Aさん(86歳、女性)は、生まれ育った地域で、近所に住む友人と交流しながら1人で暮らしていた。買い物へ行く途中に転倒し、腰椎圧迫骨折で入院治療を受けた。退院後は他県に住む長女夫婦と同居している。暮らし始めて間もなく、Aさんは「私はここで暮らして、新しい友人ができるかしら」と長女に訴えるようになり、徐々に口数が少なくなった。このときのAさんの状況はどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第113回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
Aさんは、長年住み慣れた地域を離れて他県の長女夫婦と同居することになり、生活環境が大きく変化しました。この急激な環境の変化により、「新しい友人ができるかしら」という不安や口数の減少といった心理的・社会的な適応障害が生じており、これは高齢者に見られやすいリロケーションダメージ(転居症候群)の典型的な症状です。
選択肢ごとの解説
- 1. これは高齢者が社会的な活動を避け、自宅に引きこもる状態を指しますが、Aさんの訴えや行動は、新しい環境への適応困難から生じる心理的なストレス反応が原因であり、その結果として口数が減っています。閉じこもりはその後の状態の一つとなりえますが、この時点での主要な原因を示すものではありません。正しくは:「閉じこもり」は、長期にわたり自宅から出ず、社会参加をしない状態を指します。Aさんの場合は、転居に伴うストレスが原因で活動量が低下している過程であり、この時点では「リロケーションダメージ」として捉えるのが適切です。選びやすい理由:口数が少なくなった、という記述から、人との交流を避けている状態と捉え、閉じこもりを連想しやすいため。混同注意:リロケーションダメージによって引き起こされる可能性のある症状の一つですが、リロケーションダメージが根本的な原因であり、閉じこもりはその結果や進行した状態を指します。
- 2. 廃用症候群は、長期臥床や活動量の低下によって身体機能や精神機能が低下する状態です。Aさんは腰椎圧迫骨折で入院治療を受けましたが、現在の訴えは身体的な機能低下ではなく、新しい環境への適応に関する心理的な不安や社会的な孤立感が中心です。正しくは:廃用症候群は、筋力低下、関節拘縮、起立性低血圧、認知機能低下など、身体活動の減少に起因する症状が主です。Aさんの場合、心理的・社会的な問題が前面に出ています。選びやすい理由:入院治療を受けたという記述から、身体的な活動が制限された期間があったことを連想し、廃用症候群を疑いやすいため。混同注意:身体的な原因(入院・安静)と心理的な原因(環境変化)の区別が曖昧な場合、混同しやすい。
- 3. セルフ・ネグレクトは、自身の健康や安全、生活環境を維持するための適切なケアを怠る状態を指します。Aさんの「新しい友達ができるかしら」という不安や口数が少なくなるという状況は、セルフ・ネグレクトの症状とは異なります。正しくは:セルフ・ネグレクトは、不潔な環境での生活、栄養失調、医療受診拒否など、自己管理能力の低下が顕著な状態を指します。Aさんの状況は主に精神的な適応の問題です。選びやすい理由:高齢者の問題行動として知られているため、一般的な高齢者問題の選択肢として選びたくなる可能性がある。混同注意:心理的な問題や生活上の困難が高齢者に見られると、漠然とネグレクトと結びつけてしまうことがある。
- 4. 正解。リロケーションダメージとは、高齢者が住み慣れた環境から新しい環境へ移り住むことで経験する心身の不調や適応障害のことです。Aさんは長年住んだ地域から他県の長女宅へ転居し、その後「新しい友人ができるか」という不安や口数の減少が見られることから、まさにこの状態に該当します。環境変化による心理的ストレスが原因です。
国試ポイント
高齢者が住み慣れた環境から新しい環境へ移る際に生じる精神的・身体的な不調(リロケーションダメージ)の概念とその典型的な症状を理解しているか。他の高齢者によく見られる状態(閉じこもり、廃用症候群、セルフ・ネグレクト)との鑑別が重要である。
混同注意
閉じこもりはリロケーションダメージの結果として生じうる症状ですが、リロケーションダメージは環境変化による適応障害という根本的な原因を指します。廃用症候群は身体活動低下によるもので、リロケーションダメージは環境変化による心理的ストレスが主因です。
次に同じ論点が出たら
高齢者の環境変化によるストレス反応について、具体的な症状(例:不眠、食欲不振、抑うつ、攻撃的言動など)と、その対処法やアセスメントポイントを問う問題が出題される可能性がある。
関連知識
高齢者の転居や施設入所時の心理的ケア、環境適応支援、ソーシャルサポートの重要性。高齢者の喪失体験(環境、友人、役割など)と悲嘆プロセス。