Aさん(71歳、女性)は、要介護1で、ベッドからの立ち上がりや入浴などに一部介助を必要とするが、歩行器で室内を移動できる。失禁することがあるため失禁用のパッドを装着している。Aさんは介護老人保健施設の短期入所〈ショートステイ〉を利用している。入所した日の夕方から、水様便と嘔吐とがみられ、感染性胃腸炎が疑われてトイレ付きの個室に移動した。 感染症の拡大を予防する方法で適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第106回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
排泄介助時は、患者の便や尿が看護師の衣服に付着し、そこから他の患者や環境へ病原体が伝播するリスクが高まります。ガウンを着用することで、看護師の衣服の汚染を防ぎ、接触感染経路を遮断することができます。これは標準予防策および感染経路別予防策の原則に基づいています。
選択肢ごとの解説
- 1. 食事提供時に使い捨て食器を用いることは、主に食中毒などの経口感染予防には有効ですが、あらゆる感染症の伝播を包括的に防ぐ「適切な対応」としては限定的です。食事提供自体が特別な感染リスクを伴う場面とは限りません。正しくは:不要。食事提供時は、通常の食器で適切な洗浄・消毒を行えば十分であり、必ずしも使い捨て食器は必須ではありません。高リスクの感染症患者の場合は検討されますが、一般的ではありません。選びやすい理由:使い捨ては「清潔」というイメージがあり、感染予防に有効だと考えられやすいからです。混同注意:使い捨ての有効性と、状況に応じた費用対効果や環境負荷のバランス。すべての場面で使い捨てが最善とは限りません。
- 2. 汚物が付着した衣類は、適切な洗浄・消毒によって再利用が可能です。焼却処分は、極めて感染力の強い特殊な病原体(例: エボラ出血熱ウイルスなど)による汚染や、リネン類の再利用が困難な場合に限定される非常に厳重な措置であり、一般的な対応ではありません。過剰な対応であり、経済的・環境的にも不適切です。正しくは:汚物が付着した患者の衣類は、適切な方法(例:感染性リネンとしてダブルバッグに入れ、専用の洗濯機で高温洗浄・消毒)で処理し、再利用する。選びやすい理由:「焼却=完全に病原体をなくす」というイメージから、最も確実な感染対策だと誤解されやすいです。混同注意:通常の感染性リネン処理と、特殊な高リスク病原体による汚染時の最終処分方法の区別。過度な滅菌・消毒の必要性との混同。
- 3. 正解。排泄介助時は、患者の排泄物(便や尿)に直接触れたり、跳ね返りによって看護師の衣服が汚染されるリスクが高いです。排泄物には多くの病原体が含まれる可能性があるため、ガウンを着用することで看護師の衣服への病原体付着を防ぎ、接触感染の経路を効果的に遮断できます。これは標準予防策および接触感染予防策の一環として重要です。
- 4. 患者本人の手指消毒は、患者が環境中の病原体を体内に取り込んだり、他の患者や医療従事者に伝播させるリスクを低減する上で有効な場面もありますが、問題文は「感染症の伝播を防ぐための適切な対応」としており、最も一般的な医療従事者による感染対策を問うていると解釈できます。手指消毒はあくまで手指に付着した菌を除去するものであり、体内の感染症自体を治療するものではありません。また、患者自身が適切に手指消毒を行えない場合もあります。正しくは:医療従事者が患者ケアの前後で手指衛生を行う。選びやすい理由:手指消毒は感染対策の基本であるため、選択肢として選びやすいです。しかし、誰が、いつ、どこに消毒するかが重要です。混同注意:医療従事者の手指衛生の重要性と、患者自身の手指衛生の目的。患者自身が行うことの限界と、感染伝播防止の主たる主体が医療従事者であることの理解。
- 5. 歩行器は非critical器具であり、患者の皮膚や粘膜に直接触れることはありません。通常、歩行器などの環境表面の消毒には、アルコール(エタノール)や次亜塩素酸ナトリウムなどが用いられますが、80%エタノールは一般的に用いられる濃度ではありません。通常、医療現場で使われる速乾性擦式手指消毒薬は70〜80%のエタノールを含みますが、環境消毒用としては、低濃度エタノールや次亜塩素酸ナトリウムが推奨される場合が多いです。また、歩行器は広範囲にわたるため、80%エタノールで拭き取ることは効率的・経済的にも適切ではありません。日常的な清拭で十分な場合もあります。正しくは:患者が使用した歩行器は、日常的な清拭や、必要に応じて70%程度のアルコールまたは次亜塩素酸ナトリウム希釈液で拭き取る。選びやすい理由:エタノールが消毒薬として広く認識されているため、消毒に有効だと考えられやすいです。高い濃度であればより効果的だと誤解されやすい。混同注意:アルコール消毒の適切な濃度と対象物。環境表面消毒と手指消毒の違い。全ての消毒薬がすべての状況で最適であるわけではないこと。
国試ポイント
医療現場における感染予防策(標準予防策、感染経路別予防策、個人防護具の適切な使用)の理解と実践が問われています。
混同注意
感染予防策における個人防護具の選択と使用は、状況に応じた適切な判断が求められます。単に「消毒すれば良い」という短絡的な思考や、「滅菌」と「消毒」の違いが混同されやすいです。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出た際は、具体的な状況(処置内容、患者の状態、病原体の種類)と、それに対する適切な感染経路の遮断方法(個人防護具の選択、消毒方法など)が整合しているかを確認して判断します。
関連知識
標準予防策ではすべての患者の血液、体液、分泌物(汗を除く)、排泄物、損傷のある皮膚、粘膜を感染源とみなして対応します。感染経路別予防策には、接触予防策、飛沫予防策、空気予防策があり、それぞれ適切な個人防護具(ガウン、手袋、マスク、N95マスクなど)を使い分けます。