11歳の女児。不登校を心配した母親に連れられて来院した。幼少期に人見知りはせず、抱っこをせがむこともなかった。保育園では一人遊びが多かった。現在の成績は上位。運動は苦手だがサッカー観戦は好きで、地元チームの選手の背番号と生年月日を全て記憶している。冗談が通じずクラスで仲間外れになることがある。この児の障害で正しいのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
提示された事例は、社会的コミュニケーション・相互作用の困難さ(人見知りしない、抱っこをせがまない、一人遊びが多い、冗談が通じない、仲間外れになる)、および限定的で反復的な行動・興味(サッカー選手の背番号・生年月日の記憶、特定の物事への強いこだわり)という自閉スペクトラム症(ASD)の中核的な特徴を強く示唆しています。選択肢2の「感覚過敏を伴うことがある」は、ASDの診断基準(DSM-5)においても主要な特徴の一つとして挙げられており、聴覚、視覚、触覚、味覚、嗅覚などの様々な感覚刺激に対して過敏になったり、逆に鈍感になったりする感覚特性は、ASD児によく見られる二次的な障害です。
選択肢ごとの解説
- 1. 自閉スペクトラム症(ASD)児は、感覚特性や強いこだわりから、特定の食品に対する偏食が非常に多く見られる傾向があります。そのため、「稀である」という記述は誤りです。正しくは:特定の食べ物を極端に嫌うことがよく見られる。選びやすい理由:一般的な子どもでも偏食があるため、障害との関連性を軽視してしまう可能性があります。しかし、ASDにおける偏食は感覚過敏や強いこだわりが背景にある点が特徴です。混同注意:通常の発達段階に見られる一過性の偏食と、自閉スペクトラム症に伴う、感覚過敏や固執によって生じる広範囲で持続的な偏食の質的な違い。
- 2. 正解。自閉スペクトラム症の診断基準の一つに「感覚刺激に対する過敏性または鈍感性、あるいは環境における感覚的側面に対する異常な興味」が含まれています。音、光、匂い、触覚など、特定の感覚刺激に対して過剰に反応したり、逆に反応が乏しかったりする特性は、ASD児に非常によく見られます。
- 3. 自閉スペクトラム症児は、他者の非言語的な手がかり(表情、声のトーン、身振りなど)を解釈し、感情を読み取ることが苦手な傾向があります。そのため、「鋭く捉える」という記述は誤りです。共感の欠如と混同されやすいですが、他者の感情を認知する能力の困難が主です。正しくは:他者の感情の動きを読み取ることが苦手な傾向があります。選びやすい理由:ASD児にも他者に配慮する気持ちはあり、状況によっては相手の気持ちを推測しようと努力することもありますが、それは生まれつき「敏感に察知する」能力とは異なります。混同注意:他者の感情を『理解する(認知)』ことと、他者に『共感する(情動)』ことの違い。
- 4. 自閉スペクトラム症児は、予測可能な環境や日課、ルーティンに対して強いこだわりを持つことが特徴です。予期せぬ変更や環境の変化に対しては、強い不安や混乱を示し、柔軟に対応することが苦手な傾向があります。そのため、「柔軟に対応できる」という記述は誤りです。正しくは:日常のルーティンが変わることに強い抵抗を示すことがあります。選びやすい理由:学校生活などで、表面上は変化に適応しているように見える場合でも、内面では大きなストレスを感じていることがあります。これは一時的な「適応」であって「柔軟性」とは異なります。混同注意:新しい活動への興味と、既存のルーティンが変更されることへの抵抗。
- 5. 「サリーとアン課題」は、他者の心の状態(信念、意図など)を理解する「心の理論(Theory of Mind)」の発達を評価する代表的な課題です。通常、定型発達児は4〜5歳頃にこの課題を正しく解けますが、自閉スペクトラム症児は心の理論の発達に遅れが見られるため、この課題を正しく解けないことが多いです。「正しく解けることが多い」という記述は誤りです。正しくは:4〜5歳頃に「サリーとアン課題」を正しく解けないことが多いです。選びやすい理由:知的な能力が高いASD児の場合、心の理論も発達していると誤解してしまう可能性がありますが、学業成績と心の理論の発達は必ずしも相関しません。混同注意:知的な発達(学業成績)と、社会的な認知能力(心の理論)の発達。
国試ポイント
自閉スペクトラム症(ASD)の主要な診断基準と、それに伴う特性(社会的コミュニケーションの困難さ、限定的で反復的な行動・興味、および感覚特性)を正しく理解しているかが問われています。特に、感覚過敏や心の理論の困難さなど、具体例から疾患の特性を結びつける能力が求められます。
混同注意
自閉スペクトラム症の症状は多様であり、注意力欠如・多動症(ADHD)や知的障害、社交不安症などの他の発達障害や精神疾患の症状と一部重なることがあります。しかし、中核的な特性である『社会的コミュニケーション・相互作用の質的な困難さ』と『限定的で反復的な行動・興味』の両方が存在するかどうかで鑑別します。
次に同じ論点が出たら
次に同様の論点が出題された場合、ASDの具体的な行動特性(例えば、反復行動、儀式的な行動、言語発達の特性、非言語的コミュニケーションの困難さ)や、それに伴う日常生活上の困難、あるいは具体的な支援方法(構造化、ソーシャルスキルトレーニング、感覚統合療法など)について問われる可能性があります。
関連知識
自閉スペクトラム症の診断は、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)やICD-11(国際疾病分類第11版)の基準に基づきます。また、感覚統合障害や心の理論の困難さ、実行機能障害などもASDに多く見られる合併症や特性として理解しておく必要があります。作業療法士としては、これらの特性を理解した上で、個別性に合わせた環境調整や支援計画を立案することが重要です。