85歳の女性。自宅仏壇のろうそくの火が右袖に引火し、右前腕から前胸部および顔面にⅢ度5%とⅡ度15 %の熱傷および気道熱傷を受傷した。受傷翌日に前胸部から右前腕前面にかけて植皮術を実施した。術後早期から開始する理学療法として正しいのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第55回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
熱傷後の植皮術では、瘢痕収縮による関節拘縮の発生を予防することが極めて重要です。特に前胸部や腋窩の熱傷は肩関節の内転・内旋拘縮を引き起こしやすいため、術後早期から肩関節を外転位で保持することで、拘縮の発生を防ぎ、機能的な可動域を維持することを目的とします。
選択肢ごとの解説
- 1. スクイージングは胸郭を圧迫して呼気を補助し排痰を促す手技ですが、本症例では植皮術を前胸部に実施しており、創部への直接的な刺激や圧迫は避けるべきです。植皮片の生着を阻害するリスクがあります。正しくは:植皮術直後は創部への刺激を最小限にし、咳嗽や体位ドレナージなど、より負担の少ない方法で排痰を促すことを検討します。スクイージングは創部が安定してから段階的に導入します。選びやすい理由:気道熱傷があるため、排痰の必要性は高いと考えられ、排痰手技の一つとして選択肢に挙がりやすいです。混同注意:気道熱傷後の排痰の重要性と、植皮術後の創部保護の優先順位を混同しやすいです。
- 2. 熱傷部位の拘縮予防のためには、最も短縮しやすい筋や組織の伸長位、つまり機能的肢位や熱傷拘縮が生じやすい方向と反対の肢位を保持することが重要です。前腕の熱傷で特に内側部の植皮がある場合、回内拘縮が生じやすいため、最大回内位で保持することは拘縮を促進してしまいます。正しくは:前腕は回外位または中間位に近い位置で保持し、回内拘縮の予防に努めるべきです。また、手指の伸展位も確保することが多いです。選びやすい理由:特定の肢位での固定が拘縮予防に繋がるという認識から、安易に何かを固定するという発想に繋がりやすいです。混同注意:熱傷後の関節可動域制限と拘縮予防のためのポジショニングの原則、特に短縮しやすい組織を伸長位に保つという原則を混同しやすいです。
- 3. 正解。前胸部から右前腕前面にかけて熱傷および植皮術が実施されています。この部位の熱傷では、瘢痕収縮により肩関節の内転・内旋拘縮が生じやすい傾向があります。そのため、術後早期から肩関節を外転位(90度程度)に保持することで、拘縮の予防を図ることが重要です。特に腋窩部の熱傷は内転拘縮を招きやすいため、外転位での保持が不可欠です。正しくは:この選択肢は正しい記述です。選びやすい理由:機能的なポジショニングの知識があれば、正解として選びやすいです。混同注意:他の部位のポジショニング(例:肘関節屈曲位)と混同する可能性はありますが、熱傷部位に特化した拘縮予防の知識が問われています。
- 4. 術後早期から過度な負荷をかける筋力増強運動は避けるべきですが、全く禁止するわけではありません。植皮片の生着に悪影響を与えない範囲で、関節可動域運動や低負荷の運動は早期から開始することが推奨されます。特に、熱傷患者は安静による筋力低下が著しいため、状態に応じて可能な範囲で運動を導入することが重要です。正しくは:植皮片の安定性を確保しつつ、自動介助運動や軽い抵抗運動など、段階的に筋力増強運動を導入します。特に、非熱傷部の運動は早期から積極的に行います。選びやすい理由:術後早期であることや、植皮術というデリケートな手術であることから、安静を重視して運動を避けるべきだと考えやすいです。混同注意:植皮片の保護と、廃用症候群予防のための早期離床・早期運動のバランスを混同しやすいです。
- 5. 気道熱傷があるものの、植皮術を行った部位が上肢と前胸部であり、下肢には直接的な熱傷がないため、下肢への負荷や循環動態への影響が少ない場合は、全身状態を考慮しつつ早期の起立歩行を促すことが重要です。早期離床は、廃用症候群の予防、呼吸器合併症の軽減、循環機能の維持に寄与します。正しくは:患者の全身状態、特に気道熱傷による呼吸状態や循環動態を慎重に評価した上で、安全が確保されれば早期からの起立歩行を積極的に導入すべきです。選びやすい理由:気道熱傷や高齢であること、大規模な熱傷・植皮術という状況から、患者の全身状態が悪く安静にすべきだと判断しやすいです。混同注意:重症患者に対する絶対安静の必要性と、廃用症候群予防のための早期離床の重要性を混同しやすいです。
国試ポイント
熱傷後の理学療法において、特に拘縮予防のための適切なポジショニングに関する知識が問われています。身体の解剖学的構造と熱傷部位による拘縮の好発部位、それに対する機能的肢位の理解が重要です。また、術後早期の運動療法の原則と、植皮片保護のバランスを問う問題でもあります。
混同注意
熱傷の重症度に応じた早期離床・運動の可否、および植皮後の特定の部位におけるポジショニングの原則(短縮しやすい組織を伸長位に保つこと)について、他の選択肢と混同しやすいです。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出題された場合、熱傷部位とそれに伴う拘縮の好発部位、そしてその拘縮を予防するための具体的なポジショニング(特に伸長位)について、正確な知識があるかを確認する問題が考えられます。また、植皮後の運動負荷の段階付けや、全身状態に応じた早期離床の判断基準も重要になります。
関連知識
熱傷深度(Ⅰ~Ⅲ度)、熱傷面積の算出(9の法則)、熱傷後の合併症(気道熱傷、感染、熱傷性潰瘍、瘢痕拘縮)、理学療法介入の時期と内容(急性期、亜急性期、慢性期)、拘縮予防のためのポジショニング、関節可動域運動(ROM exercise)、筋力増強運動、ADL訓練、装具療法。