65歳の女性。元来、几帳面な性格だが友人も多く活動的に過ごしていた。3か月前に、自宅のリフォームを契機に、早朝覚醒、食思不振、抑うつ気分や意欲低下が生じ、友人とも会わないようになった。自宅で自殺を企図したが未遂に終わり、1か月前に家族が精神科を受診させ、即日医療保護入院となった。単独散歩はまだ許可されていないが、抗うつ薬による治療で抑うつ気分は改善傾向にあり、病棟での軽い体操プログラムへの参加を看護師から勧められて、初めて参加した。この時点での患者に対する作業療法士の関わりで適切でないのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第54回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
抑うつ状態の患者、特に意欲低下が見られる初期段階では、具体的な達成目標を毎回明確に設定し共有することは、患者に過度なプレッシャーを与え、失敗感を抱かせる可能性があります。この時期は「参加できたこと」自体を成功体験とし、無理なく活動を継続できるような環境を提供することが重要です。目標設定は、患者の意欲が回復し、症状が安定してから、共同で具体的なものにしていくのが適切です。他の選択肢は、抑うつ状態の患者に対する作業療法士の基本的な関わりとして適切です。
選択肢ごとの解説
- 1. 気分が落ち込んでいる患者は、作業療法活動の開始時や生活の変化に対して不安を抱えやすいです。作業療法士がその不安を理解し、受け止めることは、患者が安心して治療に取り組む上で非常に重要であり、適切な関わり方です。正しくは:この選択肢は適切であるため、修正の必要はありません。選びやすい理由:患者の不安を受け止めることは一般的な治療原則であり、正しい関わり方なので、不適切と感じることは少ないでしょう。混同注意:他の適切な関わり方と混同することはありませんが、患者の感情受容の重要性を見落とすと、他の介入を優先してしまう可能性があります。
- 2. 気分が落ち込んでいる患者は、精神的なエネルギーが低下しており、集中力も低下していることがあります。過度な刺激や長時間の活動は疲労を招きやすく、参加意欲を損なう原因となるため、活動は短時間で穏やかに進めることが適切です。正しくは:この選択肢は適切であるため、修正の必要はありません。選びやすい理由:心身の負担を考慮した配慮は、どの時期の患者にも必要と誤解されがちですが、特に抑うつ状態の初期には重要であり、適切な関わり方です。混同注意:患者の回復段階が進めば活動の強度や時間は徐々に上げていくため、常に短時間で行うわけではないという視点と混同する可能性があります。しかし、この時点では適切です。
- 3. 抑うつ状態の患者は、現実との間に隔たりを感じたり、非現実的な思考に囚われたりすることがあります。具体的な作業活動を通して現実と触れる機会を提供することで、患者の現実感を再構築し、症状の改善に繋げることができます。正しくは:この選択肢は適切であるため、修正の必要はありません。選びやすい理由:現実感の回復という表現が精神症状と関連するため、正しいと感じやすいでしょう。混同注意:統合失調症など他の精神疾患での「現実検討能力の向上」と混同する可能性もありますが、抑うつ状態においても現実との接点を増やすことは有効です。
- 4. 正解。抑うつ状態の患者、特に意欲低下が見られるこの段階で、毎回具体的な達成目標を明確に設定し共有することは、患者にとって過度なプレッシャーとなり、失敗体験につながる可能性があります。目標設定は必要ですが、この段階では『参加できたこと自体』を評価し、成功体験を積み重ねることが優先されます。明確な達成目標を強く意識させるのは、症状がさらに改善し、意欲が高まってからが適切です。正しくは:この時点では、目標を明確にし共有するよりも、『参加できたこと自体を肯定する』『無理のない範囲で活動を続けることを促す』といった関わり方が適切です。目標は作業療法士が内部的に持ちつつも、患者には強く意識させない配慮が必要です。選びやすい理由:目標設定と共有は一般的なリハビリテーションの原則であり、一見すると適切な関わり方のように思えます。しかし、抑うつ状態の患者の特性を考慮すると、時期尚早であり逆効果になる可能性があります。混同注意:一般的な学習やリハビリテーションにおける目標設定の重要性と、精神科リハビリテーションにおける患者の精神状態に応じた目標設定の調整とを混同しやすいです。
- 5. 精神科の薬物療法、特に抗うつ薬は副作用(例:眠気、口渇、消化器症状など)を生じることがあり、それが作業療法への参加意欲や集中力に影響を与える可能性があります。作業療法士として患者の全体像を把握するため、常に薬物療法の副作用に注意を払い、アセスメントすることは非常に重要な役割であり、適切な関わり方です。正しくは:この選択肢は適切であるため、修正の必要はありません。選びやすい理由:医療職として、薬の副作用を確認することは当然の責務であり、適切な関わり方と認識しやすいでしょう。混同注意:医師や看護師が薬の専門家であるため、作業療法士の役割ではないと誤解することもありますが、患者の生活や活動に影響を与える側面は作業療法士もアセスメントすべきです。
国試ポイント
抑うつ状態の患者に対する作業療法介入の原則、特に病態や回復段階に応じた介入内容の調整能力が問われています。単に一般的なリハビリテーションの原則を適用するのではなく、精神症状を理解した上での個別対応の重要性がポイントです。
混同注意
一般的な学習やリハビリテーションにおける「目標設定の重要性」と、精神科リハビリテーションにおける「患者の精神状態に応じた目標設定の調整」を混同しやすい。目標設定自体は重要だが、その提示方法や時期が、精神疾患の患者には特に配慮が必要である。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出た場合、まず患者の疾患名と現在の精神状態(特に意欲レベル、不安の有無、病識など)を正確に把握し、その上で提供される介入が、その状態の患者にとって「過剰な刺激にならないか」「プレッシャーにならないか」「成功体験につながるか」という視点で各選択肢を吟味する。
関連知識
精神科作業療法における評価と介入、特に抑うつ状態の患者に対する介入ガイドライン、気分障害の病態生理、抗うつ薬の作用と副作用、精神科リハビリテーションにおける成功体験の重要性。