Aさん(38歳、男性、会社員)。両親と3人暮らし。25歳のころに双極性障害と診断された。3か月前から気分が落ち込み夜も眠れず、食欲もなくなり仕事を休むことが多くなってきた。無力感を感じるようになり、休職して精神科病棟に任意入院した。入院後は1日中ベッドで横になって過ごし、他の患者との交流もみられない。看護師が話しかけても簡単な返事をするだけで無表情である。食事は病室で摂取しており、摂取量は少ない。 入院後1週が経過した。Aさんはベッドに横になりじっと窓を見つめていることが多くなった。看護師が何をしているのか話しかけると、Aさんは「死にたいと思っている」と答えた。このときの看護師の対応で適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第106回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
患者が「死にたい」と具体的に発言した場合、自殺の危険性が非常に高いと判断されます。この状況で最も優先されるのは、患者の生命の安全を確保することです。自殺をしないという約束(No-Suicide Contract)は、患者が一時的に自殺行動を差し控えるための行動制限であり、その間に専門的な介入や見守り体制を整える時間を確保することを目的とします。これは応急的な対応であり、その後は傾聴、精神科医への報告、多職種連携による介入が必須となります。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者の「死にたい」という重要な訴えを無視し、本心を抑圧させてしまう可能性があります。患者の感情を受け止め、傾聴することが重要です。正しくは:患者の訴えを真摯に受け止め、傾聴し、感情を表出できる安全な環境を整える。選びやすい理由:重い話題から患者を遠ざけて、気分を楽にさせようという意図。混同注意:患者が元気のないときに、気分転換を促す対応と混同するかもしれないが、死にたいという具体的な訴えには不適当。
- 2. 「死にたい」という深刻な訴えに対しては、気分転換だけでは根本的な解決にはなりません。患者の内面にある苦痛に寄り添うことが先決です。行動療法の一環として行う場合でも、その前に自殺念慮の評価が必須です。正しくは:まず患者の自殺念慮の程度や状況を把握し、安全確保に努める。その後、患者の状態に応じて治療計画を立て、気分転換もその一部として検討する。選びやすい理由:患者の気分が沈んでいるように見えるため、外に出てリフレッシュさせるのが良いのではないかと考える。混同注意:一般的な気分の落ち込みへの対応と、自殺念慮がある場合の対応を混同しやすい。
- 3. 患者の「死にたい」という苦痛な感情を否定し、軽く扱うことになります。患者は理解されていないと感じ、孤立感を深める可能性があります。安易な励ましは、患者が感情を表現する機会を奪います。正しくは:患者の感情に寄り添い、「つらい気持ちなのですね」などと共感を示し、傾聴する姿勢を見せる。選びやすい理由:患者を元気づけたいという善意からくる行動。混同注意:患者を励ますことが常に良いことだという一般的な考え方と、自殺念慮を抱える患者への対応を混同しやすい。
- 4. 正解。患者に自殺しないことを約束してもらう(No-Suicide Contract)ことは、自殺の危険性が高いと判断された患者に対して、差し迫った自殺行動を一時的に抑制するための有効な方法の一つです。この約束は、患者が危機的な衝動に駆られた際に、支援を求める行動につなげる橋渡しとなります。ただし、これは単独で行うものではなく、その後の継続的な精神科的ケアや見守りとセットで行うべきです。正しくは:適切です。選びやすい理由:患者の行動を制限することに抵抗を感じるかもしれないが、生命を守るための緊急的な介入として重要。混同注意:単なる口約束に過ぎないと思うかもしれないが、精神科看護では重要な介入の一つ。
国試ポイント
自殺念慮を訴える患者への初期対応と、生命の安全確保の優先順位を問う問題です。傾聴や共感も重要ですが、具体的な自殺発言があった場合は、まず行動制限を含めた安全確保策が求められます。
混同注意
患者の心情に寄り添うことと、緊急時の安全確保の優先順位を混同しやすい。自殺念慮の訴えには、単なる気分転換や安易な励ましは不適切であるという点。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た場合、まず「生命の安全確保」が最優先であることを念頭に置く。自殺念慮の具体的な訴えがあった場合、安易な傾聴や励ましだけでなく、行動制限を含めた介入を検討する視点が必要。同時に、その後の専門的なケアへのつなぎも重要となる。
関連知識
自殺の危険性評価(自殺企図歴、精神疾患の有無、社会的孤立、最近のストレス要因など)、自殺予防のための看護介入(環境整備、傾聴、精神科医への報告、家族支援、精神科リエゾンナースの活用など)、No-Suicide Contract(自殺予防契約)の意義と限界。