45歳の男性。アルコール依存症。家で飲酒し酔って妻を怒鳴ってしまい、翌日に強い罪悪感を覚えることが増えている。反省して飲酒を減らそうとしたがうまくいかなかった。このままではいけないと思い、精神科を受診した。患者は妻の強い希望を受け入れて、しぶしぶ入院治療を受けることにした。治療プログラムの1つとして作業療法が処方された。初回の面接で、患者は、断酒しなければならないのはわかるが、コントロールして飲みたいという気持ちもあると述べた。治療への動機付けの目的で、面接の中で取り上げるべき話題として最も適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第54回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
この問題は、アルコール依存症の患者に対する動機付け面接における初回アプローチの適切性を問うものです。患者は「断酒すべきなのはわかるが、コントロールして飲みたい気持ちもある」と述べており、これは『両価性(アンビバレンス)』の状態を示しています。動機付け面接では、この両価性を患者自身が探索し、解決していく過程を支援することが、内発的な動機付けを引き出す上で最も重要です。したがって、この葛藤している気持ちについて話し合うことが、初回面接で最も適切です。他の選択肢は、重要な要素ではありますが、初回の動機付け段階においては優先度が低いか、アプローチとして不適切です。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者さんの飲酒が妻との関係に影響しているのは事実ですが、初回の動機付け面接では、患者さん自身の内的な葛藤に焦点を当てることが優先されます。他者との関係は、患者さん自身の変化への動機付けが十分に進んだ後に、具体的な飲酒問題の背景として深掘りしていくのが適切です。正しくは:患者自身の飲酒に対する両価性(アンビバレンス)が解消に向かい、具体的な行動変容の段階に入ってから、飲酒の背景にある人間関係の問題に取り組むべきです。選びやすい理由:アルコール依存症が家族関係に大きな影響を与えるのは一般的なので、重要だと感じやすいです。特に妻の希望で入院している背景があるため、関係性改善への意識が高いと誤解する可能性があります。混同注意:依存症治療における家族療法の重要性と混同しやすいですが、これは患者自身の動機付けを目的とした個人面接における初回のアプローチに関する問題です。
- 2. 作業療法の必要性を説明することは、治療プロセスにおいて重要ですが、患者さんが「断酒したい気持ちと飲酒したい気持ち」という葛藤を抱えている初回面接の段階では、まずこの内的な葛藤に焦点を当て、患者さん自身の動機付けを引き出すことが最優先です。具体的なプログラムの説明はその後の段階で行うべきです。正しくは:患者さんの治療への動機付けが高まり、行動変容への意欲が明確になった段階で、作業療法がどのようにその目標達成に役立つかを具体的に説明するべきです。選びやすい理由:作業療法士としては、自身の専門性を説明し、治療の重要性を伝えることは当然と考えるため、選びやすい選択肢です。しかし、患者の現在の心理状態を考慮すると、時期尚早です。混同注意:一般的な治療導入時の説明と、動機付け面接の初期段階でのアプローチの違いを混同しやすいです。
- 3. 飲酒による身体的影響は、アルコール依存症の患者にとって重要な情報ですが、初回の面接で患者さんがすでに「断酒すべきだとは分かっている」と認識している状況で、一方的に身体的な危険性を強調することは、かえって患者さんを防御的にさせ、動機付けを阻害する可能性があります。患者さん自身の現在の関心や葛藤に寄り添うことが先決です。正しくは:患者さんが身体的な問題に関心を示した際や、治療が進み具体的な健康管理の目標を設定する段階で、必要に応じて情報提供を行うべきです。その際も、患者さんの受容度に合わせて慎重に行う必要があります。選びやすい理由:アルコール依存症の治療において、身体合併症の説明は非常に重要な要素であるため、正しいアプローチだと感じやすいです。しかし、初回面接の「動機付け」という目的に対しては最適ではありません。混同注意:依存症の一般的な医学教育と、動機付け面接の具体的な技法を混同しやすいです。情報提供は重要ですが、タイミングと方法が重要です.
- 4. 正解。患者さんは「断酒すべきなのはわかるが、コントロールして飲みたい気持ちもある」と明確に述べており、これは動機付け面接において『両価性(アンビバレンス)』と呼ばれる状態です。この葛藤を傾聴し、患者さん自身がその両面について語ることを促すことが、患者さん自身の内発的な動機付けを引き出す上で最も重要であり、初回面接で取り組むべき核心的なテーマです。
- 5. 患者さんがストレス発散のために飲酒している側面があるとしても、それを「必要である」と肯定することは、アルコール依存症の治療目標である断酒や減酒に反し、問題行動を助長する危険性があります。動機付け面接では、飲酒の良い面も悪い面もバランス良く語ってもらうことは重要ですが、「必要性」を肯定することは治療的ではありません。正しくは:飲酒がストレス解消の手段になっているという患者さんの認識を一旦受け入れつつも、それが問題を引き起こしている現状に焦点を当て、飲酒以外のストレス対処法について患者さんと一緒に考える方向へ導くべきです。直接的に飲酒の必要性を肯定することは避けなければなりません。選びやすい理由:動機付け面接の原則の一つである「共感」を誤解し、患者の意見を全て肯定することが共感であると勘違いして選びやすいです。患者の視点を受け入れることと、問題行動を肯定することとは異なります。混同注意:患者の感情や認識を傾聴・受容すること(共感)と、その行動や考え方を肯定・是認すること(是認)の違いを混同しやすいです。
国試ポイント
アルコール依存症患者に対する動機付け面接の基本原則と、初回面接で優先すべき内容について理解しているか。特に、患者の『両価性』にどう対応すべきかが問われている。
混同注意
動機付け面接における「共感」と「是認」の違い、情報提供のタイミング、具体的な行動変容を促すタイミングと混同しやすい。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出た場合、患者が抱える内的な葛藤(アンビバレンス)の有無に注目し、それを傾聴し引き出すアプローチが最も適切であると判断する。一方的な情報提供や助言は避けるべきである。
関連知識
動機付け面接の基本原則(共感、両価性の展開、不一致点の強調、自己効力感のサポート)、アルコール依存症の病態理解、認知行動療法、家族療法、集団療法。