Aさん(73歳、女性)は1人で暮らしており、脳梗塞で入院した。Aさんは左半身に麻痺があり、認知機能障害はない。4点杖を使用して歩行が可能となり、住宅改修をして自宅に退院した。退院後は、降圧薬と抗血栓薬が処方され、服薬管理と健康管理の目的で訪問看護を週1回、調理と買い物代行の目的で訪問介護を週1回利用している。Aさんは「昨日、退院して初めて1人で買い物に行ったら転びそうになって、横にいた人に支えてもらったんです」と訪問看護師に話した。 退院から2か月後、Aさんは杖歩行が安定し、時間をかけて調理や買い物を自分で行うようになった。看護師が訪問したとき、Aさんから「最近トイレに間に合わずに尿が漏れてしまうことがあるんです。恥ずかしいので排泄だけは人の世話になりたくないんです。良い方法があれば教えてください」と相談された。このときの訪問看護師のAさんへの助言で最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第114回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
Aさんの訴えは、尿意を感じてからトイレに間に合わないという切迫性尿失禁の症状を示唆しています。Aさんは身体活動能力が向上しており、排泄の自立を強く希望しています。このような状況では、ご自身の排尿パターン(排尿間隔、排尿量、尿意の有無など)を把握し、それに合わせて計画的にトイレに行く「定時排泄」や「膀胱訓練」を試みることが、最も効果的かつ自立支援に繋がる介入となります。この方法は、患者の主体性を尊重し、積極的な問題解決を促すため、最も適切な助言と言えます。
選択肢ごとの解説
- 1. Aさんの「排泄だけは人の世話になりたくない」という自立への強い希望に反しており、積極的に排泄機能を回復・維持しようとする意欲を損なう可能性があります。また、活動レベルが向上している状況で、最初に選択すべき支援ではありません。正しくは:おむつは最終的な手段の一つであり、まずは排泄の自立を促す介入を優先します。他の方法で効果が見られない場合や、精神的な負担が著しい場合に、一時的または補助的に提案を検討します。選びやすい理由:尿漏れという即座の問題を解決する手軽な方法であるため、有効な手段に思えるかもしれませんが、患者の意思を尊重し、自立を支援するという観点からは適切ではありません。混同注意:重度の認知症や身体機能の低下により、自力での排泄管理が極めて困難な状況と混同しやすいです。Aさんは杖歩行が安定し、自立した生活を送ろうとしている段階であるため、まだおむつを勧める段階ではありません。
- 2. Aさんは杖歩行が安定しており、時間をかけてですが自力で調理や買い物もできるため、身体的な移動能力が著しく低下しているわけではありません。「トイレに間に合わない」という訴えは、移動距離の問題ではなく、尿意切迫や排尿間隔の問題である可能性が高いです。ポータブルトイレの導入は、かえって活動範囲を狭め、ADL低下につながる可能性があります。正しくは:ポータブルトイレは、通常のトイレまでの移動が困難な場合(例:寝たきり、車椅子でトイレの構造上入室が困難な場合など)に検討される手段です。選びやすい理由:トイレまでの距離や時間が短縮され、尿漏れを防げるように思えます。特に夜間など、すぐにトイレに行きにくい状況を想定して提案してしまう可能性があります。混同注意:歩行能力が極端に低下している場合や、トイレまでの導線が非常に長く、間に合わないことが明らかな場合の対応と混同しやすいです。
- 3. 水分摂取の制限は脱水を引き起こす可能性があり、特に高齢者においては慎重に判断すべきです。Aさんの訴えは日中の尿漏れも含まれている可能性があり、夜間だけでなく、一日の水分バランス全体を考慮する必要があります。安易な水分制限は、かえって便秘や泌尿器感染症のリスクを高めることもあります。正しくは:水分摂取については、一日の総量や時間帯を適切に調整するよう指導する場合がありますが、それは医療的な評価の上で医師や管理栄養士と連携して行うべきです。単に「控える」と助言するのは不適切です。また、尿失禁の原因が過剰な水分摂取によるものとは限らず、まずは排尿パターンを把握することが先決です。選びやすい理由:夜間の排尿回数を減らす目的で一般的に言われる対策であり、尿漏れ対策として有効に思えるかもしれません。特に夜間の尿意切迫や頻尿に悩む人に対しては、有効な場合もあります。混同注意:夜間頻尿や夜間多尿の具体的な対策と混同しやすいですが、Aさんの訴えは特定の時間帯に限定されていません。また、安易な水分制限は脱水のリスクを伴うため、慎重なアセスメントが必要です。
- 4. 正解。Aさんは「トイレに間に合わずに尿が漏れてしまうことがある」と訴えており、これは切迫性尿失禁の兆候である可能性があります。排尿間隔を把握し、それに基づいて計画的にトイレに行く(定時排泄や膀胱訓練)ことは、排泄の自立を支援し、尿失禁を予防・軽減するための非侵襲的かつ効果的な方法です。Aさんの「人の世話になりたくない」という希望を尊重し、主体的な関わりを促すことができます。まずは排尿日誌などで自身の排尿パターンを把握することから始め、計画的な排泄を試みるのが最も適切な第一歩です。
国試ポイント
高齢者の尿失禁に対する初期介入、特に切迫性尿失禁への非薬物療法。患者のADLレベルと希望を考慮した自立支援の視点が問われています。具体的な状況と患者の思いを踏まえた、訪問看護師の適切なアセスメントと助言能力が評価されます。
混同注意
介護用品(おむつ、ポータブルトイレ)の安易な導入と、排泄機能の維持・改善に向けた自立支援が混同しやすいです。また、症状の原因を特定せずに水分制限を行うことの危険性についても理解が必要です。
次に同じ論点が出たら
同様の論点では、まず患者の現状の身体機能レベルと自立への意欲を確認し、どのような失禁のタイプが疑われるかをアセスメントすることが重要です。その上で、最も低侵襲かつ患者の主体性を尊重し、機能回復を促す介入がどれかを判断します。安易な介護用品の導入や、身体への負担が大きい介入は避けるべきです。
関連知識
尿失禁の種類(切迫性、腹圧性、溢流性、機能性など)、それぞれの原因と管理方法。膀胱訓練、定時排泄、骨盤底筋体操などの非薬物療法。高齢者の排泄ケアにおける脱水・便秘・皮膚トラブルの予防。患者中心のケアとエンパワメント。