Aさん(68歳、女性、事務員)は夫(74歳、事務所長)と息子(39歳、会社員)と3人で暮らしている。現病歴:2か月前に自宅の廊下で転倒し、壁に右前額部をぶつけたが、そのまま様子をみていた。3週前から軽い頭痛があり、左上下肢の脱力感と言葉が出にくいなどの症状が出現した。かかりつけの病院を受診し、慢性硬膜下血腫と診断され、入院して穿頭ドレナージ術を受けた。既往歴:48歳から左変形性膝関節症で鎮痛薬を内服し、医師から体重コントロールを指導されていた。58歳から高血圧症と脂質異常症のため内服治療中であった。生活歴:入院前の日常生活動作〈ADL〉は自立しており、左膝関節痛のため室内は壁や家具に手をついて移動し、外出時はT字杖を使用していた。家事をしながら夫の事務所を手伝っていた。身体所見:身長154 cm、体重72 kg。 手術後5日、Aさんは左上肢に軽度の麻痺はあるが、病棟内を歩行器でゆっくりと歩けるようになった。Aさんは、歩き始めると徐々に右側に寄っていく。また、左側の壁に歩行器をぶつけそうになったり、Aさんの左側に看護師がいても気が付かず、そのまま通り過ぎようとしたりする。このときのAさんの状況で考えられるのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第115回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
Aさんは、歩き始めると徐々に右側に寄っていく、左側の壁に歩行器をぶつけそうになる、Aさんの左側に看護師がいても気が付かず通り過ぎようとする、といった症状は、左側の空間の存在を認識できない「半側空間無視」の典型的な徴候です。これは右脳の病変、特に右頭頂葉の障害で生じやすく、Aさんの慢性硬膜下血腫が右前額部にあったことと整合します。
選択肢ごとの解説
- 1. 左変形性膝関節症の悪化は、歩行時の疼痛や不安定性を増しますが、歩行器で右に寄っていく、左の壁にぶつかりそうになる、左側の看護師に気づかないといった半側空間無視に特徴的な行動とは直接関連しません。正しくは:この症状は膝の痛みや機能障害によるものではなく、脳機能に関連する症状です。選びやすい理由:既往歴に左変形性膝関節症があり、歩行障害に関連する可能性があるため、選択肢として考えやすいです。混同注意:単純な運動器疾患による歩行障害と高次脳機能障害による歩行時の空間認識障害。
- 2. 正解。Aさんの「歩き始めると徐々に右側に寄っていく」、「左側の壁に歩行器をぶつけそうになる」、「Aさんの左側に看護師がいても気が付かず、そのまま通り過ぎようとする」という一連の行動は、左側の空間に対する注意の障害であり、半側空間無視の典型的な症状です。選びやすい理由:症状が直接的に半側空間無視の特徴を示しており、鑑別が比較的容易です。混同注意:視野障害や失認。
- 3. 聴覚障害の場合、音の聞こえが悪くなりますが、Aさんの症状は空間の認識や注意の障害であり、聴覚とは直接関係ありません。看護師に気づかないのは左側空間の無視によるもので、音が聞こえないわけではありません。正しくは:聴覚障害であれば、音への反応が鈍くなったり、声が聞こえないといった症状が出現します。本症例の空間認識の障害とは異なります。選びやすい理由:コミュニケーションの問題と捉え、漠然と感覚器の障害と結びつけやすいですが、症状が聴覚に限定されていません。混同注意:失語症や他の感覚障害。
- 4. 視野障害は視覚入力そのものに欠損が生じる状態ですが、Aさんの症状は左側の空間を認識できない(注意が向かない)ことであり、必ずしも左眼の視力や視野が欠損しているわけではありません。特に、左側の看護師に気づかないのは視野の欠損ではなく、左空間への注意の欠如によるものです。正しくは:視野障害であれば、眼球運動や視線に異常が見られることが多く、特定の視野範囲が見えないと自覚することが一般的です。半側空間無視は視覚情報そのものは入力されていても、脳がそれを認識・処理できない状態です。選びやすい理由:「左側に気づかない」という表現から、視覚情報の問題と連想しやすいためです。混同注意:半盲などの視野障害。
国試ポイント
脳血管障害や頭部外傷後の高次脳機能障害、特に半側空間無視の症状と特徴的な行動パターンを理解しているか問う問題です。患者の行動観察から具体的な症状をアセスメントする能力が重要です。
混同注意
視野障害と半側空間無視は混同しやすいですが、視野障害は視覚情報の入力自体が欠損するのに対し、半側空間無視は視覚入力はあっても脳がその空間情報を認識・注意を向けられない状態です。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出た場合、患者の行動が特定の空間(左右どちらか)に対する認識の欠如や注意の偏りを示しているか否かを最も重視して判断します。
関連知識
半側空間無視は、右半球(特に頭頂葉)の損傷で左側空間に生じることが多く、無視側の着衣忘れ、食事の食べ残し、ぶつかるなどの症状が見られます。治療はリハビリテーションが中心で、無視側の注意を促す練習を行います。