16歳の女子。中学時にダイエットに成功し周囲に認められたと感じた。その後、進路相談で高い目標設定をして過食嘔吐が増強した。志望校に入学後、るいそうが進行して5月に校内で倒れ、救急搬送された。入院1か月後に身体状態が改善し、作業療法が開始された。作業療法で「気分転換したい」「過食嘔吐をなくしたい」と希望した。導入時の作業療法のプログラムで最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第61回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
摂食障害の患者への作業療法導入期では、患者の自己肯定感の低さ、完璧主義、他者評価への過敏さ、過度な活動へのこだわりといった特性に配慮する必要があります。そのため、心身に負担をかけず、安全な環境で成功体験を積ませ、自己効力感を高めることが優先されます。アイロンビーズは、比較的簡単で達成感を得やすく、他者との比較や身体イメージ、食事に直接関連しないため、導入期のプログラムとして最も適切です。患者の「気分転換したい」という希望にも応えられます。
選択肢ごとの解説
- 1. 摂食障害の患者は、活動量増加や運動に対するこだわりが強い場合があり、代償行為として過度な運動を行うリスクがあります。導入期に監視の少ない院外でのウォーキングを許可することは、その行動を助長する可能性があり、適切ではありません。また、身体状態は改善したとはいえ、精神的にも身体的にも不安定な時期であるため、急な院外活動は避けるべきです。正しくは:院内の安全な環境で、セラピストの監視のもと、短時間かつ低負荷の活動から導入する。または、室内で気分転換になるような穏やかな活動を提案する。選びやすい理由:「気分転換したい」という患者の希望に応える活動の一つとして、ウォーキングは一般的に健康的で気分転換になると考えられやすいため。混同注意:一般的な気分転換の手段と、摂食障害患者の病態特性(過度な活動へのこだわりや運動に対する強迫観念)への配慮を混同しやすい。
- 2. 摂食障害の患者は、他者との比較や評価に非常に敏感であることが多く、特に導入期においては、人間関係のストレスや自分の状態を他者に知られることへの抵抗感が強い傾向があります。そのため、最初から集団活動に参加させることは、患者に過度な負担をかけ、治療への拒否感につながる可能性があります。正しくは:まずは個別での作業療法を通じて信頼関係を構築し、患者の精神状態や適応度を見ながら、段階的に集団活動への参加を検討する。選びやすい理由:集団での作業療法は、社会性の向上やコミュニケーション機会の提供といったメリットがあるため、良い選択肢だと考えられやすいため。混同注意:リハビリテーションにおける集団療法の一般的な有効性と、摂食障害患者の自己評価の低さや他者への過敏性という特性への配慮を混同しやすい。
- 3. 摂食障害の患者は、完璧主義的な傾向が強く、自己肯定感が低いことが多いです。完成した作品の改善点について話し合うことは、患者の完璧主義を刺激し、自己否定感をさらに強めてしまう可能性があります。導入期には、成功体験を通じて自己肯定感を高めることが重要です。正しくは:完成した作品の良い点や、患者自身が工夫した点を具体的に肯定的に評価し、達成感を促すようなフィードバックを行う。選びやすい理由:一般的な作業において、作品の改善点を話し合うことは、技術向上や振り返りとして有効であると捉えられやすいため。混同注意:一般的な作業指導やフィードバックの方法と、摂食障害患者の自己評価の低さや完璧主義的傾向への特別な配慮を混同しやすい。
- 4. 摂食障害の患者は、食品や栄養に関する情報に過度に執着していることが多く、必ずしも「知識が不足している」わけではありません。問題は、その知識が歪んだ形で解釈されている点にあります。導入期に一方的に正しい知識を教え込もうとすると、患者の既存の価値観と衝突し、治療への抵抗感を強めたり、混乱を招いたりする可能性があります。また、患者の「気分転換したい」という希望には直接応えません。正しくは:まずは患者の「食」に対する恐怖や歪んだ認識を傾聴し、受容的な態度で関わることが重要です。栄養教育は、信頼関係を築き、患者の準備が整ってから専門家と連携して段階的に行うべきです。選びやすい理由:過食嘔吐が主症状であるため、食品の知識が重要であると直感的に考えられやすいため。混同注意:栄養教育の重要性と、摂食障害患者への導入期における心理的アプローチの優先順位を混同しやすい。
- 5. 正解。摂食障害の導入期の患者には、以下の条件を満たす活動が適切です。1. 比較的簡単で、短時間で完成でき、達成感を得やすい活動(自己肯定感を高める)。2. 結果が目に見えやすく、評価基準が曖昧でない活動(完璧主義を刺激しにくい)。3. 患者が楽しめる、気分転換になる活動(本人の希望に応える)。4. 食事や身体イメージに直接関連しない活動(病気の核心症状を刺激しない)。アイロンビーズでのコースター作成は、これらの条件を満たし、集中して取り組めるため、達成感や自己肯定感の向上に繋がりやすいです。
国試ポイント
摂食障害患者の病態心理を理解し、特に作業療法導入期におけるプログラム選択の原則を問う問題です。自己肯定感の向上、完璧主義への配慮、活動量の適切な管理、そして精神的な負担の軽減が重要なポイントとなります。
混同注意
患者の「気分転換したい」という希望に対し、一般的な気分転換の方法(例:ウォーキング)を安易に選択したり、過食嘔吐という症状に対して、導入期から直接的な栄養教育を試みたりする選択肢と混同しやすいです。摂食障害患者の特有の心理状態(自己肯定感の低さ、完璧主義など)を深く理解した上で、適切な介入方法を選択する視点が求められます。
次に同じ論点が出たら
本問題では導入期のプログラムが問われましたが、回復期や維持期においては、食への恐怖の克服、具体的な食事行動の練習、社会参加を促す活動、ストレス対処スキルの獲得など、より具体的な生活課題に焦点を当てたプログラムが選択されます。その際にも、患者の自己肯定感を損なわず、スモールステップで、患者自身が主体的に取り組めるよう支援することが引き続き重要となります。
関連知識
摂食障害(神経性やせ症、神経性過食症など)の病態生理、心理的特徴(身体醜形、強迫観念、認知の歪み、自傷行為、自己肯定感の低さなど)、治療の段階に応じた作業療法の介入目標(生活リズムの再構築、ストレス対処スキルの獲得、自己効力感の向上、社会性の向上など)について理解が必要です。また、摂食障害患者への心理的アプローチ(受容、共感、自己探求の支援)も関連知識として重要です。