医療コラム
テニス肘でやってはいけないこと:痛みを長引かせる動作と、代わりの工夫
まず結論
テニス肘で避けたいのは、ひじの外側が痛む動作を我慢して続けることです。物を握る・手首や前腕をひねる動作の繰り返しが負担になり、症状を悪化させる活動はやめるか減らすのが基本とされています(英国の公的医療情報)。手首を手の甲側に反らす、握手をする、ドアノブを回すといった動作でも痛みが増すことがあります(MSDマニュアル家庭版)。
一方で、まったく動かさないことが勧められているわけではなく、腕の曲げ伸ばしなどの簡単な運動も自宅での対処に含まれています(英国の公的医療情報)。筋トレは痛みが出る種目を控え、運動中に痛みが出ない範囲で、重りなしや軽い負荷から始めるのが原則です(MSDマニュアル家庭版・米国整形外科学会)。自分での対処を2週間続けても痛みが残るときは受診してください(英国の公的医療情報)。
すぐ受診が必要な症状
- 急に始まった腕の痛みに、胸の圧迫感・重苦しさ・締めつけを伴う → すぐに 119(心臓の病気のおそれ)
- 強い痛みで腕を動かしにくい/けがのときに「ポキッ」という音がした、腕の形が変わった → 救急外来へ
- 腕がしびれる・感覚が鈍い → 救急外来へ
- 腕が腫れて高い熱がある、寒気がする/運動すると腕が痛み、休むと治まる → 当日中に医療機関へ相談
出典:英国の公的医療情報「Elbow and arm pain」(NHSの最終レビュー日 2024-01-26)。テニス肘そのものの症状ではなく、ひじや腕の痛み全般で注意すべき徴候です。英国の救急番号(999)の案内を、日本の119番に置き換えて示しています(medimichi の注記)。
当てはまるときは、ためらわず 119 または救急外来へ。
受診の目安
- ひじを休ませて自分でできる対処を2週間続けても痛みが残る(英国の公的医療情報「Tennis elbow」)
- ひじや腕の痛みが数週間たっても治まらない(英国の公的医療情報「Elbow and arm pain」)
- 痛みで日常の動作に支障がある(medimichi の注記)
日本での相談先は整形外科です(medimichi の注記)。腕のしびれや感覚の鈍さは、上の「すぐ受診が必要な症状」に当たります(英国の公的医療情報「Elbow and arm pain」)。ひじの外側の痛みは、ひじの関節炎や神経の圧迫でも起こることがあり、医師はX線検査や筋電図でそれらを見分けることがあります(米国整形外科学会)。症状だけでテニス肘と決めないでください。
痛みを長引かせやすい動作
情報源が負担になるとしている動作を、medimichi が動きの種類ごとに整理しました(medimichi の注記)。
| 動きの種類 | 具体例 | 出典 |
|---|---|---|
| 握る | 物をつかむ・握る、手を握り締める(握手)。強く握る作業の繰り返し | 英国の公的医療情報・MSDマニュアル家庭版・上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2019(Background Question 2) |
| ひねる | 手首や前腕をひねる動作の繰り返し。ドアノブを回す。ねじ回しを力いっぱい何度も回す | 英国の公的医療情報・MSDマニュアル家庭版 |
| 手首を反らす | 手首を手の甲側に反らす。抵抗に逆らって手首を反らす動作(ねじ回しを回す、ラケットでバックハンドを打つなど) | MSDマニュアル家庭版・MSDマニュアル プロフェッショナル版 |
| 持ち上げる・曲げる | 腕を持ち上げる・曲げると痛みが強まることがある(英国の公的医療情報)。持ち上げ動作の繰り返しが痛みの原因動作に挙げられている(ガイドライン) | 英国の公的医療情報・上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2019(Background Question 2) |
| 手のひらを下に向けて力を入れる | 手のひらが下を向くように前腕をひねった向きで、手に力を入れる作業。重労働の人では発症の要因になりうるとされる | 上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2019(Background Question 1) |
