Aさん(52歳、女性)。自宅で突然激しい頭痛と悪心が出現し、自力で救急車を要請し、搬送された。ジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉I-2で頭痛を訴えており、発汗著明であった。瞳孔径は両側3.0 mm。上下肢の麻痺はない。Aさんは頭部CTでくも膜下出血と診断され、ICUに入室した。入室時のバイタルサインは、体温36.8°C、呼吸数24/分、脈拍92/分、血圧156/98 mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉95 %であった。 Aさんは脳血管造影で右中大脳動脈に動脈瘤が確認され、脳血管内治療(コイル塞栓術)が実施された。その後、Aさんは意識清明で問題なく経過していたが、手術後6日から刺激に対する反応が鈍くなり、閉眼していることが多くなった。意識レベルはジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉II- 10。左上肢はBarré〈バレー〉徴候陽性を示した。Aさんに生じていることとして最も考えられるのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第107回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
脳血管内治療コイル塞栓術後の術翌日から刺激への反応鈍化、閉眼の増加(意識レベルJCSⅡ-10)、左上肢のバレー徴候陽性という症状は、右中大脳動脈の領域における虚血を示唆しています。これは脳動脈瘤破裂後の重篤な合併症である脳血管攣縮の典型的な症状と経過です。脳血管攣縮は術後数日から数週間で発症し、脳虚血症状や意識レベルの低下を来します。特にコイル塞栓術は、その手技自体が血管内皮を刺激し攣縮を誘発する可能性もあります。
選択肢ごとの解説
- 1. けいれん発作の場合、通常は全身性の発作や部分発作としての異常な運動、意識障害などが急激に現れます。設問の症状は刺激への反応が鈍くなり閉眼が増えるという、意識レベルの緩やかな低下と運動麻痺を示唆するものであり、けいれん発作の典型的な経過とは異なります。正しくは:症状が全身性の強直性・間代性けいれんや、局所的な異常運動を示す。選びやすい理由:意識レベルの変化があるため、脳の異常としてけいれん発作を想起する可能性がある。混同注意:意識レベルの低下と脳の異常という共通点はあるが、症状の出現様式や運動症状が異なる。
- 2. 正解。脳動脈瘤破裂後のコイル塞栓術後の術後合併症として、脳血管攣縮はよく知られています。特に術後数日~2週間程度で発症しやすく、意識レベルの低下や新たな神経脱落症状(本症例では左上肢のバレー徴候陽性)が出現することが特徴です。右中大脳動脈の動脈瘤であれば、その支配領域における虚血による症状として左上肢の麻痺(バレー徴候陽性)は整合性が高いです。
- 3. せん妄は意識障害の一つですが、通常は注意力の低下、思考の混乱、幻覚や錯覚などの精神症状が主で、特に夜間に増悪することが多いです。また、運動麻痺(バレー徴候陽性)を伴うことは稀であり、意識レベルの低下の程度もJCSⅡ-10(刺激で開眼するが、見当識障害がある状態)とはやや異なります。せん妄は脳実質病変よりも、全身状態の悪化や薬剤、環境変化などが原因となることが多いです。正しくは:症状が注意力の低下、思考の混乱、幻覚・錯覚などの精神症状である。選びやすい理由:意識レベルの変化と精神状態の変調という点で誤解を招く可能性がある。混同注意:意識障害という共通点はあるが、せん妄は精神症状が主体であり、バレー徴候のような局所神経症状は通常伴わない。
- 4. 再出血の場合、通常は頭痛の増強、意識レベルの急激な悪化、嘔吐、痙攣などの症状が突発的に現れます。設問では術翌日からの緩やかな症状の出現であり、急激な悪化ではないため、再出血の可能性は低いと考えられます。正しくは:症状が突発性の激しい頭痛、意識レベルの急激な低下、嘔吐などを伴う。選びやすい理由:動脈瘤治療後であるため、出血のリスクを考慮しやすい。混同注意:脳の重大な合併症である点は共通するが、症状の出現速度や重症度が異なる。
- 5. 水頭症による意識障害は、髄液の流れの障害によるもので、慢性期に徐々に進行することが多いです。典型的には歩行障害、認知機能障害、尿失禁の三徴候が見られます。術後急性期に意識レベルの低下をきたすこともありますが、左上肢のバレー徴候陽性といった局所神経症状を明確に説明するものではありません。また、意識レベルの低下も、JCSⅡ-10のような軽度な段階から始まることは稀です。正しくは:症状が歩行障害、認知機能障害、尿失禁の三徴候を伴い、通常は慢性的に進行する。選びやすい理由:脳動脈瘤破裂後の合併症として水頭症もあるため、選択肢として考慮される可能性。混同注意:脳合併症である点は共通するが、水頭症の症状はJCSⅡ-10とバレー徴候陽性の組み合わせを直接説明しにくい。
国試ポイント
脳動脈瘤破裂後の治療(開頭クリッピング術やコイル塞栓術)後の合併症に関する知識、特に脳血管攣縮の症状と発症時期について理解しているかが問われます。意識レベルの評価(JCS)と神経学的所見(バレー徴候)を症状と結びつける臨床的判断力も重要です。
混同注意
再出血は急性期の重篤な合併症として認識されやすいですが、症状の出現様式(急激さ)が異なります。せん妄は意識障害ですが、局所神経症状を伴わない点で区別できます。
次に同じ論点が出たら
この患者さんには、直ちに頭部CTや脳血流検査を実施し、脳血管攣縮の確定診断を行い、抗攣縮薬の投与や必要に応じて血管内治療などの介入を検討する必要があります。
関連知識
脳血管攣縮は脳動脈瘤破裂後の予後を左右する重要な合併症であり、その予防と早期発見・治療が極めて重要です。治療にはニモジピンなどのCa拮抗薬投与、昇圧療法、経皮的血管形成術などがあります。バレー徴候は上肢の錐体路障害の有無を評価する身体診察所見の一つです。