52歳の女性。廃用による身体機能の全般的な低下によりバランス能力低下があり、バランス能力の改善を目的とした運動療法を行っている。開始当初、立位保持も困難であったが、現在は立位で物的な介助がなくても左右前後の重心移動が可能となってきている。歩行は平行棒内で両手を支持して軽介助である。次に行うバランス練習として最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第56回理学療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
患者は現在、非支持での立位重心移動が可能であり、平行棒内での両手支持歩行ができる段階です。次に進むべき練習としては、より安定した環境から一歩進んで、支持基底面を狭めたり、支持面を減らしたりしながら、安全に動的バランス能力を向上させることが重要です。片側上肢支持下での立位でのステップ練習は、部分的に支持を保ちつつ、下肢の協調性や支持脚でのバランス能力を養うことができ、平行棒歩行から次の段階(例:杖歩行、非支持歩行)への移行に非常に適した練習です。
選択肢ごとの解説
- 1. 現在の患者さんのバランス能力は、片側上肢支持で立位が保持でき、下肢のステップ練習に進める段階です。杖歩行は、両上肢支持の平行棒歩行からステップアップする選択肢の一つですが、まだ立位での安定性や下肢の運動コントロールが十分に高まっていないため、次のステップとしてはリスクが高い、あるいは少し早い可能性があります。正しくは:杖歩行は、片手支持での立位練習や下肢のステップ練習を通じて、より安定した片手支持での歩行能力が獲得された後に検討する段階です。選びやすい理由:平行棒からの卒業を考える際に、補助具として杖を思い浮かべやすいですが、段階的なステップアップを考慮すると、まだ少し早い可能性があります。混同注意:補助具を用いた歩行練習全般と混同しやすいですが、現在の能力レベルとリスクを考慮すると、より安定した環境での練習が優先されます。
- 2. タンデム歩行(継ぎ足歩行)は、足の接地面積が非常に狭くなり、高いバランス能力を要求される練習です。現在の患者さんの能力(平行棒内で両手支持軽介助歩行)から考えると、上肢支持なしでのタンデム歩行は難易度が非常に高く、転倒リスクが高すぎます。正しくは:タンデム歩行は、非支持での通常歩行が十分に安定し、さらにバランス能力を高めたい場合に実施すべき練習です。選びやすい理由:高度なバランス練習のイメージがあるため、次なる目標として考えられがちですが、現在の能力からすると飛躍しすぎています。混同注意:バランス能力を向上させるための様々な歩行練習と混同しやすいですが、その中でもタンデム歩行は特に高度なものです。
- 3. 上肢支持なしで外乱(押されたり揺らされたりすること)を加える練習は、予測不能な状況に対する反応性バランス能力を養う非常に高度な練習です。現在の患者さんは立位保持は可能になったものの、歩行は平行棒内で両手支持を必要としており、非支持での外乱への対応は転倒リスクが極めて高いです。正しくは:外乱に対する練習は、非支持での立位が完全に安定し、さらにその場で一歩踏み出すなどの反応が十分にできるようになってから導入すべきです。選びやすい理由:動的なバランス能力の向上を目指す上で重要な練習ではありますが、現在の安定度では早すぎます。混同注意:予測的なバランス反応と予測不能なバランス反応を求める練習を混同しやすいですが、予測不能な外乱はより高度な介入です。
- 4. 正解。患者さんは現在、両手支持なしで立位での重心移動が可能であり、平行棒内での両手支持軽介助歩行ができる段階です。この状況で、片側の手で支持を行うことで安定性を確保しつつ、下肢を動かす(ステップする)練習は、支持面を減らしながらも安全性を保ち、歩行につながる動的なバランス能力を段階的に向上させるための非常に適切なステップです。正しくは:この選択肢は正しいため、修正の必要はありません。選びやすい理由:他の選択肢と比べて、現在の能力と目標(歩行への移行)に対するバランスが最も取れています。混同注意:このレベルの練習は、静的バランスから動的バランスへの移行期であり、バランス練習の難易度設定の原則を理解しているかが問われます。
- 5. 両手でボールを保持すると、上肢による支持ができなくなり、重心移動中にバランスを崩した場合のリカバリーが困難になります。現在の患者さんは非支持立位での重心移動は可能になったものの、歩行はまだ両手支持を必要としており、両手を塞いでしまうこの練習は難易度が高く、転倒リスクが増大します。正しくは:両手で物を保持しながらの重心移動は、非支持での立位や簡単な動的バランス練習が十分に安定した後に行うべきです。選びやすい理由:立位での重心移動練習自体は適切ですが、「両手でボールを保持」という条件が付くことで、上肢での支持が奪われ、難易度が不必要に上がっています。混同注意:重心移動練習の目的は理解できても、支持条件の変更による難易度上昇を見落としやすいです。
国試ポイント
バランス練習の段階的難易度設定に関する知識が問われています。患者の現在の能力レベルを正確に評価し、転倒リスクを考慮しながら、次に最適なステップアップを判断する臨床推論能力が必要です。特に、支持基底面、支持方法(非支持、片手支持、両手支持)、動的な要素(重心移動、ステップ、外乱)の組み合わせによる難易度調整が重要になります。
混同注意
バランス練習は多岐にわたるため、様々な練習内容とそれぞれの難易度を混同しやすいです。特に、見た目の派手さや高度な練習効果に目が行きがちですが、患者の現在の能力レベルとリスクを適切に評価し、段階的に難易度を上げていくアプローチが最も重要です。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た場合、まず患者の「現在の能力」と「次の目標」を明確にし、選択肢の中から最も安全かつ効果的に目標に近づける「段階的な介入」を選ぶことが重要です。特に、支持の有無、支持基底面の広さ、動的な要素(重心移動、ステップ、外乱)のレベルを詳細に検討し、転倒リスクを最小限に抑えつつ、最大限の効果が得られる選択肢を選ぶ目を養う必要があります。
関連知識
バランス評価スケール(Berg Balance Scale, Tinettiなど)、バランスの種類(静的、動的、予測的、反応的)、支持基底面と重心の関係、運動学習の原則、転倒予防のためのリハビリテーション。