前腕の筋肉への負担を続けていると、腕を使っていないときにも痛むようになることがあります(MSDマニュアル家庭版)。
原因になりやすい作業の例は「テニス肘の原因」にもまとめています。
やめるより「減らす」:休ませることと動かすことの両立
情報源はいずれも、痛む活動を減らしながら、別の形で腕や体を動かすことを併せて挙げています(英国の公的医療情報・米国整形外科学会・MSDマニュアル家庭版)。
| 情報源 | 休ませ方 | 動かし方 |
|---|---|---|
| 英国の公的医療情報 | 症状を悪化させる活動を避けるか、減らす | 腕の曲げ伸ばしなどの簡単な運動を試す |
| 米国整形外科学会 | 痛みが出るスポーツや重い作業などを、数週間止めるか減らす | 前腕の筋肉を強くする運動が役立つ(理学療法・作業療法) |
| MSDマニュアル家庭版 | 痛みが生じる運動を控え、ひじの外側を冷やす | ジョギングやサイクリングのように手首を反らす筋肉をあまり使わない運動なら、体力を保つ代わりの運動にできる。痛みが和らいできたら、ひじと手首の柔軟性と筋力を高める運動を始める |
日本のガイドラインは、ストレッチや筋力訓練などの理学療法を強く推奨しています。自宅での自己訓練が有効とする論文がある一方、専門家の監視のもとで行うほうが良好とする論文もあると紹介しています(上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2019・Clinical Question 4-4)。
どこまで動かしてよいかは、痛みの強さや仕事の内容によって変わります。迷うときは整形外科で相談してください(medimichi の注記)。
控えたい筋トレ・運動のしかた
| 控えたいこと | 情報源の記載 |
|---|---|
| 痛みが出る種目をそのまま続ける | 痛みが生じる運動は控える(MSDマニュアル家庭版) |
| 懸垂やローイング(引く動作)で、手のひらを下に向けて引く | 筋力トレーニングをする人では、背中を鍛えるローイング運動や懸垂の最中、特に手のひらを下に向けたときに症状が出ることが多い(MSDマニュアル プロフェッショナル版) |
| 重りを使った前腕のカールを繰り返す | テニス肘が起こる動作の一つとして挙げられている(MSDマニュアル家庭版) |
| 運動中の痛みを我慢する | 運動中に痛みを感じるべきではなく、多少の違和感は普通とされる。痛みがあるときは医師や理学療法士に相談する(米国整形外科学会の運動プログラム) |
| いきなり重い負荷から始める・急に重くする | 最初は重りなし、または軽い重りから始める(MSDマニュアル家庭版)。米国整形外科学会の運動プログラムでは、重りなしで始め、2日続けて痛みが増えずに30回できたら次の重さへ進む |
| 自己流で続ける | 運動プログラムは医師の監督のもとで行い、やり方や回数がわからなければ医師や理学療法士に確認するよう案内されている(米国整形外科学会の運動プログラム) |
ストレッチや運動の内容は「テニス肘のセルフケア」を参考に、主治医や理学療法士の指示に合わせてください。
仕事・スポーツで見直すこと
| 場面 | 情報源の記載 |
|---|---|
| 手を繰り返し強く使う仕事 | 塗装・配管・大工の仕事をする人は特になりやすく、自動車工・調理・精肉の仕事をする人にも多いという研究がある。繰り返しの動作と重い物を扱うことが関係すると考えられている(米国整形外科学会) |
| 重労働 | 重労働の人のほうが治りにくい傾向がある(上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2019・Background Question 1) |
| テニスなどのラケット競技(用具) | 硬めのラケットや緩めに張ったガットは、前腕への負担を減らすことが多い。大きめのフェイスを使っている場合は、小さめに替えると再発予防に役立つことがある(米国整形外科学会)。ガットの張りすぎ、短すぎるラケットは危険因子とされる(MSDマニュアル家庭版) |
