Aさん(26歳、女性)は高校生のころからリストカットを繰り返し、ボーダーラインパーソナリティ症〈境界性パーソナリティ障害〉の診断を受けている。最近仕事が忙しくなったパートナーに「今すぐ返事が欲しい。私を見捨てるのか」とメールを送り続け、帰宅したパートナーが、手首から血を流しているAさんを見つけた。パートナーに付き添われて総合病院の救急外来を受診したAさんは、意識清明で神経損傷はなく、手首の処置をした看護師に「消えてしまいたい。生きている意味がない」と話した。 入院後1週、Aさんは気分の変動があり、夕方になるとイライラして、ホールでテレビを見ている他の入院患者に大声で攻撃的な発言を繰り返した。看護師が声をかけると「テレビの大きな音が父の声に聞こえた。子どものころ、父が毎晩お酒を飲んで暴れたので怖かった」と話した。Aさんへの看護師の対応で適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第115回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
Aさんが自らの感情や行動の原因を言葉にして伝えたことは、自己認識と他者への開示の重要なプロセスです。看護師がこの行為を肯定的に受け止め、フィードバックすることで、Aさんは「自分の話をしても大丈夫だ」という安心感を持ち、看護師との信頼関係が構築されやすくなります。これは、Aさんの精神状態の安定や今後の治療・ケアへの前向きな姿勢を促す上で非常に重要な対応です。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者の行動の背景にある心理的な要因を無視し、表面的な行動のみを抑制しようとする対応です。Aさんの言葉から、幻聴や過去のトラウマ体験が行動の原因であることが示唆されており、この対応では根本的な解決にはつながりません。正しくは:行動の背景にある感情や体験に耳を傾け、共感を示す。選びやすい理由:他の患者への影響を考えると、すぐに介入したくなるが、根本原因の解決にはならない。混同注意:「指導」は問題行動を止めるためには必要だが、なぜその行動が起きているのかを理解しないと効果がない。
- 2. 辛い記憶を無理に抑え込もうとすることは、かえって精神的な苦痛を増大させる可能性があります。Aさんは自分の体験を話すことで、感情を表現しようとしており、それを否定するような対応は適切ではありません。正しくは:患者が過去の体験について話すことを受け止め、傾聴する姿勢を見せる。選びやすい理由:辛いことを忘れさせたいという思いから、このような言葉をかけたくなるかもしれない。混同注意:「思い出さないよう」という指示は、患者の感情や記憶のプロセスを阻害し、信頼関係を損ねる可能性がある。
- 3. Aさんの問題行動は、大音量のテレビが過去のトラウマ体験と結びついている可能性が高いです。無理に慣れさせようとすることは、かえって恐怖や不安を増強させ、症状を悪化させる危険性があります。正しくは:Aさんの感情や認知を理解し、不安や恐怖を軽減するための環境調整や心理的サポートを検討する。選びやすい理由:刺激への慣れは行動療法の一環であるが、トラウマ反応の場合、専門的なアプローチが必要で安易に行うべきではない。混同注意:「慣れる練習」は特定の恐怖症治療で用いられるが、このケースではAさんの精神状態や背景を考慮すると不適切。
- 4. 正解。Aさんは、自分の感情や行動の背景にある原因(幻聴、過去のトラウマ)を看護師に言語化して伝えています。この行為は、自身の内面を認識し、他者に共有しようとする重要な一歩です。看護師がこれを肯定的にフィードバックすることで、Aさんは自身の感情や体験を話すことへの安心感を持ち、看護師との信頼関係を深めることができます。これは、今後の介入の土台となります。
国試ポイント
精神看護における患者との信頼関係構築の重要性、特に患者が感情や内面を語った際の傾聴と肯定的なフィードバックの意義が問われています。患者の行動の背景にある心理的な要因を理解しようとする姿勢が重要です。
混同注意
表面的な問題行動の対処に走らず、その根底にある患者の思いや体験に焦点を当てることの重要性を見極める必要があります。
次に同じ論点が出たら
Aさんの話を受け止めた後、幻聴の内容や過去のトラウマ体験が日常生活にどのような影響を与えているか、さらに詳しくアセスメントを進める必要があります。必要に応じて、精神科医や専門家との連携を検討します。
関連知識
精神疾患患者への基本的なコミュニケーション技術、トラウマケアの基本、リエゾン精神看護の概念、不安・恐怖に対する心理的支援。