実習前の初回面接のロールプレイである。設定患者は76歳の女性。脳梗塞発症後3か月。右片麻痺。Brunnstrom法ステージは右上肢Ⅴ、手指Ⅴ、下肢Ⅵ。現在は回復期リハビリテーション病棟に入院中。杖歩行は可能。退院後は一人暮らしを予定している。学生(あなた)は初回面接で、「どのような生活を送りたいか」、「日常生活で困っていること」、「最近の楽しみ」などを質問したが、対象者は「今は入院生活で退屈。早く帰りたい」とだけ答えた。この面接場面から、次に行う作業療法評価で最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第61回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
患者は、学生が「どのような生活を送りたいか」「最近の楽しみ」といった退院後の生活や興味・関心事に関する質問に対して、「入院生活は退屈。早く帰りたい」と答えるに留まっています。これは、現在の入院生活への不満や、リハビリテーション目標に対する意欲の欠如、あるいは自身の興味・関心事を言語化できない状態を示唆しています。作業療法の目標は、患者の価値観や興味・関心に基づいた有意義な活動への参加を支援することであるため、この状況で最も優先すべきは、患者が何を大切にし、どのような活動に関心があるのかを把握することです。これにより、今後のリハビリテーションへの動機付けを高め、個別性の高い目標設定が可能になります。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者の反応(「入院生活は退屈」「早く家に帰りたい」)からは、直接的に痛みが主要な問題であるとは推測されません。現在の会話からは、痛みに関する具体的な情報や訴えがありません。正しくは:患者が痛みを訴える、あるいは痛みが活動制限の原因であることが示唆される場合に、優先的に行うべき評価です。選びやすい理由:脳梗塞後の患者には痛みが生じやすいという一般的な知識から、無意識に選んでしまう可能性があります。しかし、この面接場面からは痛みの情報が不足しているため、優先順位は低いと判断されます。混同注意:痛みがADLやQOLに大きく影響する重要な要素であるため、評価項目の一つとして重要であることと、この特定の面接場面での優先順位が混同されやすいです。
- 2. 正解。患者は「どのような生活を送りたいか」「最近の楽しみ」といった、退院後の生活や興味・関心事に関する質問に対し、「入院生活は退屈。早く帰りたい」とだけ答えています。これは、現在の入院生活やリハビリテーションに対する意欲の低下、あるいは自分の価値観や興味・関心事を言語化できない状態を示唆しています。退院後の生活目標やリハビリテーションへの主体的な参加を促すためには、まず患者自身の興味・関心事(生活行為への関心)を把握し、それをリハビリテーションの目標設定に結びつけることが不可欠です。興味・関心を把握することで、患者の動機付けを高め、具体的な活動目標を見つける手がかりとなります。
- 3. 学生の面接能力が不足している可能性や、患者のコミュニケーション能力に問題がある可能性も否定できませんが、まずは作業療法士として患者との関係性を構築し、直接情報収集を試みることが優先されます。他職種同席は、情報が全く得られない、複雑な背景があるなどの状況で検討される手段であり、この段階で最も適切とは言えません。正しくは:患者が情報提供を拒否する、認知機能やコミュニケーション能力に重篤な問題がある、倫理的な問題が疑われるなど、作業療法士単独での対応が困難な場合に検討します。選びやすい理由:患者の反応が限定的であるため、情報収集が難しいと感じ、多角的な視点からアプローチしようと考えるかもしれません。混同注意:多職種連携が重要であるという認識と、この場面での緊急性や必要性の優先順位が混同されやすいです。初回面接での患者との信頼関係構築の重要性が軽視される可能性があります。
- 4. 患者は「入院生活は退屈。早く帰りたい」と、自身の感情や願望を明確に言語化できています。これは、コミュニケーション能力(発話、理解)に大きな問題がないことを示唆しています。回答が限定的だったのは、言語機能の問題ではなく、質問への関心の低さや、現在の状況に対する不満が主な原因と考えられます。正しくは:患者が言葉を適切に理解できない、発話が困難である、失語症の症状が明確であるなど、言語機能の障害が疑われる場合に優先的に行うべき評価です。選びやすい理由:患者の返答が少ないことから、コミュニケーション能力に問題があるのではと短絡的に考えてしまうかもしれません。混同注意:脳梗塞後遺症として失語症などの言語機能障害があることと、この特定の面接場面での患者の返答内容から推測される問題点が混同されやすいです。患者は質問を理解し、自分の感情を表現できているため、言語機能自体に大きな問題があるとは言えません。
- 5. 面接で具体的な情報が得られなかったのは、質問の仕方や患者の意欲に起因する可能性が高く、この段階で情報収集方法を全面的にアンケートに切り替えるのは早計です。アンケートは客観的な情報を得るのに有効な場合もありますが、患者の感情や個別性、動機付けを深く理解するためには、やはり対面でのコミュニケーションが重要です。また、アンケートへの記入自体に抵抗がある場合や、文字で表現することが苦手な場合もあります。正しくは:患者が言語的に表現するのが非常に苦手である、または口頭でのコミュニケーションが困難な場合に、補助的な手段としてアンケートを検討します。まずは面接の工夫や関係性構築を試みるのが先決です。選びやすい理由:面接がうまくいかなかったため、異なる方法を試したいと考えるかもしれません。混同注意:面接とアンケートそれぞれのメリット・デメリットの理解と、この場面での優先順位が混同されやすいです。患者の個別性や感情を理解するには、面接の方が適していることが多いです。
国試ポイント
作業療法士が初回面接で患者の反応が乏しい、あるいは質問の意図と異なる返答があった場合に、次にどのような評価を行うべきか、その優先順位と論理的思考力を問う問題です。特に、患者の主体性を引き出すための作業療法の基本的な考え方(興味・関心の把握)が理解できているかが問われています。
混同注意
患者の返答が少ないことから、安易に言語機能の問題や情報収集方法の変更を考えてしまうこと。また、痛みなどの一般的な合併症を優先してしまうこと。この場面では、患者は明確に「退屈」「早く帰りたい」と感情を表現できており、言語機能に大きな問題があるとは判断できません。面接の困難さは、患者の動機付けや関心に起因している可能性が高いため、そこに着目することが重要です。
次に同じ論点が出たら
患者の主訴や発言から、直接的な身体機能障害だけでなく、精神的な側面(意欲、感情、関心、価値観)に問題がある可能性を読み取ること。そして、その問題に対して作業療法士として最も本質的かつ優先的に介入すべき評価項目を見極めることです。特に、リハビリテーションへの意欲低下や目標設定の困難さが見られる場合、「興味・関心」の評価は非常に重要になります。
関連知識
患者中心のアプローチ、興味・関心評価(例:興味チェックリスト、Canadian Occupational Performance Measure: COPM)、作業行動モデル、人間作業モデル(MOHO)における価値観や興味、習慣の概念、リハビリテーションの目標設定、動機付け。