医療コラム
テニス肘のストレッチと運動:いつから・どのくらい・痛いときは
まず結論
手首を反らす筋肉(伸筋)のストレッチは、MSDマニュアル プロフェッショナル版では治療の最初の段階に含まれています。一方、家庭版は柔軟性と筋力の運動を痛みが和らいでから始めるとしています。筋力をつける運動は、どちらの版でも痛みが和らいでからです(MSDマニュアル プロフェッショナル版・家庭版)。MSDマニュアルが紹介する例では、ストレッチは30秒保持×4回を1日3セット、筋力訓練は10回×3セットを1日1回で、負荷は軽いものか重りなしから始めます。
手首を曲げる・手のひらを上に返すときに痛みが出る運動は避けます(MSDマニュアル プロフェッショナル版)。自宅での対処を6週間続けても良くならないときは理学療法が役立つことがあり(英国の公的医療情報)、日本の診療ガイドラインは理学療法を強く推奨しています(上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2019・Clinical Question 4-4)。
すぐ受診が必要な症状
- 急に始まった腕の痛みに、胸の圧迫感・重苦しさ・締めつけを伴う → すぐに 119(心臓の病気のおそれ)
- 強い痛みで腕を動かしにくい/けがのときに「ポキッ」という音がした、腕の形が変わった → 救急外来へ
- 腕がしびれる・感覚が鈍い → 救急外来へ
- 腕が腫れて高い熱がある、寒気がする/運動すると腕が痛み、休むと治まる → 当日中に医療機関へ相談
出典:英国の公的医療情報「Elbow and arm pain」(NHSの最終レビュー日 2024-01-26)。テニス肘そのものの症状ではなく、ひじや腕の痛み全般で注意すべき徴候です。英国の救急番号(999)の案内を、日本の119番に置き換えて示しています(medimichi の注記)。
当てはまるときは、ためらわず 119 または救急外来へ。
受診の目安
- ひじを休ませて自分でできる対処を2週間続けても痛みが残る(英国の公的医療情報「Tennis elbow」)
- ひじや腕の痛みが数週間たっても治まらない(英国の公的医療情報「Elbow and arm pain」)
- 痛みで日常の動作に支障がある(medimichi の注記)
日本での相談先は整形外科です(medimichi の注記)。腕のしびれや感覚の鈍さは、上の「すぐ受診が必要な症状」に当たります(英国の公的医療情報「Elbow and arm pain」)。ひじの外側の痛みは、ひじの関節炎や神経の圧迫でも起こることがあり、医師はX線検査や筋電図でそれらを見分けることがあります(米国整形外科学会)。症状だけでテニス肘と決めないでください。
いつから始める?痛みの時期で分ける
| 時期 | 運動の考え方 | 出典 |
|---|---|---|
| 痛みが強いうち | 痛みが出る運動は控え、ひじの外側を冷やす(MSDマニュアル家庭版・プロフェッショナル版)。プロフェッショナル版は、安静・冷却・痛み止めと並んで伸筋のストレッチを最初の段階の治療に挙げている(家庭版は、柔軟性の運動を痛みが和らいでから始めるとしている) | MSDマニュアル家庭版・プロフェッショナル版 |
| 自宅での対処として | 腕の曲げ伸ばしのような簡単な運動を試してよい | 英国の公的医療情報 |
| 痛みが和らいできたら | ひじと手首の柔軟性・筋力を高める運動を始める。前腕の伸筋と屈筋に軽い抵抗をかける運動から始め、その後、筋肉を伸ばしながら力を出す運動(遠心性)と縮めながら力を出す運動(求心性)へ進める | MSDマニュアル家庭版・プロフェッショナル版 |
| 自宅で6週間たっても良くならない | 理学療法が役立つことがある | 英国の公的医療情報 |
腕を休めている間の体力づくりには、ジョギングやサイクリングのように手首を反らす筋肉をあまり使わない運動が代わりになるとされています(MSDマニュアル家庭版)。
ストレッチ:MSDマニュアルが紹介する2種類
MSDマニュアルは、テニス肘のページで米国の病院の理学療法部門が提供した運動を紹介しています。回数や秒数はその紹介例です(MSDマニュアル家庭版・プロフェッショナル版)。
| ストレッチ | やり方の要点 | 保持・回数 |
|---|---|---|
| 手首を反らす筋肉(伸筋) | 痛む側のひじを伸ばしておき、反対の手で痛む側の手を親指側からつかんで、手首を手のひら側へ曲げる。さらに伸ばしたいときは、手首を小指側へ傾け、指を握り込むようにして曲げを深める(MSDマニュアル プロフェッショナル版) | 30秒保持。4回で1セット、1日3セット(MSDマニュアル プロフェッショナル版) |
| 手首を曲げる筋肉(屈筋) | 痛む側の手のひらを上に向け、ひじを伸ばしたまま、反対の手で指をつかみ、手と指をゆっくり下へ引いて反らす(MSDマニュアル家庭版・プロフェッショナル版) | 30秒保持。4回で1セット、1日3セット(MSDマニュアル家庭版・プロフェッショナル版) |
米国整形外科学会も、ひじを伸ばした状態での手首のストレッチを理学療法の例に挙げています。日本の診療ガイドラインでは、ストレッチは有用性が報告されている理学療法の一つです(上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2019・Clinical Question 4-4)。
