66歳の男性。意識障害で右上肢を下に腹臥位で体動困難となっているところを発見された。両膝、右手首、右肘および右前胸部に多発褥瘡を認め、脱水症を伴うことから発症後数日が経過していると考えられた。保存的加療とともに理学療法が開始され、徐々に意識障害が改善すると、入院後1か月で訓練中に右手のしびれを訴え、図のような手を呈した。この患者の右手に適応となるのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第55回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
図に示された手の変形が尺骨神経麻痺による鷲手(claw hand)を示していると判断できるかが重要です。尺骨神経麻痺では、尺側手指の虫様筋およびすべての骨間筋が麻痺するため、MP関節が過伸展し、PIP/DIP関節が屈曲位となる特徴的な変形を呈します。この状態に対し、MP関節の過伸展を抑制し、IP関節の屈曲を補助することで、指の機能的な動きを促し、把持動作の改善や変形の進行予防を図るのが虫様筋カフ(ナックルベンダー、ナックルベンダースプリントとも呼ばれる)の役割です。
選択肢ごとの解説
- 1. BFOは重度の上肢麻痺がある場合に、重力から腕を支持し、残存筋力での運動を補助する装具です。この症例では、手のしびれと特定の変形を呈しており、手の機能回復や変形矯正を目的とする装具が必要です。正しくは:手の機能改善や変形矯正に特化した装具が必要です。選びやすい理由:上肢の機能補助という点で関連性があるように見えるかもしれませんが、手の具体的な変形や症状には直接対応していません。混同注意:広範囲な上肢サポートが必要な疾患(例:DMDなど)と混同しやすいです。
- 2. 正解。右手のしびれと特定の手の変形(図を参照)は、尺骨神経麻痺による鷲手変形(claw hand)を示唆しています。尺骨神経麻痺により虫様筋と骨間筋が麻痺すると、MP関節の過伸展とIP関節の屈曲拘縮が生じます。虫様筋カフは、MP関節の過伸展を防ぎ、IP関節の屈曲を補助することで、手の機能改善(特に指の伸展や把持)を促し、変形の進行を予防するのに適しています。選びやすい理由:症状から直接的な解決策に見えるため。混同注意:他の種類の装具や、橈骨神経麻痺による下垂手など、他の神経麻痺による手の変形と混同しやすいです。
- 3. 短対立装具は、母指対立運動の障害(例:正中神経麻痺による猿手変形など)がある場合に、母指の対立位を保持し、把持機能を補助する装具です。この症例の手の変形は、母指対立障害よりも尺骨神経麻痺による鷲手変形が疑われるため、目的が異なります。正しくは:母指対立障害に特化した装具であり、この症例の手の変形には不適切です。選びやすい理由:手部の機能障害全般に対応できると誤解されることがあります。混同注意:正中神経麻痺による母指対立障害と混同しやすいです。
- 4. 手関節駆動式把持装具は、手関節の背屈・掌屈運動を利用して、指を屈曲・伸展させ、把持機能を補助する装具です。主に指の屈筋・伸筋に麻痺があり、手関節の機能が残存している場合に用いられます。この症例の手の変形は、特定の神経麻痺による筋力不均衡に起因しており、手関節の動きを利用した把持機能の補助よりも、MP関節の過伸展防止とIP関節屈曲補助が優先されるべきです。正しくは:指の固有筋の機能障害によるMP関節の過伸展やIP関節の屈曲拘縮には直接対応できません。選びやすい理由:把持機能の改善という点で関連性があるように思えますが、根本的なメカニズムや適用が異なります。混同注意:脊髄損傷などによる四肢麻痺で、手関節の随意運動が残存している場合の装具と混同しやすいです。
- 5. コックアップ・スプリントは、手関節を背屈位に固定し、手関節の安定化や伸筋群の安静、末梢神経への圧迫軽減などを目的とする装具です。主に橈骨神経麻痺による下垂手や、手関節の不安定性、疼痛管理などに用いられます。この症例の手の変形は、手関節の安定化よりも、MP関節の過伸展とIP関節の屈曲拘縮をターゲットとすべきであり、目的が異なります。正しくは:手関節の安定化を目的とする装具であり、この症例の指関節の変形には不適切です。選びやすい理由:手関節の固定や保護という点で、手部の一般的なトラブルに対応できると思われがちです。混同注意:橈骨神経麻痺による下垂手と混同しやすいです。
国試ポイント
この問題は、神経麻痺による特徴的な手の変形と、それに対応する装具の選択に関する知識を問うものです。特に、尺骨神経麻痺による鷲手変形と虫様筋カフの組み合わせは頻出です。図から変形を正確に読み取り、適切な装具を結びつける能力が求められます。
混同注意
各神経麻痺による手の変形(例:正中神経麻痺による猿手、橈骨神経麻痺による下垂手、尺骨神経麻痺による鷲手)と、それぞれの変形に対応する装具(例:短対立装具、コックアップ・スプリント、虫様筋カフ)が混同されやすいです。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た場合、まず患者の主訴や所見(特に図示された手の変形)から、どの神経が障害されているか、あるいはどの筋群の麻痺によるものかを特定します。その後、その機能障害を補償または改善するために、各装具が持つ機能と目的を照らし合わせ、最も適切なものを選択します。特に、神経麻痺による特徴的な手の変形とその装具の組み合わせは確実に押さえるべき点です。
関連知識
・尺骨神経麻痺:解剖学的走行、支配筋、感覚障害、運動障害(鷲手変形、フロマン徴候など)。 ・装具の種類と適応:上肢装具の各タイプ(静的装具、動的装具)、目的(機能補助、変形予防・矯正、安静保持など)。 ・病態と装具の選択:具体的な神経麻痺の種類や筋力低下、関節可動域制限に応じて最適な装具を選択する考え方。