Aさん(50歳、女性、会社員)は、職場で激しい頭痛を訴えて倒れ、意識を失って、救急搬送された。救命救急センター到着時のバイタルサインは、体温36.7°C、呼吸数20/分、脈拍88/分、血圧168/88 mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉98 %(room air)であった。閉眼していたので、大声で話しかけると開眼したが、すぐに閉眼して眠り込んでしまう。 Aさんの回復は順調で、後遺症なく退院した。退院1か月後の外来で、Aさんに生活状況を聞くと、会話に対する反応は鈍く「この間、尿を漏らしてしまいました」と話した。家族は「最近物忘れが激しく、歩くのも遅くなりました」と話した。看護師がAさんに書類を渡すと、スムーズに受け取り、きれいな文字で名前を書いた。家族は「入院前と変わらない字で書けています」と言った。Aさんに起こっている可能性が高いのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第114回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
Aさんの症状は「物忘れ(認知機能障害)」、「歩行の遅さ(歩行障害)」、「尿漏れ(尿失禁)」であり、これらは正常圧水頭症に特徴的な「ハキムの3主徴」と完全に一致します。また、症状が数か月かけて緩徐に進行していること、そして手先の器用さ(文字をきれいに書ける)が保たれていることも、正常圧水頭症の診断を強く示唆します。他の選択肢は、症状の組み合わせや経過と合致しません。
選択肢ごとの解説
- 1. 脳血管攣縮は主にくも膜下出血の合併症として、発症後数日から2週間程度で生じる急性期の病態であり、意識障害や片麻痺などの脳虚血症状を引き起こします。数か月後の外来で認知機能障害、歩行障害、尿失禁といった症状が緩徐に進行している本事例には当てはまりません。正しくは:急性期に、意識レベルの低下や新たな神経症状(麻痺など)が急激に出現した場合に可能性が高いです。選びやすい理由:「脳」というキーワードや、以前何らかの脳疾患があった可能性を想像させるため、関連があるように感じやすいですが、症状の組み合わせと経過が合いません。混同注意:くも膜下出血後の急性期合併症と混同しやすいです。
- 2. 正解。正常圧水頭症は、「認知機能障害(物忘れ、反応の鈍さ)」、「歩行障害(歩行緩慢、小刻み歩行)」、「尿失禁」の3つの症状(ハキムの3主徴)を特徴とする疾患です。数か月という比較的緩やかな経過でこれらの症状が複合的に出現している状況は、この疾患に最も典型的なものです。また、手先の器用さ(きれいな文字が書けること)が比較的保たれている点もNPHの特徴と合致します。
- 3. 脳動脈瘤の破裂は、突然の激しい頭痛(ハンマーで殴られたような痛み)や意識障害、嘔吐などを引き起こす、緊急性の高い病態です。数か月かけて物忘れや歩行障害、尿失禁が進行する本事例の経過とは全く異なります。正しくは:突然発症する劇症的な症状(激烈な頭痛、意識障害など)がみられた場合に疑います。選びやすい理由:「脳」というキーワードや、以前の入院が脳血管系の疾患だったのではと推測させるかもしれませんが、症状と経過が異なります。混同注意:くも膜下出血の急性期症状と混同しやすいです。
- 4. パーキンソン病の主要な運動症状は「振戦(震え)」、「固縮(筋肉のこわばり)」、「無動・寡動(動きの少なさ、遅さ)」、「姿勢反射障害(転倒しやすさ)」です。確かに歩行障害は見られますが、設問にあるような顕著な「尿失禁」や「急激な物忘れの進行」が早期から主要な症状として現れることは稀です。また、パーキンソン病では特徴的な「小字症(マイクログラフィア)」が見られることが多く、患者さんが「きれいな文字」を書けている点とも矛盾します。正しくは:振戦、固縮、姿勢反射障害などの特徴的な運動症状に加え、便秘や嗅覚障害などが初期症状として見られることが多いです。認知機能障害や尿失禁は病期の進行に伴って現れることがあります。選びやすい理由:歩行の遅さという共通点があるため、選択肢として魅力的ですが、尿失禁や初期から目立つ認知機能障害、きれいな文字が書ける点などがNPHと異なります。混同注意:NPHとパーキンソン病はどちらも歩行障害や認知機能低下を来すため、症状が似ているように感じることがありますが、NPHは「尿失禁」と、比較的早期から認知機能障害が複合的に出現する点が特徴です。また、NPHは手先の器用さが比較的保たれることがあります。
国試ポイント
高齢者の認知機能障害、歩行障害、尿失禁が同時に見られる場合、正常圧水頭症の可能性を疑えるか、そして他の神経疾患との鑑別ができるかを問う問題です。特に、正常圧水頭症の『ハキムの3主徴』を正確に理解していることが重要です。
混同注意
パーキンソン病、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症など、歩行障害や認知機能障害を呈する他の神経変性疾患や認知症。しかし、正常圧水頭症は「尿失禁」の合併が特徴的であり、治療によって症状の改善が期待できる点で異なります。
次に同じ論点が出たら
今後、高齢者の認知機能障害や歩行障害を呈する疾患の鑑別診断、特に可逆性のある認知症の原因疾患とその特徴について問われる可能性があります。ハキムの3主徴以外の付随症状(例:頭痛の有無、精神症状など)や、MRIなどの画像所見を加えた問題も考えられます。
関連知識
正常圧水頭症の診断方法(タップテスト、脳室拡大などの画像所見)、治療法(脳室─腹腔シャント術など)、高齢者の認知症の鑑別診断、歩行障害の種類、尿失禁の種類と原因、特に脳神経系疾患による排尿障害。