30歳の男性。会社員。中学生の頃より人前で話すときに緊張が強くなり、人と会うのを避けるようになった。大学卒業後に就職し、顧客との交渉が多い部署に配属となった。プレゼンテーションの際には動悸、発汗および腹痛が出現し、うまく行えなかった。仕事の業績も落ち込んだため精神科を受診した。最も考えられるのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
30歳男性の事例では、中学生の頃から人前で話すことに対する強い緊張と人との接触回避が見られ、仕事でのプレゼンテーションという社会状況で動悸、発汗、腹痛といった身体症状が出現しています。これは他者からの評価を恐れることによって引き起こされる不安であり、社交不安症(社交不安障害)の典型的な症状と経過を強く示唆しています。
選択肢ごとの解説
- 1. これは2年以上にわたる慢性の抑うつ気分が主な症状であり、特定の社会状況における極度の不安や身体症状とは異なります。正しくは:長期間にわたる持続的な気分の落ち込み、興味の喪失、倦怠感などが中心症状であれば、この診断が考えられます。選びやすい理由:業務成績の低下という記述から、抑うつ状態を連想しやすいかもしれません。混同注意:うつ病(Major Depressive Disorder)や他の気分障害と混同しやすいですが、診断基準の違いを理解することが重要です。
- 2. 正解。人前で話すことや人との交流を避ける行動、特定の社会状況(プレゼンテーション)で身体症状(動悸、発汗、腹痛)が出現し、それが中学生の頃から続いているという症状は、社交不安症の典型的な特徴と一致します。他者からの評価を恐れることが中心的な問題です。
- 3. この障害は、身体的な症状自体が主な苦痛の原因となり、それに対する過度な思考、感情、行動が見られるものです。設問の男性の場合、身体症状はあくまで「人前で話すことへの不安」の結果であり、症状自体に囚われているわけではありません。正しくは:もし、動悸や腹痛といった身体症状が主要な訴えであり、医学的に説明できない、または説明できる症状に対して過度に心配や執着が見られる場合であれば、身体症状症の可能性が高まります。選びやすい理由:動悸、発汗、腹痛といった身体症状が具体的に記述されているため、身体症状症を連想するかもしれません。混同注意:心身症と混同しやすいですが、身体症状症では身体症状への精神的な囚われが顕著であり、心身症は心理的因子が身体疾患の発症や経過に影響を与えるものです。
- 4. 全般不安症は、特定の状況に限らず、日常生活の様々な出来事に対して持続的かつ過剰な不安や心配を抱くのが特徴です。本事例では、不安が「人前で話すとき」や「人との交流」という社会的な状況に限定されている点が異なります。正しくは:不安や心配が、仕事、学業、健康、経済など、多様な側面で広範かつ持続的に見られる場合であれば、全般不安症が考えられます。選びやすい理由:不安というキーワードから、不安障害の一つとして誤って選んでしまう可能性があります。混同注意:社交不安症は特定の状況での不安、パニック症は突然の激しい不安発作、全般不安症は広範な事柄への持続的な不安と区別が必要です。
- 5. パニック症は、予期せぬパニック発作(突然の激しい動悸、息苦しさ、めまい、死への恐怖など)が繰り返し起こり、それに伴う再発作への強い不安や回避行動が特徴です。本事例の身体症状はプレゼンテーションという予期できる特定の状況で起こっており、予期せぬ発作ではないため、パニック症とは異なります。正しくは:突然、何の誘因もなく強い不安と身体症状(動悸、呼吸困難、胸痛、発汗など)が短時間でピークに達する発作を繰り返し経験し、それが予期できないものとして患者が認識している場合であれば、パニック症の可能性が高まります。選びやすい理由:動悸や発汗といった身体症状が共通するため、パニック発作と混同しやすいかもしれません。混同注意:パニック発作は様々な不安障害(社交不安症、全般不安症など)でも生じえますが、パニック症は「予期せぬ再発性パニック発作」が診断の必須要件です。
国試ポイント
精神疾患の鑑別診断、特に不安症群の鑑別は国試で頻出です。症状の「特異性(特定の状況か、全般的か)」、「持続期間」、「予期できるか否か」、「主な苦痛の原因(身体症状そのものか、特定の状況への不安か)」を読み解くことが重要です。
混同注意
全般不安症、パニック症、身体症状症、抑うつ障害などとの鑑別が重要です。特に、身体症状の有無やその原因、不安が特定の状況に限定されるか否かという点で違いを理解する必要があります。
次に同じ論点が出たら
次に同様の論点が出た場合、まず「不安や症状がどのような状況で起こるのか(特定の状況か、広範か、予期せぬか)」を確認し、「その症状によってどのような回避行動や機能障害が生じているか」を判断基準とします。また、症状の「持続期間」も重要な鑑別ポイントです。
関連知識
社交不安症の治療としては、認知行動療法(暴露療法、社会的技能訓練、認知再構成法など)や薬物療法(SSRIなど)が用いられます。作業療法としては、不安管理技法の指導、社会的技能の向上、活動参加の促進などが挙げられます。