Aさん(19歳、男性、専門学校生)は、1人暮らし。「皆が自分を嫌っている」と言い、昨年から学校を休学し、アパートに引きこもるようになった。先週、夜中に大声で叫ぶ日が続いたため、アパートの管理人が両親へ連絡をした。連絡の翌日、Aさんの両親が訪ねてみると、Aさんは「隣の人に嫌がらせを受けている。助けてくれ」と叫び続けたため、両親とともに精神科病院へ行き、その日のうちに任意入院となった。Aさんは統合失調症と診断され、抗精神病薬による治療が開始された。 入院後1か月。Aさんは洗面所でボーッとしていることが多くなり、頭痛や倦怠感を訴えることが多くなった。身体所見:身長170 cm、6時の体重60 kg、17時の体重63 kg、体温36.4°C、呼吸数18/分、脈拍76/分、血圧124/70 mmHg。検査所見:クレアチンキナーゼ〈CK〉190 IU/L〈U/L〉、空腹時血糖102 mg/dL、HbA1c 5.0 %、Na 128 mEq/L、K 3.5 mEq/L、総コレステロール180 mg/dL、HDLコレステロール45 mg/dL。Aさんの状況で最も考えられるのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第108回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
Aさんの血清ナトリウム値が128 mEq/Lと低値(低ナトリウム血症)であり、体重が1日で3kg増加していることから体液量の増加が示唆されます。これと「洗面所で何もせずに立ち尽くしている」「頭痛や全身の倦怠感」といった症状から、精神疾患治療中に見られることのある水中毒を最も強く推測できます。水中毒は、抗精神病薬の副作用による口渇感亢進や、精神病性多飲などによって過剰な水分摂取が起こり、希釈性の低ナトリウム血症を呈する病態です。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。血清ナトリウム値128 mEq/Lは低ナトリウム血症であり、1日の体重増加3kgは体液量の過剰を示唆します。精神科患者によく見られる多飲と関連し、洗面所で立ち尽くす、頭痛、倦怠感といった症状と合致するため、水中毒が最も推測されます。選びやすい理由:症状、検査値の全てが水中毒の特徴と一致するため、他に誘惑される要素は少ないです。混同注意:急性期の精神科救急疾患(悪性症候群、セロトニン症候群など)
- 2. 悪性症候群では、発熱、意識障害、錐体外路症状(筋硬直、振戦など)、自律神経症状(頻脈、血圧変動、発汗など)を呈しますが、Aさんの体温は36.4℃と正常であり、筋硬直などの症状の記載もありません。クレアチンキナーゼ(CK)の軽度上昇(190 IU/L)は水中毒でも見られうるため、悪性症候群の診断には決め手になりません。正しくは:発熱、筋硬直、意識障害、CKの著明な上昇、白血球増加などを呈する。選びやすい理由:精神科薬物療法中に起こりうる重篤な合併症であり、CK軽度上昇が見られるため、選択肢として考慮されやすいです。混同注意:水中毒、セロトニン症候群
- 3. セロトニン症候群では、精神症状(不安、興奮、混乱)、自律神経症状(発汗、頻脈、高血圧、発熱)、神経筋症状(振戦、ミオクローヌス、筋硬直、反射亢進)が特徴的です。Aさんの症状にはこれらの特徴的な所見がなく、体温も正常です。正しくは:精神症状(不安、興奮、混乱)、自律神経症状(発汗、頻脈、高血圧、発熱)、神経筋症状(振戦、ミオクローヌス、筋硬直)などを呈する。選びやすい理由:精神科薬物療法中に起こりうる重篤な合併症であるため、選択肢として考慮されやすいです。混同注意:悪性症候群、水中毒
- 4. メタボリック症候群は、内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうち2つ以上を合併した状態を指します。Aさんの血糖、HbA1c、血圧、コレステロール値は異常値ではなく、現在のBMIも170cm/60kgで20.7と肥満ではありません。また、メタボリック症候群は急性期の症状や「立ち尽くす」「頭痛」「倦怠感」といった症状とは直接関連しません。正しくは:腹囲、血圧、血糖、HDLコレステロール、中性脂肪の基準値逸脱の有無で診断され、通常は急性症状を呈さない。選びやすい理由:健康診断などでよく耳にする病態であり、検査項目に血糖やコレステロール値が含まれているため、関連があるように見えるかもしれません。混同注意:他の精神科関連の緊急疾患
国試ポイント
精神科領域における水中毒の病態、症状、検査値所見(特に低ナトリウム血症と体重増加)を理解する。
混同注意
悪性症候群やセロトニン症候群は精神科領域の緊急疾患であり、水中毒と鑑別が必要ですが、発熱や筋硬直などの症状が異なります。メタボリック症候群は生活習慣病であり、急性期の症状とは結びつきにくいです。
次に同じ論点が出たら
今後同様の症例が出た際には、「低ナトリウム血症」と「体重の急激な増加」、そして精神科疾患の既往や精神症状の有無を総合的に判断します。
関連知識
水中毒の治療には水分制限が中心となり、重症例では高張食塩水の点滴も検討されます。精神疾患患者における水分摂取量のモニタリングの重要性も併せて覚える必要があります。