Aさん(23歳、女性)は大学を卒業後、会社に就職して1人暮らしを始めた。入社後に「会社の制服が似合うようになりたい」とダイエットを始め、次第にるいそうが目立つようになった。「太るのが怖い」と言って食事を拒否するようになり、体重は1年間で10 kg減少した。しかし、本人は「まだ太っているから、痩せないといけない」と話していた。久しぶりにAさんと会った母親が、過度のるいそうを心配して、内科受診を勧めた。内科ではるいそう以外に大きな異常を認めず、精神科受診を勧められた。精神科では神経性無食欲症と診断され、外来通院を開始した。その後、低血糖によるふらつきのため職場で頻回に転倒するようになった。それでも食事を十分に摂らないため、精神科病棟へ入院した。入院時、身長166 cm、体重36 kgであった。入院後、食事のほかに点滴による栄養補給が始まった。 入院後3か月が経過した。Aさんは体重が41 kgまで増加し、主治医と相談して、退院の準備をすることになった。看護師に対して、Aさんは「退院後はすぐに仕事をしたい」と話したが、母親は「ゆっくり自宅で休養してほしい」と話した。母親の面会時に、今後の仕事や生活に関する話題が出ると、Aさんはイライラして母親と口論になることが多くなった。父親は仕事が忙しいことを理由に、面会に来たのは一度のみであった。今後導入する必要性が最も高いのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第111回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
Aさんと母親の間で、退院後の生活方針(仕事 vs. 休養)に関して意見の対立があり、それが口論に発展している。父親も関与が薄い状況で、家族内のコミュニケーション不全が明らかである。退院後の生活は家族全体の協力が不可欠であるため、この家族間の葛藤を解決し、協調体制を築くためには、家族全体を対象とした家族療法が最も効果的な介入策となる。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。患者Aさんと母親の間で退院後の生活方針(仕事か休養か)に関して意見の対立があり、頻繁な口論に発展している。また、父親も家庭内の問題に関与が少ない状況である。このような家族間のコミュニケーションの課題や機能不全に対しては、家族全体を対象とした介入である家族療法が最も適切であり、家族関係の改善や問題解決に繋がる可能性が高い。特に、退院後の生活設計は家族全体の協力が不可欠であるため、家族間の調整が急務となる。
- 2. 作業療法は、身体的・精神的な機能障害を持つ人が、日常生活活動や社会生活活動を円滑に行えるように、具体的な作業活動を通して支援するものです。本事例では、Aさんの活動能力に関する具体的な情報や、具体的な作業活動の必要性については述べられていません。主に家族間の葛藤が問題の中心であり、作業療法は直接的な解決策とはなりません。正しくは:Aさんの機能回復や社会適応訓練が必要な場合に選択肢となります。選びやすい理由:「退院後はすぐに仕事をしたい」というAさんの発言から、仕事復帰を支援する作業療法を連想するかもしれませんが、現在の最も緊急性の高い問題は家族間の対立です。混同注意:心理社会的リハビリテーションの一環としての作業療法と、家族間の対人関係療法との違い。
- 3. 自律訓練法は、自己暗示によって心身のリラックス状態を導き、ストレスや不安の軽減を図るための技法です。Aさんがイライラしているという記述はありますが、これは家族との口論という状況に起因するものであり、Aさん個人のストレス管理だけでは家族間の対立は解決できません。根本的な問題解決には至りません。正しくは:Aさんの個人的なストレスや不安症状が強く、リラクゼーションが必要な場合に選択肢となります。選びやすい理由:「イライラして」という記述から、個人の精神状態を落ち着かせる方法として自律訓練法を思いつくかもしれませんが、問題の核心は家族間の相互作用にあります。混同注意:個人的なストレス対処法と、家族全体のコミュニケーション改善アプローチの違い。
- 4. 精神分析療法は、患者の無意識の葛藤や過去の体験を深く掘り下げ、その理解を通して現在の問題解決を図る長期的な心理療法です。本事例は、退院という具体的な時期が迫っており、家族間のコミュニケーションの問題が喫緊の課題となっています。精神分析療法は通常、数ヶ月から数年といった長期間を要するため、現在の状況において最も必要性が高いとは言えません。正しくは:患者個人の根深い心理的葛藤やパーソナリティの偏りなど、根本的な原因を探る必要がある場合に選択肢となります。選びやすい理由:「イライラして口論になる」という状況から、Aさんの内面に何か問題があるのではと考えるかもしれませんが、精神分析療法は即効性や家族全体への直接的な介入を目的とするものではありません。混同注意:短期的な問題解決志向のアプローチ(例:家族療法)と、長期的な自己理解を深めるアプローチ(例:精神分析療法)の違い。
国試ポイント
この問題は、患者の抱える問題が個人レベルだけでなく、家族関係や家族システムに起因する場合に、どのような介入が最も適切かを判断する能力を問うものである。特に、精神科看護や地域看護において、患者を支える家族の機能や関係性をアセスメントし、適切な援助を選択する重要性が問われている。退院支援における家族の役割と、それに伴う家族間の調整の必要性を理解しているかが鍵となる。
混同注意
個人の精神症状への介入(自律訓練法、精神分析療法)と、家族システムへの介入(家族療法)の区別。また、機能訓練を主とする作業療法と、心理社会的側面を扱う療法との違い。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出た場合は、まず問題の核心が「患者個人の問題」なのか「家族間の相互作用の問題」なのかを明確に判断する。その上で、各選択肢の治療法が「個人」を対象とするのか「家族」を対象とするのか、また「短期的な問題解決」に適しているのか「長期的な根本解決」に適しているのかを検討する。
関連知識
家族機能論、家族システム論、精神疾患患者の退院支援、ストレス対処法、各種心理療法の適用範囲と目的。