Aさん(58歳、男性)は農作業中に有機リン系殺虫剤を散布していたところ、急な嘔気と頭痛、呼吸困難が出現したため救急搬送された。搬入時、呼吸は促迫で流涎があり、縮瞳が認められた。Aさんに直ちに投与される薬剤はどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第115回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
有機リン系殺虫剤中毒では、アセチルコリンエステラーゼの働きが阻害され、神経伝達物質であるアセチルコリンが体内で過剰になります。これにより、副交感神経の作用が強く現れ、流涎(よだれ)、縮瞳、嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、気管支分泌亢進、気管支痙攣による呼吸困難、徐脈、意識障害などの症状が出現します。アトロピン硫酸塩水和物は、ムスカリン性アセチルコリン受容体を競合的に遮断する抗コリン薬であり、過剰なアセチルコリンによる副交感神経系の症状(特に気管支分泌、気管支痙攣、徐脈、縮瞳など)を緩和するために、緊急で投与される最も重要な治療薬です。
選択肢ごとの解説
- 1. ビタミンK製剤は、血液凝固因子の産生に必要な薬剤であり、ワルファリンなどの抗凝固薬による出血やビタミンK欠乏症に伴う出血傾向の治療に用いられます。有機リン中毒の症状とは関連がありません。正しくは:有機リン中毒に直接効果はありません。
- 2. オキシコドン塩酸塩は強力な鎮痛作用を持つオピオイドであり、重度の疼痛管理に用いられます。有機リン中毒による頭痛や嘔気に対して対症的に使用される可能性はありますが、根本的な治療薬ではありませんし、呼吸抑制を悪化させる危険性があります。正しくは:強力な鎮痛剤であり、有機リン中毒の根本治療にはなりません。呼吸抑制を悪化させる可能性があります。選びやすい理由:頭痛や嘔気に対する対症療法として選択肢に思えるかもしれませんが、根本治療ではないため誤りです。混同注意:有機リン中毒では呼吸抑制が問題となるため、さらに呼吸抑制を招く薬剤は不適切です。
- 3. バンコマイシン塩酸塩は強力な抗生物質であり、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症など、重篤な細菌感染症の治療に用いられます。有機リン中毒は細菌感染症ではないため、この薬剤は適切ではありません。正しくは:抗生物質であり、有機リン中毒には効果がありません。
- 4. 正解。有機リン系殺虫剤中毒では、アセチルコリンエステラーゼが阻害され、アセチルコリンが過剰になります。これにより、副交感神経が過剰に刺激され、嘔気、頭痛、呼吸困難、流涎、縮瞳などの症状が現れます。アトロピンはムスカリン性アセチルコリン受容体を遮断する抗コリン薬であり、副交感神経の過剰な興奮を抑制することで、これらの症状を緩和する最も重要な解毒剤です。正しくは:アトロピンは有機リン中毒に対する解毒剤です。
国試ポイント
有機リン中毒の病態生理と主要な解毒剤であるアトロピンの薬理作用を理解しているかが問われています。副交感神経系の過剰な興奮による症状と、それを抑制する抗コリン薬の役割を結びつけて記憶することが重要です。
混同注意
有機リン中毒の症状である呼吸困難と頭痛は、他の疾患でも見られるため、状況設定(農作業中の殺虫剤散布)と他の特異的な症状(流涎、縮瞳)から総合的に判断することが必要です。選択肢の中で、症状を悪化させる可能性のある薬剤や全く関連のない薬剤が混在しているため、正確な知識が求められます。
次に同じ論点が出たら
アトロピン投与後の効果判定として、瞳孔散大、心拍数増加、呼吸状態の改善などを観察し、必要に応じて追加投与の判断をします。
関連知識
有機リン中毒の治療では、アトロピンの他にプラリドキシムヨウ化メチル(PAM)などのコリンエステラーゼ再活性化薬も用いられます。これはアセチルコリンエステラーゼの機能を回復させることで、根本的な治療を目指します。また、呼吸管理や循環管理といった対症療法も重要です。