| テニスなどのラケット競技(打ち方) | ラケットの中心を外して打つ、濡れて重くなったボールを何度も打つ、バックハンドで手首が曲がるフォームは危険因子とされる。肩や前腕の筋力の低下も挙げられている(MSDマニュアル家庭版) |
仕事を休めないときは、痛む動作の回数や続ける時間を減らせないかを、主治医や職場と相談してください(medimichi の注記)。
注射で痛みが軽くなっても、繰り返しには注意
- ステロイドの注射は、注射から6か月未満の痛みや日常の動作には効果があるという強い根拠がある一方、6か月以上の長期的な効果はないとする強い根拠がある(上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2019・Clinical Question 4-2)。
- 63人64肘に注射を行った報告では、1回で効果があったのは29肘(45%)で、残りの34肘は再発して複数回の注射が行われた(同ガイドライン・Background Question 5-2)。
- 複数回の注射のあとに腱の付け根が切れた症例報告があり、複数回・長期の使用には注意が必要とされている(同・Clinical Question 4-2)。米国整形外科学会も、使いすぎるとひじの外側の骨(外側上顆)を弱めるおそれがあるとして、ごく控えめに使うべきとしている。
注射のあとの再発の割合は「テニス肘はどのくらいで治る?」にまとめています。
良くならないとき
痛む動作を減らしても良くならない場合の流れは、次のとおりです(英国の公的医療情報・米国整形外科学会)。
- 自分での対処を2週間続けても痛みが残る → 受診の目安(英国の公的医療情報)
- 自宅での対処を6週間続けても良くならない → 理学療法が役立つことがある(英国の公的医療情報)
- 6〜12か月たっても続く → 手術が選択肢になることがある(英国の公的医療情報・米国整形外科学会)
経過の目安と治りにくくなる要因は「テニス肘はどのくらいで治る?治らないときに見直すことと次の選択肢」で詳しく説明しています。
ここから下は、医学的な説明ではなく、セルフケア用品の案内です。
出典・確認日
- 上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2019(改訂第2版)日本整形外科学会・日本肘関節学会 監修(Minds ガイドラインライブラリ)(負担になる動作・発症要因(BQ1・BQ2)・理学療法(CQ4-4)・テニスバンド(CQ4-3)・注射の効果と注意(CQ4-2)・注射後の再発(BQ5-2)。第3版(2024)は刊行済みだが、2026-10-18時点で Minds に本文は未公開)
- 英国の公的医療情報(NHS)「Tennis elbow」(痛みが強まる動作・原因になる作業・活動を避けるか減らす・簡単な運動・ストラップ・受診の目安・理学療法と手術の時期。NHSの最終レビュー日 2024-05-31)
- 英国の公的医療情報(NHS)「Elbow and arm pain」(すぐ受診が必要な症状(T03 と共通の欄)。NHSの最終レビュー日 2024-01-26)
- 米国整形外科学会 OrthoInfo「Tennis Elbow (Lateral Epicondylitis)」(休ませ方(数週間止めるか減らす)・運動療法・なりやすい職業・ラケットの用具・注射の注意・手術の時期)
- 米国整形外科学会 OrthoInfo「Therapeutic Exercise Program for Epicondylitis」(運動プログラム、2024年版PDF)(運動中の痛みの扱い・負荷の上げ方(2日続けて痛みが増えずに30回)・医師の監督)
- MSDマニュアル家庭版「上腕骨外側上顆炎(テニス肘)」(痛みが増す動作・原因になる動作(前腕のカールなど)・代わりの運動・運動の始め方・ラケット競技の危険因子。2025年11月更新)
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「上腕骨外側上顆炎」(抵抗に逆らって手首を反らす動作・懸垂やローイングで症状が出やすいこと。2023年11月更新)