Aさん(75歳、女性)は、1人暮らし。高血圧症の内服治療をしているが、その他に既往歴はない。認知機能は問題ない。軽度の円背があるが、日常生活動作〈ADL〉は自立している。簡単な家事は自分で行っており、家の中で過ごすことが多かった。近所に住む長女が時々、Aさんの様子を見に来ていた。ある日、Aさんは自宅の階段を踏み外して転落し、横向きになったまま動けなくなったところを訪問してきた長女に発見され、救急車で病院に運ばれ、右大腿骨頸部骨折と診断された。そのまま入院し、緊急手術を行うことになった。 手術後14日。Aさんは、回復期リハビリテーション病棟のトイレ付きの個室に移動した。Aさんは歩行訓練を行っているが、立ち上がるときにバランスを崩しやすく「夜トイレに行こうとしてベッドから立ち上がるときに、ふらふらする。また転んでしまうのが怖い」と言っている。このときの看護師の対応で最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第110回看護師国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
Aさんはベッドから立ち上がる際にバランスを崩しやすく、転倒への不安を訴えています。この状況で最も適切なのは、立ち上がり動作の安定性を高めるための支援です。移動介助バー(ベッド柵)は、ベッドからの立ち上がり時に体を支える安定した支持点となり、ふらつきを軽減し、安全に立ち上がることを可能にします。これは、Aさんのリハビリテーション目標であるADL(日常生活動作)の自立を支援しつつ、転倒リスクを低減する直接的かつ効果的な対策です。
選択肢ごとの解説
- 1. ポータブルトイレの設置は、ふらつきによる転倒リスクを軽減するための一時的な手段ではありますが、Aさんは歩行訓練に取り組んでおり、リハビリテーションの一環としてトイレへの移動を自立させることを目指しています。ポータブルトイレは自立を妨げる可能性があり、活動量を低下させることで筋力低下を招く恐れもあります。また、トイレ付きの個室であるため、本来の目的は室内のトイレへの安全な移動を支援することです。正しくは:ポータブルトイレを設置するのではなく、室内トイレへの安全な移動を促すための環境整備や介助方法を検討します。選びやすい理由:夜間の転倒リスクを直接的に減らす策として魅力的に見えるかもしれませんが、Aさんのリハビリ目標と矛盾する可能性があります。混同注意:転倒予防策の一つではあるが、回復期リハビリテーション病棟におけるAさんのADL拡大という目標に合致しない点で誤り。
- 2. 正解。Aさんはベッドからの立ち上がり時にバランスを崩しやすいと訴えており、移動介助バー(ベッド柵)は、ベッドから立ち上がる際の支持基盤を提供し、安定した体勢を保つのに役立ちます。これにより、ふらつきによる転倒リスクを軽減し、安全な立ち上がりを促すことができます。これはAさんのリハビリテーションの目標である自立歩行訓練を妨げることなく、安全な環境を提供する点で適切です。正しくは:この選択肢は適切です。選びやすい理由:最も直接的に立ち上がり時のふらつきに対応できるため、選択しやすい。混同注意:転倒予防と自立支援の両側面から見て最も適切な選択肢。
- 3. ベッドの頭部を45度挙上することは、呼吸を楽にしたり、食事を摂取しやすくしたりする効果はありますが、ベッドから立ち上がる際のバランスの安定には直接的な効果がありません。むしろ、半座位の状態から立ち上がるには、より体幹の安定性や脚の筋力が必要となる場合があり、かえってふらつきを増強させる可能性もあります。Aさんの訴えは『立ち上がる時』のふらつきであり、頭部挙上は根本的な解決策にはなりません。正しくは:立ち上がり時のふらつき対策としては、介助バーの設置や段階的な起立訓練などの具体的な支援が適切です。選びやすい理由:体位変換の一種であり、安楽や特定の活動に役立つと誤解されやすい。混同注意:他の一般的な看護ケアと混同しやすいが、本事例の『立ち上がり時のふらつき』という問題に対する直接的な解決策ではない。
- 4. ヒッププロテクターは転倒時の大腿骨頸部骨折などの重篤な外傷を予防するためのものであり、転倒そのものを予防する効果はありません。Aさんの訴えは「夜トイレに行こうとしてベッドから立ち上がるときに、ふらふらする。また転んでしまうのが怖い」という転倒の予兆と不安であり、転倒を未然に防ぐ対策が求められています。ヒッププロテクターは転倒リスクのある患者に対して二次的な損傷予防としては有用ですが、この状況で最も優先されるべき対応ではありません。正しくは:転倒を予防するための環境整備や身体的な支援を優先すべきです。選びやすい理由:転倒時の被害軽減策としては有効だが、Aさんが求める『転びたくない』という直接的な不安には応えられないため、選択を迷うかもしれない。混同注意:転倒対策ではあるが、『転倒予防』ではなく『転倒時の損傷軽減』である点で誤り。
国試ポイント
回復期リハビリテーション病棟における患者のADL向上と転倒予防の両立を考慮した看護介入の選択が問われています。患者の具体的な訴え(立ち上がり時のふらつき、転倒への恐怖)に対し、最も直接的かつ効果的な環境整備や身体的支援を選択する能力が必要です。
混同注意
ポータブルトイレやヒッププロテクターも転倒に関連する対策ですが、ポータブルトイレはリハビリテーションの自立支援を阻害する可能性があり、ヒッププロテクターは転倒予防ではなく転倒時の損傷軽減策であるため、患者の現在の訴えとリハビリ目標を考慮すると不適切です。
次に同じ論点が出たら
移動介助バー設置後もふらつきが続く場合や、日中の歩行訓練でのバランスの問題、転倒への不安が強い場合は、理学療法士と連携し、より詳細な評価と訓練内容の見直し、または立ち上がり動作時の看護師による見守りや介助の頻度を増やすことが必要となります。また、不安の程度に応じて精神的なサポートも検討します。
関連知識
高齢者の転倒予防策には、筋力増強訓練、バランス訓練、薬剤の見直し、環境整備(手すり設置、段差解消、照明)、適切な履物の選択など多岐にわたります。特に、入院環境においては、ベッド周りの環境整備(ベッドの高さ、サイドレール、ナースコールの位置)が重要です。