Aさん(81歳、男性)は、妻(73歳)と2人暮らし。自宅でのADLは自立し、認知機能に障害はない。Aさんは食欲不振と腹部不快感、微熱を主訴に受診したところ、急性胆囊炎と診断され、その日のうちに入院した。Aさんのバイタルサインは、体温37.3°C、呼吸数22/分、脈拍90/分、血圧136/84 mmHg。入院後は絶飲食の指示があり、持続点滴静脈内注射と抗菌薬の投与が開始された。トイレ歩行の許可は出ている。 入院後2日、妻がAさんについて「入院してからよく寝ています。時々ここが病院だとわからないようです。話しかけても気づかず、天井を眺めていることもあるし、しゃべり続けることもあります」と看護師に訴えた。Aさんのバイタルサインは、体温36.9°C、呼吸数20/分、脈拍88/分、血圧144/80 mmHg。Aさんの状態で最も考えられるのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第109回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
設問に記載されている患者Aさんの症状、「よく寝ているが、時々ここが病院だとわからない(見当識障害)」「話しかけても気づかず天井を眺めていることがある(意識レベルの低下、注意障害)」「しゃべり続けることもある(精神運動性興奮)」は、時間帯や状況によって症状が変動する急性の意識障害を伴う精神運動性の変化であり、せん妄の典型的な特徴を示しています。せん妄は身体的要因や薬剤、環境変化などにより、特に高齢者や入院患者に多く見られます。
選択肢ごとの解説
- 1. うつ病は気分障害の一種で、持続的な抑うつ気分、興味の喪失、不眠や過眠、食欲不振や過食、疲労感などが主な症状です。設問にあるような見当識障害や日中の意識レベルの変動、不穏や興奮といった症状は典型的ではありません。正しくは:うつ病であれば、持続的な気分の落ち込み、活動意欲の低下、集中力の欠如、睡眠障害(不眠・過眠)、食欲不振などが主症状となります。選びやすい理由:睡眠の変化や「天井を眺めている」といった行動から、気分の落ち込みを連想する可能性はありますが、見当識障害や話しかけに気づかないといった意識障害の症状とは異なります。混同注意:認知症やせん妄と混同しやすいですが、うつ病は認知機能の障害が主ではなく、気分症状が中心です。認知症の初期症状として抑うつがみられることもありますが、せん妄の急速な発症と変動する意識障害とは異なります。
- 2. 正解。せん妄は、急性の意識障害で、注意力の低下、思考のまとまりのなさ、見当識障害(場所や時間が分からない)、精神運動性の興奮または抑制(活動的になったり、ぼんやりしたり)、睡眠覚醒リズムの障害などが特徴です。設問の「よく寝ています」「時々ここが病院だとわからない」「話しかけても気づかない」「天井を眺めていることもあるし、しゃべり続けることもあります」という記述は、せん妄に典型的な症状(意識レベルの変動、見当識障害、精神運動興奮と抑制の混合)と一致します。バイタルサインが比較的安定している点も、発熱などの明らかな身体症状がないせん妄患者ではあり得ます。
- 3. ナルコレプシーは、日中の耐えがたい眠気と、急激な睡眠発作を特徴とする慢性的な神経疾患です。情動脱力発作(カタプレキシー)を伴うこともあります。設問中の「よく寝ています」という点では関連性があるように見えますが、見当識障害や意識レベルの変動、不穏や興奮、独語といった症状はナルコレプシーの典型的症状ではありません。正しくは:ナルコレプシーであれば、日中の突然の強い眠気、短時間の居眠り、笑ったり怒ったりした時に体の力が抜ける情動脱力発作が主な症状となります。選びやすい理由:「よく寝ています」という情報から睡眠障害の一種を連想するかもしれませんが、せん妄に見られる意識変容や見当識障害とは全く異なる病態です。混同注意:他の睡眠障害(例:睡眠時無呼吸症候群)や、単なる睡眠不足と混同しやすいですが、ナルコレプシーは中枢神経系の覚醒維持機能の障害です。
- 4. 急性ストレス反応は、極度のストレスを受けた後に短期間(通常数時間から数日)出現する不安、恐怖、解離症状(現実感の喪失、離人感など)、精神運動性興奮や抑制などの反応です。入院というストレスはあり得ますが、設問にあるような「ここが病院だとわからない」といった見当識障害や、意識レベルの変動、独語といった具体的なせん妄症状とは異なります。解離症状で見当識が一時的に障害されることはありますが、意識レベルの変動や精神運動性の変動がこれほど明確な場合は、まずせん妄を疑います。正しくは:急性ストレス反応であれば、強い不安や恐怖、悪夢、過覚醒、特定の出来事に関する記憶の障害などが主な症状となります。選びやすい理由:入院という環境変化がストレスとなり、精神的な不安定さを生じると考え、選択肢として選びやすいかもしれません。しかし、意識レベルの変動や見当識障害といったせん妄に特徴的な症状とは区別が必要です。混同注意:PTSD(心的外傷後ストレス障害)や適応障害と混同しやすいですが、急性ストレス反応はより短期間で、特定の強いストレス要因に直後に出現するものです。せん妄のような器質的・身体的要因による意識障害とは異なります。
国試ポイント
高齢者や入院中の患者にみられるせん妄の症状を正確に理解し、他の精神疾患や睡眠障害と鑑別できるかが問われています。特に、意識レベルの変動、注意障害、見当識障害、精神運動性の興奮・抑制が混合して見られる点がせん妄の重要なポイントです。
混同注意
せん妄はうつ病、認知症、統合失調症など、他の精神疾患と混同されやすいです。うつ病との鑑別では、せん妄は意識レベルの変動や急激な発症、見当識障害が特徴的であり、うつ病は気分症状が中心です。認知症との鑑別では、せん妄は急性の発症で変動性が高く、回復可能性があるのに対し、認知症は慢性的に進行し不可逆的です。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出た場合、まず「意識レベルの変動」と「見当識障害」の有無を確認し、これらが認められる場合はせん妄を第一に疑う。次に精神運動性の興奮・抑制のどちらか一方だけでなく、両方が混在して見られる点にも着目する。
関連知識
せん妄の誘発因子(身体的疾患、薬剤、環境変化、脱水など)、せん妄の予防的看護(五感を刺激する、昼夜のメリハリ、早期離床など)、せん妄時の看護介入(安全確保、環境調整、コミュニケーション、傾聴など)についても理解しておく必要があります。