医療機関で治療やリハビリを受けている人は、医師や理学療法士に教わった方法を優先してください(medimichi の注記)。
筋力訓練:軽い負荷から
| 運動 | やり方の要点 | 回数 |
|---|---|---|
| 重りを使った手首の曲げ伸ばし | 台に前腕をのせ、手のひらを上にして手首から先を台の端から出す。手首を曲げて持ち上げ、ゆっくり元の位置まで戻す。上げるときは2つ、戻すときは4つ数える。最初はスープ缶くらいの軽い重りか、重りなしで。ゴムバンドで抵抗をかけてもよい(MSDマニュアル家庭版) | 10回で1セット、3セットを1日1回(MSDマニュアル家庭版) |
| タオル絞り | 両手でタオルを持ってやさしく絞り、次に逆向きに絞る(MSDマニュアル家庭版・プロフェッショナル版) | 10回で1セット、3セットを1日1回(同) |
| パテを使った指の運動 | 台の上で平らにしたパテに曲げた指を置き、指を伸ばしながら広げる。いちばん抵抗の小さいパテから始める。指にゴムバンドを巻いて行ってもよい(MSDマニュアル家庭版・プロフェッショナル版) | 10回で1セット、3セットを1日1回(同) |
筋力訓練も、有用性が報告されている理学療法の一つです。ただし研究ごとに方法がさまざまで、どの理学療法が特に有効かという結論には至っていません(上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2019・Clinical Question 4-4)。
痛いときはどうする?
- 手首を曲げる、または手のひらを上に返すときに痛みが出る運動は避ける(MSDマニュアル プロフェッショナル版)。
- 症状を悪くする動作は、やめるか減らす(英国の公的医療情報)。
- 筋力訓練の負荷は、軽い重りか重りなしから始める(MSDマニュアル家庭版)。
- 痛みを和らげるには、タオルで包んだ温かいパックか冷たいパックを、1回20分まで、2〜3時間おきに当てる方法がある(英国の公的医療情報)。
運動中や運動後に「どのくらいの痛みまでなら続けてよいか」について、今回確認した情報源には具体的な基準が書かれていませんでした。運動で痛みが強くなる、翌日まで痛みが残るといったときは、自己流で続けずに整形外科で相談してください(medimichi の注記)。
理学療法を受ける目安と、日本のガイドラインの評価
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 理学療法を受ける目安 | 自宅での対処を6週間続けても症状が良くならないとき、役立つことがある(英国の公的医療情報) |
| 主な内容 | マッサージ、手首と前腕のストレッチ・筋力訓練、超音波療法(英国の公的医療情報) |
| 推奨の強さ | 理学療法を強く推奨。害がなく、比較的低い費用で効果があることが理由に挙げられている(上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2019・Clinical Question 4-4) |
| 自宅か、専門家の指導のもとか | 自宅での自己訓練が有効とする論文がある一方、専門家の監視のもとで行うほうが良好とする論文もある(同) |
| 長い目で見ると | 経過観察と比べた研究では、短期的には理学療法のほうが有効だったが、52週の時点では差がなかった(同) |
日本での相談先は整形外科です(medimichi の注記)。良くなるまでの期間の目安は「テニス肘はどのくらいで治る?」、治療全体は「テニス肘の治療」を見てください。
出典・確認日
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「上腕骨外側上顆炎(テニス肘)」(治療の2段階(初期の伸筋のストレッチ→痛みが治まってから抵抗運動・遠心性/求心性運動)・避ける運動・伸筋/屈筋のストレッチの手順と秒数・回数・タオル/パテの運動。2023年11月更新)
- MSDマニュアル家庭版「上腕骨外側上顆炎(テニス肘)」(運動を始める時期・代わりの運動・屈筋のストレッチ・重りを使った手首の運動(数え方・負荷)・タオル/パテの運動。2025年11月更新)
- 英国の公的医療情報(NHS)「Tennis elbow」(自宅での簡単な運動・温冷パック・症状を悪くする動作を減らす・理学療法の時期(6週間)と内容。NHSの最終レビュー日 2024-05-31)
- 英国の公的医療情報(NHS)「Elbow and arm pain」(すぐ受診が必要な症状。NHSの最終レビュー日 2024-01-26)
- 上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2019(改訂第2版)日本整形外科学会・日本肘関節学会 監修(Minds ガイドラインライブラリ)(理学療法の推奨(CQ4-4)・ストレッチ/筋力訓練の位置づけ・自宅訓練と監視下訓練・経過観察との比較)
- 米国整形外科学会 OrthoInfo「Tennis Elbow (Lateral Epicondylitis)」(ひじを伸ばした状態での手首のストレッチ(理学療法の例))