Aさん(71歳、女性)は、要介護1で、ベッドからの立ち上がりや入浴などに一部介助を必要とするが、歩行器で室内を移動できる。失禁することがあるため失禁用のパッドを装着している。Aさんは介護老人保健施設の短期入所〈ショートステイ〉を利用している。入所した日の夕方から、水様便と嘔吐とがみられ、感染性胃腸炎が疑われてトイレ付きの個室に移動した。 Aさんは下痢と嘔吐の症状が続き、発症当日の夜から、集中力の低下と頻脈とがみられた。口渇はない。翌朝は症状が軽減したものの、午後になり見当識障害も現れた。Aさんに起きている状態として最も考えられるのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第106回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
Aさんは下痢と嘔吐による体液喪失が持続し、発症初日に集中力低下と頻脈を呈しています。翌日症状が一時改善したものの、同日午後に見当識障害が出現しており、これは電解質バランスの崩れや循環血液量減少による脳血流低下が原因で生じる脱水症状、特に意識障害を伴う中等度から重度の脱水を示唆しています。口の渇きがないのは、高齢者や意識障害のある患者では口渇感が乏しい場合があるため、脱水を否定する所見ではありません。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。下痢と嘔吐による体液喪失、集中力低下、頻脈は脱水の典型的な症状であり、翌日の見当識障害の出現は脱水による電解質異常や脳血流低下に伴う意識障害・脳機能障害を示唆している。高齢者や意識障害のある患者では口渇感が乏しいことがあり、口の渇きがないことのみで脱水を否定できない。選びやすい理由:症状の経過と原因が直接的に結びつくため。
- 2. 硬膜下血腫は頭部外傷後に生じることが多く、見当識障害のような認知機能障害は起こりうるが、下痢や嘔吐、頻脈といった全身症状とは直接関連しない。また、症状の変動や一時的な改善と悪化を繰り返すという経過は、脱水による電解質異常や循環動態の変化によって説明しやすい。正しくは:頭部CTやMRIによる画像診断が必要。外傷歴や神経学的局所症状の有無を確認する。選びやすい理由:見当識障害が出現しているため、脳器質性疾患を想起しやすい。混同注意:脳血管障害やその他の脳疾患
- 3. 認知症の中核症状は、通常、徐々に進行する慢性的な経過をたどる。本症例では、下痢と嘔吐という具体的な身体症状を先行させ、集中力低下や見当識障害が急性または亜急性に出現・変動しているため、急性期の原因疾患、特に脱水によるせん妄を疑うべきである。脱水が改善すれば、見当識障害も改善する可能性があるため、可逆的な状態である。正しくは:認知症は緩徐進行性で、身体疾患や薬剤によるせん妄が否定された上で診断される。せん妄と認知症を区別する。選びやすい理由:見当識障害があるため、認知機能の低下と直結させやすい。混同注意:せん妄、うつ病
- 4. 問題文にAさんが隔離されたという情報はなく、下痢や嘔吐といった身体症状の先行と見当識障害の出現は、隔離という環境要因とは直接関連しない。拘禁症状は、閉鎖的な環境や自由の制限によって引き起こされる精神症状である。正しくは:隔離や拘束の状況が問題文に明示されている場合に考慮する診断である。選びやすい理由:見当識障害は精神症状の一部であり、精神状態の悪化を想起させる可能性がある。混同注意:せん妄、精神疾患
国試ポイント
脱水の病態生理、特に高齢者における症状の現れ方と重症度評価、および鑑別診断を理解すること。
混同注意
認知症の中核症状と脱水による見当識障害は混同しやすいが、脱水は急性発症で可逆性がある点で区別される。硬膜下血腫は外傷既往や神経学的局所症状の有無で鑑別する。隔離による拘禁症状は環境要因が明確であり、発症機序が異なる。
次に同じ論点が出たら
下痢・嘔吐などの体液喪失の原因があるか、発症が急性的か、頻脈や血圧低下などの循環動態の変化があるか、意識レベルや見当識障害の変動があるかを確認し、特に高齢者においては口渇感がない場合でも脱水を疑う。
関連知識
脱水の種類(等張性、低張性、高張性)、脱水重症度分類、高齢者の脱水における非典型的な症状(口渇の欠如、意識障害が先行するなど)、脱水時の検査所見(BUN/Cr比の上昇、ヘマトクリット値の上昇、尿比重の上昇など)、経口補水療法(ORT)の適応と禁忌。