Aさん(35歳、女性)は、昨年結婚し、夫(50歳)と2人暮らし。最近2か月で5kgの体重減少、首の違和感と息苦しさ、心悸亢進、不眠のため内科を受診した。触診で甲状腺の腫脹、超音波検査で甲状腺内に数か所の石灰化が認められたため、甲状腺腫瘍の疑いで大学病院に紹介された。嗜好品:飲酒はビール700 ml/日を週5日趣味:ジョギングとヨガ 検査の結果、Aさんは甲状腺乳頭癌であり、甲状腺全摘出術を受けることになった。Aさんは、手術前オリエンテーションの際「手術後にどんな症状が起こりやすいのか教えてください」と話した。この時のAさんへの看護師の説明で適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第109回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
甲状腺全摘出術では、甲状腺の裏側に位置する副甲状腺が損傷されたり、血流が阻害されたりして機能が低下するリスクがあります。副甲状腺機能が低下すると、血液中のカルシウム濃度が低下する低カルシウム血症を引き起こし、その結果としてテタニー(手足のしびれ、筋肉のけいれん、つっぱり感)という症状が出現します。「手がつる感じ」はテタニーの一般的な表現であり、患者への説明として適切です。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。甲状腺全摘出術では、甲状腺の裏側にある副甲状腺も一緒に摘出されたり、損傷を受けたりするリスクがあります。副甲状腺はカルシウム濃度を調節するホルモンを分泌しており、その機能が低下すると血液中のカルシウム濃度が低下(低カルシウム血症)します。低カルシウム血症の症状として、テタニー(手足のしびれ、筋肉のけいれん、つっぱり感)が現れることがあります。したがって、「手がつる感じ」は低カルシウム血症によるテタニーの症状を指す説明として適切です。正しくは:この説明は適切です。選びやすい理由:低カルシウム血症は術後の重要な合併症であり、テタニーはその主要な症状です。患者が漠然とした不安を感じている中で、具体的な感覚として伝えやすい表現です。混同注意:他の選択肢も術後合併症に関わるものですが、甲状腺全摘術後の特徴的な合併症として、副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症が挙げられます。声や目の症状は直接的ではありません。
- 2. 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)の場合、眼球突出の症状により目が閉じにくくなることがありますが、甲状腺乳頭癌に対する甲状腺全摘出術では、この症状が直接術後に発現することは通常ありません。むしろ、甲状腺機能低下症の症状として、まぶたの腫れが生じることはありますが、目が閉じにくくなる症状とは異なります。正しくは:「目が閉じにくくなる」ことは、甲状腺全摘出術後の一般的な症状ではありません。選びやすい理由:甲状腺疾患と眼の症状を結びつける知識があるため、混同しやすいかもしれません。しかし、眼症状は主に甲状腺機能亢進症に伴うもので、術後の合併症とは異なります。混同注意:甲状腺機能亢進症における眼症と術後の症状を混同する可能性があります。
- 3. 甲状腺全摘出術では、手術部位の近くを通る反回神経(声帯を動かす神経)を損傷するリスクがあり、これにより嗄声(かすれ声)や発声困難が生じることがあります。しかし、「声が出なくなる」という表現は「全く声が出ない」という意味合いが強く、通常は一時的な嗄声や発声困難が一般的であり、完全に声が出なくなることは稀です。また、声の出にくさが数日~数週間で改善することも多いため、「声が出なくなる」と断言するのは適切ではありません。正しくは:「声が出にくくなる」や「声がかすれることがあります」といった説明の方がより適切です。「声が出なくなる」と断言するのは不正確です。選びやすい理由:反回神経麻痺は甲状腺手術の重要な合併症の一つであり、声に関する症状が出ることは事実です。そのため、一見正しいように思えます。しかし、「声が出なくなる」という強い表現が不適切です。混同注意:反回神経麻痺による声の変化を過度に表現しているため、正しい症状として誤解を招く可能性があります。
- 4. 甲状腺全摘出術後、唾液の分泌量が増加するという直接的な合併症は通常ありません。手術操作による咽頭部の刺激で一時的に不快感があるかもしれませんが、唾液の分泌が「多くなる」というのは一般的な症状ではありません。口腔乾燥は脱水や薬の影響で生じることがありますが、唾液増加は関連性が薄いです。正しくは:甲状腺全摘出術後に唾液が多くなるという症状は一般的ではありません。選びやすい理由:手術後の不快感と関連付けてしまうかもしれませんが、甲状腺手術とは直接的な因果関係がありません。混同注意:手術によるストレスや麻酔の影響と誤解する可能性がありますが、具体的な術後合併症ではありません。
国試ポイント
甲状腺全摘出術後の主要な合併症とその症状に関する知識が問われています。特に副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症とテタニーの関連性は重要です。
混同注意
反回神経麻痺による声の変化(嗄声)は甲状腺手術の合併症として有名ですが、完全に声が出なくなるわけではない点、また低カルシウム血症による症状と区別することが求められます。
次に同じ論点が出たら
患者が「手がつる感じ」を訴えた場合、看護師は低カルシウム血症の可能性を疑い、医師に報告するとともに、血中カルシウム値の確認やカルシウム製剤の内服・点滴の準備、安静の保持などの対応を検討する必要があります。また、症状の程度や持続時間も評価します。
関連知識
甲状腺全摘出術後の合併症:反回神経麻痺(嗄声)、副甲状腺機能低下症(低カルシウム血症、テタニー)、出血、感染。術後の内分泌補充療法(甲状腺ホルモン薬)の必要性。