Aさん(65歳、男性)は、妻と自営業を営んでおり、2人で暮らしている。2か月前に仕事で大きな失敗をし、謝罪と対応に追われ、あまり夜に眠れなくなり、食欲不振が続いている。1か月前から気分が落ち込み、仕事で妻から間違いを指摘されたことで自信をなくしていた。Aさんは死んでしまいたいと思い、夜に自宅でロープを使って自殺を図ろうとしたところを妻に見つけられた。妻に付き添われ、精神科病院を受診し、うつ病と診断された。受診当日に入院し、抗うつ薬の内服が開始された。Aさんは「生きていても仕方がない。どうせ誰も分かってくれない」と看護師に話した。 入院1か月が経過し、Aさんは夜間の睡眠がとれるようになり、食事は全量摂取している。妻から間違いを指摘されたことを思い出し、「何をやってもきっと失敗するだけだ。今度はもっと大きな失敗をして仕事を辞めることになる。だから自分はだめな人間だ。努力しても意味がない」と看護師に言った。Aさんへの治療法で最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第113回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
Aさんの「何をやってもきっと失敗するだけだ」「今度はもっと大きな失敗をして仕事を辞めることになる」「だから自分はだめな人間だ」「努力しても意味がない」といった発言は、悲観的な未来予測、自己否定的なスキーマ、無力感といった、抑うつ状態によく見られる認知の歪みを示唆しています。認知行動療法は、このような自動思考や非機能的思考パターンを特定し、その妥当性を検討し、より現実的で適応的な思考に修正していくことを目的とします。抑うつ病の主要な精神療法であり、Aさんの状態に最も適切な介入と考えられます。
選択肢ごとの解説
- 1. 森田療法は、あるがままを受け入れ、症状を克服するのではなく、症状があっても行動を続けることを重視する治療法です。強迫神経症や不安障害などに適用されることがありますが、Aさんの「努力しても意味がない」「自分はだめな人間だ」という認知の歪みに対する直接的なアプローチとは少し異なります。正しくは:Aさんの認知の歪みに対しては、森田療法よりも認知行動療法がより直接的な介入となります。選びやすい理由:不安や抑うつが根底にある場合、精神療法の一つとして想起されるかもしれませんが、Aさんの状況に最も合致するものではありません。混同注意:認知行動療法と混同しがちですが、森田療法は『あるがままの自己』を受容し、症状と共存しながら行動を促す点が異なります。
- 2. 集団精神療法は、集団内での相互作用を通じて自己理解を深めたり、対人関係スキルを向上させたりする目的で行われます。Aさんの訴えは、自己評価の低下や将来への悲観的な見方という認知の歪みが顕著であり、まずは個別の認知の修正に焦点を当てる方が適切と考えられます。正しくは:個別の認知の歪みが強い場合、集団精神療法よりも、まずは認知行動療法で個別の認知の修正を図るのが適切です。選びやすい理由:精神疾患全般に用いられることがありますが、Aさんの特定の認知の歪みに対して最も直接的なアプローチではありません。混同注意:個別精神療法と集団精神療法は目的が異なります。集団精神療法は対人関係や社会性の向上に主眼を置きます。
- 3. 正解。Aさんの「何をやってもきっと失敗するだけだ」「自分はだめな人間だ」「努力しても意味がない」といった発言は、悲観的で自己否定的な認知の歪みを示しています。認知行動療法は、このような非合理的な思考パターンや認知の歪みを特定し、それらをより現実的で適応的なものに修正していくことを目的とします。抑うつ症状の改善に非常に効果的であり、Aさんの状態に最も適した治療法です。正しくは:(正答のため修正不要)選びやすい理由:他の精神療法も効果的ではありますが、Aさんの具体的な言葉から読み取れる認知の歪みに対する直接的な介入は認知行動療法が最も適しています。混同注意:心理療法全般と混同しがちですが、認知行動療法は特に思考や行動パターンに焦点を当てて修正を図る点が特徴です。
- 4. 社会生活技能訓練(SST)は、対人関係や日常生活に必要なスキル(病状管理、服薬管理、金銭管理、就労支援など)を身につけることを目的とした訓練です。Aさんは認知の歪みによる自己評価の低下が問題となっており、直接的に社会生活技能の欠如が示されているわけではありません。まずは認知の歪みを修正することが優先されます。正しくは:SSTは具体的な生活技能の獲得を目指しますが、Aさんの問題は認知の歪みによる自己評価の低下であるため、まずは認知の修正が優先されます。選びやすい理由:精神科リハビリテーションの一環として行われることが多いですが、Aさんの現在の主訴に最も直接的にアプローチするものではありません。混同注意:SSTは具体的な行動や技能の訓練であり、認知行動療法のように思考パターンを修正する直接的な目的とは異なります。
国試ポイント
抑うつ状態にある患者の思考パターン(認知の歪み)を読み取り、それに対する適切な治療法を選択できるかどうかが問われています。特に、自己否定や悲観的な予測が顕著な場合に、認知行動療法が有効な選択肢であることを理解しているかが重要です。
混同注意
森田療法、集団精神療法、SSTといった他の精神療法も精神疾患の治療に用いられますが、それぞれ適用される病態や治療の焦点が異なります。Aさんの具体的な発言から、どの治療法が最も直接的かつ効果的かを見極める必要があります。
次に同じ論点が出たら
Aさんの認知の歪みの具体的な内容(例:全か無か思考、過度の一般化、破局的思考など)をさらに詳細にアセスメントし、個別の認知行動療法プランを立案する。治療の進捗に応じて、服薬状況の確認や必要に応じた多職種連携を検討する。
関連知識
認知行動療法の基本原則(自動思考、スキーマ、認知の歪み)、主要な精神疾患における認知行動療法の適応(うつ病、不安障害、PTSDなど)、他の精神療法の概要と適応。