境界性パーソナリティ障害の患者に対する作業療法士の対応で適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
境界性パーソナリティ障害の患者さんは、衝動性や自傷行為、感情の不安定さが顕著であり、これらの困難に対処するための安全な方法を提供することが作業療法の重要な役割です。作業活動は、身体を動かしたり、創造的な表現を行ったりすることで、内側に溜まった感情やエネルギーを建設的に発散させ、衝動的な行動を抑制する助けとなります。これにより、自己破壊的な行動を予防し、ストレスを軽減し、感情のコントロール能力を高めることが期待できます。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。境界性パーソナリティ障害の患者さんは、衝動性や自傷行為のリスクが高いため、作業活動は感情やエネルギーを建設的かつ安全な方法で発散させる有効な手段となります。特に、運動を伴う作業や創造的な活動は、不快な感情の処理やストレス軽減に役立ちます。
- 2. 境界性パーソナリティ障害の患者さんは、感情や対人関係の不安定さが特徴であり、治療への参加態度も変動しやすい傾向があります。このような患者さんに対しては、治療関係の一貫性を保ち、安定した治療枠組みを提供することが極めて重要です。安易に希望だけで頻繁に頻度を変更すると、治療構造が曖昧になり、症状の悪化につながる可能性があります。正しくは:作業療法の頻度や計画は、患者さんの病状と治療目標に基づき、安定した治療枠組みとして一貫性を持って提供することが重要です。選びやすい理由:患者中心のアプローチとして一見望ましいように思えますが、境界性パーソナリティ障害の特性を考慮すると、安定した構造がより重要です。混同注意:一般的な「患者中心の医療」の原則と、境界性パーソナリティ障害における「治療構造の安定性」の重要性。
- 3. 境界性パーソナリティ障害の患者さんは、治療者に対して極端な理想化(陽性転移)や、その後の貶め(陰性転移)を抱きやすい特徴があります。これらの転移感情は非常に不安定で、操作的になる可能性があるため、治療者がこれを「利用する」という姿勢は、患者の依存や操作を助長し、治療関係の破綻を招きかねません。転移は治療の場で生じる現象として理解し、適切に対処することが求められます。正しくは:治療関係で生じる転移感情(陽性転移も含む)は、治療関係の不安定性や操作につながる可能性があるため、治療目標に沿って慎重に分析し、対処することが重要です。選びやすい理由:一部の精神療法では転移を扱うことがあるため、治療に有用であると誤解しやすいかもしれません。混同注意:一般的な精神分析的治療における転移の活用と、境界性パーソナリティ障害に特有の不安定な転移の扱い。
- 4. 境界性パーソナリティ障害の患者さんは、対人関係の不安定性、見捨てられ不安、関係性の構築困難といった問題を抱えています。そのため、頻繁なメンバーの入れ替わりがある集団環境では、不安が増強され、安定した人間関係を築く機会が得られにくく、症状が悪化する可能性があります。安定した人間関係を経験できる集団環境が望ましいです。正しくは:安定したメンバー構成の集団作業療法を提供し、安全な環境で他者との安定した関係形成や対人関係スキルを学ぶ機会を提供します。選びやすい理由:多様な人との交流が良いと考えるかもしれませんが、境界性パーソナリティ障害においては「安定」が重要です。混同注意:一般的な社会参加や多様な交流の機会と、治療的な集団環境における「安定性」の重要性。
- 5. 境界性パーソナリティ障害の患者さんは、見捨てられ不安や自己同一性の揺らぎから、治療者に対して過度な依存や理想化を抱きやすい傾向があります。治療者がこの依存関係を「通して」関係を築こうとすると、患者の自律性の発達を阻害し、共依存的な関係や操作的な行動を助長する危険性があります。適切な距離感を保ち、患者の自律を促すことが重要です。正しくは:作業療法士は、患者さんの自律性を尊重し、適切な専門職としての距離感を保ちながら、安心できる治療関係を構築することで、過度な依存を避けつつ患者さんの成長を支援します。選びやすい理由:信頼関係を築くために親身になることと混同しやすいですが、過度な依存は治療的ではありません。混同注意:治療におけるラポール形成(信頼関係構築)と、境界性パーソナリティ障害における病的な依存関係の区別。
国試ポイント
境界性パーソナリティ障害の病態理解に基づいた、作業療法士の適切な対応(特に衝動性への対処、治療構造の安定性、対人関係の対応)が問われています。不安定な感情や対人関係の問題を持つ患者特性を考慮した、専門職としての関わり方が重要です。
混同注意
一般的な精神疾患に対する治療原則や患者中心のアプローチと、境界性パーソナリティ障害特有の治療的対応との違いが混同されやすいです。特に、依存性、転移、対人関係の不安定さに対する適切な治療的距離感が問われます。
次に同じ論点が出たら
次回、同じ論点が出題された場合、患者の「衝動性」「感情の不安定さ」「対人関係の不安定さ」「依存性」といった核症状に対して、作業療法士がどのような「構造(枠組み)」を提供し、どのような「距離感」で関わり、どのような「活動」を用いることが治療的であるか、という視点で選択肢を検討すると良いでしょう。特に、患者の行動を助長するような対応や、治療構造を曖昧にする選択肢は誤りである可能性が高いです。
関連知識
境界性パーソナリティ障害の診断基準(DSM-5など)、感情調整不全、衝動性、対人関係の不安定性、自己同一性の混乱、見捨てられ不安といった核となる症状を理解していること。また、弁証法的行動療法(DBT)やスキーマ療法など、境界性パーソナリティ障害に特化した心理療法についても関連知識として押さえておくことが望ましいです。