Aさん(87歳、男性)。3年前にAlzheimer〈アルツハイマー〉型認知症と診断された。1年前に妻が亡くなってから1人で暮らしている。日常生活は問題なく送れていたが、最近Aさんは薬を飲み忘れることが増えてきたり、電話の応対ができなかったりすることがあり、日常生活に支障が出るようになった。 その後、Aさんは、コンロの火を消し忘れることや、買い物に行って自宅に戻れないことが何度もあり、在宅での生活が困難になったため、介護老人福祉施設に入所した。Aさんは自分の思い通りにならないときに、大声を出して暴れることがあった。時折落ち着かない様子で施設内を徘徊することがあったが、看護師が話しかけると、立ち止まり「散歩しています」と笑顔で話していた。ある日、Aさんがエレベーター前に1人で立っていたため、看護師がどこへ行くのか尋ねると、Aさんは「家に帰ります」と言った。このときの看護師の対応として最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第107回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
認知症の患者が「家に帰りたい」と訴える場合、その訴えは不安や混乱から生じていることが多く、直接否定するよりも、いったん訴えを受け止め、気分転換を図ることが重要である。選択肢1は、Aさんの「家に帰ります」という言葉の裏にある「散歩」という認識や、外出への欲求をくみ取り、気分転換と安心感を提供するための適切な対応である。この対応は、認知症患者の行動・心理症状(BPSD)を緩和し、穏やかな状態を維持する効果が期待できる。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。「家に帰ります」という言葉の背景にある、散歩したい、外に出たいという欲求を受け止め、共に散歩することで気分転換を促し、不安を軽減できる。以前「散歩しています」と笑顔で話していたという記述からも、散歩がAさんにとって安心できる行動であることが示唆される。選びやすい理由:患者の訴えを一時的に受け流すように見えるが、実際には患者の感情に寄り添い、行動を肯定的に解釈することで安心感を与える効果があるため。混同注意:患者の訴えを無視している、あるいは一時的なごまかしをしていると誤解すること。
- 2. Aさんは「家に帰ります」と言っており、トイレに行きたいとは言っていない。目的が異なる誘導は、混乱を招き、不信感や抵抗感につながる可能性がある。看護師の都合の良いように解釈して誘導するのは不適切である。正しくは:Aさんの訴えの背景にある感情や欲求を探り、それに対応する別の気分転換や安心できる環境を提供する。選びやすい理由:徘徊の理由がトイレである場合もあるため、一般的な対処法の一つとして選択肢に挙がりやすい。混同注意:徘徊の原因として排泄ニーズを優先的に考えるべきケースと、感情的な要因によるケース。
- 3. Aさんは自力で立っており、転倒の危険性が直ちに高いとは判断できない状況で、いきなり車椅子に誘導することは、身体拘束と受け取られかねず、Aさんの自立性を損ね、不快感や抵抗感を増強させる可能性がある。「転んだら危ないですよ」という言葉も、不安を煽るだけで、Aさんの感情に寄り添うものではない。正しくは:Aさんが安全に歩行できるかを確認しつつ、自立性を尊重した上で、気分転換や安心できる環境を提供する。必要であれば、一緒に歩行を促す。選びやすい理由:転倒予防は重要な看護介入であるため、安全確保を優先しようとする考えから選択肢として魅力的に映る。混同注意:安全確保のための介入と、行動制限や身体拘束の区別。
- 4. 認知症の患者に「入所中なので家には帰れません」と事実を説明しても、多くの場合理解されず、かえって混乱や不安、怒りを引き起こす原因となる。Aさんの訴えの背景にある感情や欲求を受け止めることが重要であり、現実を突きつける対応は不適切である。正しくは:Aさんの「家に帰ります」という訴えに対し、「お家に帰りたいのですね、寂しくなりましたか」などと共感を示し、その上で別の活動へ誘うなど気分転換を促す。選びやすい理由:現実的な説明をすることが正しいと考える傾向があるため、認知症患者特有のコミュニケーションの困難さを理解していない場合に選びやすい。混同注意:健常者に対する事実説明と、認知症患者に対する共感的コミュニケーションの区別。
国試ポイント
認知症患者の行動・心理症状(BPSD)への非薬物的介入、特に傾聴と共感、気分転換による対応の重要性。
混同注意
認知症患者の訴えをすべて妄想と捉え、訂正しようとすることと、感情を受容し不安を軽減すること。
次に同じ論点が出たら
認知症患者の訴えに対して、直接的な否定や訂正を避け、訴えの背景にある感情や欲求に寄り添った対応がなされているか。
関連知識
バリデーション療法、回想法、ユマニチュードなど、認知症ケアにおけるコミュニケーション技術。BPSDは患者の内的世界における合理的な理由から生じている場合が多いという理解。