75歳の男性。脳挫傷。飲酒しトイレで倒れていた。頭部CT(別冊No. 3)を別に示す。明らかな運動麻痺はなく、反復唾液嚥下テスト〈RSST〉は5回/30秒である。改訂水飲みテスト〈MWST〉や食物テストでは嚥下後の呼吸は良好でむせもない。義歯を使用すれば咀嚼可能であるが、実際の食事場面では自分で食物を口に運ぼうとしない。 この患者の摂食嚥下で障害されているのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第55回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
RSSTは5回/30秒(3回以上で正常範囲)、改訂水飲みテストや食物テストでもむせがなく嚥下後の呼吸も良好で、義歯を使えば咀嚼もできるため、準備期(咀嚼)・口腔期・咽頭期・食道期に明らかな障害はありません。一方、「実際の食事場面では自分で食物を口に運ぼうとしない」ことから、食物を認知して口に運ぶ前の段階である先行期(認知期)が障害されていると考えられます(公式正答1)。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。患者は義歯を使用すれば咀嚼可能であり、嚥下テストでも異常がなく、むせもないことから、口腔期以降の嚥下機能には問題がないと考えられます。しかし、実際の食事場面で『自分で食物を口に運ぼうとしない』という記述から、食物を認識し、食べる意欲を持ち、口へ運ぶ準備をする段階である先行期に障害があると考えられます。選びやすい理由:他の選択肢も嚥下に関する重要な段階であるため、どこに問題があるか判断しにくいかもしれません。混同注意:摂食嚥下の各段階の定義と、それぞれの段階でどのような症状が現れるかについての知識が不十分だと、他の嚥下期と混同する可能性があります。
- 2. 準備期は、口に入れた食物を唾液と混ぜて咀嚼し、嚥下しやすい食塊を形成する段階です。患者は『義歯を使用すれば咀嚼可能である』と記述されており、この段階に明らかな障害があるとは言えません。正しくは:準備期に問題がある場合、咀嚼困難、食塊形成不良、口腔内残留などの症状が見られます。選びやすい理由:咀嚼機能に言及があるため、この選択肢が気になります。混同注意:先行期と準備期の区別が曖昧だと、食物を口に運ぶ行動と、口内で食塊を形成する行動のどちらが問題か判断を誤る可能性があります。
- 3. 口腔期は、形成された食塊を舌の動きで咽頭へ送り込む段階です。患者は『改訂水飲みテストや食物テストでは嚥下後の呼吸は良好でむせもない』とされており、食塊の移送に問題があるとは示唆されていません。正しくは:口腔期に問題がある場合、口腔内残留、食塊の咽頭への送り込み遅延、嚥下反射の誘発遅延などの症状が見られます。選びやすい理由:「咀嚼可能」という記述から、咀嚼が問題ではないとしても、口腔内の次の段階である口腔期に目が行きやすいかもしれません。混同注意:準備期と口腔期の区別が曖昧だと、咀嚼後の食塊の移動に問題があると考えてしまうかもしれません。
- 4. 咽頭期は、食塊が咽頭を通過し食道へ送り込まれる段階です。この段階に障害があると、むせ、誤嚥、嚥下後の呼吸困難などが生じますが、患者は『嚥下後の呼吸は良好でむせもない』と明記されており、咽頭期に問題があるとは考えられません。正しくは:咽頭期に問題がある場合、むせ、誤嚥、鼻腔逆流、嚥下後の痰、声の変化などの症状が見られます。選びやすい理由:脳挫傷という病態は嚥下障害と関連が深いため、嚥下中枢が存在する咽頭期を疑うことは自然な思考です。混同注意:嚥下機能全般の問題として捉えがちですが、具体的な症状と照らし合わせてどの段階か特定する必要があります。
- 5. 食道期は、食塊が食道を通過して胃に運ばれる段階です。食道期に障害がある場合、嚥下後の胸部不快感や食物の停滞感などの症状が出ますが、設問文にはそのような記述はありません。また、『嚥下後の呼吸は良好でむせもない』ことから、食道期にも問題がないと考えられます。正しくは:食道期に問題がある場合、嚥下後の胸部痛、食物のつかえ感、逆流、食道の通過障害などが生じます。選びやすい理由:嚥下過程の最終段階であるため、可能性の一つとして考慮されるかもしれませんが、具体的な症状が一致しません。混同注意:他の嚥下障害と混同しやすく、食道期の症状を正確に理解していないと、不適切な選択をしてしまう可能性があります。
国試ポイント
摂食嚥下の5つの段階(先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期)それぞれの定義と、各段階でどのような症状や観察所見が現れるかを正確に理解しているかが問われています。特に、先行期の問題は物理的な嚥下困難とは異なる行動面で現れるため、その特徴を把握しているかが重要です。
混同注意
先行期と準備期の区別。先行期は食物を認識し、食べる準備(手を動かして口に運ぶなど)をする段階であり、準備期は口内で咀嚼し食塊を形成する段階です。また、脳損傷後の嚥下障害は多岐にわたるため、具体的な症状と嚥下のどの段階が対応するかを正確に判断する必要があります。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た場合、摂食嚥下の各段階の定義を正確に理解しているか、患者の訴えや客観的所見がどの段階の障害に合致するかを判断できるかが重要です。特に、身体機能の問題だけでなく、意欲や認知面の問題がどの段階に影響するかを見極める視点が必要です。
関連知識
摂食嚥下の5期モデル(先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期)、反復唾液嚥下テスト(RSST)、改訂水飲みテスト(MWST)の評価目的と結果の解釈、脳損傷と嚥下障害の関連。