液で満たされた大きな空胞が細胞質を占めている特徴的な形態を示しています。これは印環細胞癌に特有の所見です。正しくは:核が細胞の一端に押しやられ、細胞質に大きな粘液空胞を持つ細胞は印環細胞癌の典型的な形態です。選びやすい理由:特徴的な形態であるため、形態を正しく認識できれば選択しやすいです。混同注意:特にありません。特徴的な形態なので、見慣れていれば鑑別は比較的容易です。
- 4. 扁平上皮癌細胞は、通常、明確な細胞質角化、オレンジG好染性を示す好酸性の厚い細胞質、核の濃染などを特徴としますが、細胞質内に大きな粘液空胞を持つ印環細胞癌のような形態は示しません。正しくは:扁平上皮癌は、扁平上皮由来の細胞であり、細胞質は角化傾向を示し、粘液産生は通常認められません。選びやすい理由:一般的な癌の一種であり、鑑別診断の候補として挙がりやすいです。混同注意:他の悪性細胞と混同されることはありますが、印環細胞癌とは形態学的特徴が大きく異なります。
- 5. 悪性リンパ腫細胞は、通常、円形または不整形の核を持ち、核小体が明瞭であるか、クロマチンが粗いなどの特徴を示しますが、細胞質は乏しく、印環細胞癌のような大きな粘液空胞を持つことはありません。正しくは:悪性リンパ腫細胞は、一般に細胞質が乏しく、核が大きく、粘液産生は認められません。選びやすい理由:腹水中に悪性細胞が出現する病態の一つとしてリンパ腫が挙げられるため、鑑別診断の候補として考えやすいです。混同注意:異型のリンパ球と混同されることはありますが、印環細胞癌とは形態学的特徴が大きく異なります。
国試ポイント
この問題は、細胞診における特徴的な癌細胞の形態を正確に識別できるかを問うものです。特に、印環細胞癌のような病理学的に重要な特徴を持つ細胞の知識が求められます。他の鑑別診断となる細胞(組織球、中皮細胞、他の悪性腫瘍)との形態学的違いを理解しておくことが重要です。
混同注意
反応性中皮細胞や組織球など、腹水中に見られる良性細胞との鑑別。特に反応性中皮細胞は異型を示すことがあり、判断が難しい場合がありますが、印環細胞癌の粘液空胞の有無が決定的な鑑別点となります。また、脂肪空胞を持つ細胞との鑑別も必要になる場合がありますが、核の偏在と空胞の性質で鑑別可能です。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出題された場合、まず核の形態(大小不同、核小体の有無、クロマチンの状態)と細胞質の量、そして最も重要な細胞質内封入物や空胞の有無・性状に注目して判断します。特に体腔液の細胞診では、良性の中皮細胞や組織球の形態を十分に理解し、悪性細胞の明確な特徴(核の異型、細胞質内の特殊な構造など)を捉えることが重要です。
関連知識
印環細胞癌は、主に胃癌、乳癌、大腸癌、卵巣癌などで見られます。腹水や胸水などの体腔液中に出現した場合、腹膜播種や胸膜播種を示唆します。パパニコロウ染色では粘液空胞は透明に染まることが多いですが、PAS染色やアルシアンブルー染色を行うことで粘液の存在を確認できます。