Aさん(66歳、女性)は、4年前に前頭側頭型認知症と診断され、介護老人福祉施設に入所している。時々、隣の席の人のおやつを食べるため、トラブルになることがある。この状況で考えられるAさんの症状はどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第107回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
前頭側頭型認知症では、前頭葉の機能障害により、社会的行動の抑制が困難になる「脱抑制」の症状がよく見られます。他者の所有物に対する配慮が欠け、自分の欲求に従って行動してしまうため、隣の入居者のおやつを勝手に食べてしまうという状況は、この脱抑制の典型的な例です。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。脱抑制は、社会的規範や他者への配慮が欠如し、欲求をそのまま行動に移してしまう症状です。隣の入居者のおやつを勝手に食べてしまう行動は、この脱抑制の典型的な現れです。選びやすい理由:他の選択肢も認知症の症状として考えられますが、隣の席の人のおやつを『勝手に食べる』という具体的な行動には脱抑制が最も合致します。混同注意:「記憶障害」と混同しがちですが、記憶障害ではおやつが誰のものか忘れることはあっても、それを勝手に食べてしまう衝動的な行動は脱抑制が強く関連します。
- 2. 記憶障害は、新しい情報を覚えられない、過去の出来事を思い出せないなどの症状です。おやつが誰のものか忘れる可能性はありますが、それを勝手に食べるという行動は記憶障害そのものよりも、行動を制御できない脱抑制の要素が強いです。正しくは:おやつが誰のものか忘れたとしても、それを摂取する行動を制止できないのは脱抑制の症状です。選びやすい理由:認知症の代表的な症状であり、おやつが自分のものではないと認識できない可能性も考えられるため、迷うことがあります。混同注意:脱抑制と混同しがちですが、記憶障害は情報の保持・再生に関する問題であり、行動制御の障害とは異なります。
- 3. 常同行動は、同じ行動を繰り返す、決まった手順で物事を行うなどの症状です。隣の入居者のおやつを食べる行為が常に同じ時間、同じ方法で繰り返されるのであれば常同行動も考えられますが、「時々」であり、特定のおやつを食べる行動そのものが常同行動とは言えません。正しくは:『時々』隣の人のおやつを食べるという行為だけでは常同行動とは断定できません。例えば毎日決まった時間に特定の行動を繰り返す場合に当てはまります。選びやすい理由:前頭側頭型認知症の代表的な症状の一つであるため、選択肢として魅力的です。混同注意:脱抑制や記憶障害とは異なり、行動の反復性や固執を特徴とします。
- 4. 自発性の低下は、自分から行動を起こさなくなる、意欲がなくなるなどの症状です。隣の入居者のおやつを食べる行為は、むしろ行動の自発性があること、ただしそれが不適切な方向に向かっていることを示唆しています。正しくは:自発性の低下は、行動が減少し、無気力になる状態を指します。おやつを勝手に食べるという行動は、自発的に何かを行っている状態です。選びやすい理由:前頭側頭型認知症でみられる症状ではありますが、この具体的な行動とは直接結びつきません。混同注意:脱抑制とは対照的に、行動の開始や維持が困難になる症状です。
- 5. 物盗られ妄想は、自分の物が盗まれたと信じ込む妄想です。Aさんの行動は他者の物を『取る』側であり、自分が物を盗まれたと訴える症状ではありません。正しくは:物盗られ妄想は、自分の物が盗まれたと主張する症状です。Aさんの行動は他者の物を摂取する行為であり、この記述には当てはまりません。選びやすい理由:認知症の周辺症状としてよく知られているため、一般的な知識から選択しがちです。混同注意:脱抑制は他者の物を勝手に取る行動であり、物盗られ妄想は自分の物が盗られたと信じる精神症状です。全く異なる概念です。
国試ポイント
前頭側頭型認知症の主要な症状である脱抑制、常同行動、自発性低下、共感性低下などを理解し、それぞれの具体的な行動と結びつけて判断できるかが問われます。特に脱抑制は、社会的ルールや他者への配慮が欠如し、衝動的な行動として現れることを認識しておくことが重要です。
混同注意
記憶障害は認知症全般に見られる症状ですが、前頭側頭型認知症では、初期には記憶障害が目立たないこともあります。この問題の状況では、おやつが誰のものかという記憶の問題よりも、それを勝手に食べるという行動制御の問題がより強く示唆されます。
次に同じ論点が出たら
Aさんの行動がエスカレートした場合、どのような対応が適切か、また他の入居者とのトラブルを避けるためにどのような環境調整が必要かなど、看護師の具体的な介入方法について考察する問題が考えられます。
関連知識
前頭側頭型認知症の行動異常型(bvFTD)では、脱抑制、アパシー(自発性低下)、無関心、常同行動、食行動異常などが特徴的に現れます。診断基準(Rascovskyら, 2011)においてもこれらの行動変化が重視されます。