72歳の女性。元来多趣味で、特にパッチワークの小物作りに熱心であった。半年ほど前から物忘れがひどくなり、日常生活に支障をきたすようになった。最近は、食事もせずに抑うつ的な行動が多くなったため、精神科で入院治療を受けることになった。入院時のHDS-Rは17点であった。入院3週目より食事がとれるようになり作業療法が開始された。導入時の作業療法で正しいのはどれか。2つ選べ。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第61回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2・3番
解説
この事例の患者は、認知症(HDS-R 17点)と抑うつ状態を併発しており、作業療法の導入期にあります。導入期においては、患者の安全と心理的な安定を最優先し、無理なく活動に参加できるよう配慮することが重要です。選択肢2の「休憩のタイミングや時間をセラピストが管理する」は、集中力や持続力が低下している患者の疲労蓄積を防ぎ、無理なく活動を継続させるために適切です。選択肢3の「過去の趣味であるパッチワークの小物作りを取り入れる」は、患者が慣れ親しんだ活動であるため、不安を軽減し、成功体験を通じて達成感や自己肯定感を高め、意欲を引き出す上で非常に有効です。
選択肢ごとの解説
- 1. 認知症の患者は、新しい情報を一度に大量に処理したり記憶したりすることが困難です。そのため、作業の全工程を一度に説明しても理解しにくく、混乱や不安を招く可能性があります。正しくは:作業工程は、患者が理解しやすいように、一つずつ具体的に、実演を交えながら、短いステップに分けて説明するべきです。選びやすい理由:一般的な指導方法では最初に全体像を説明することが多いので、そうすべきだと考えてしまうかもしれません。混同注意:健常者への指導方法と、認知機能が低下している患者への配慮が必要な指導方法を混同しやすいです。
- 2. 正解。認知症や抑うつ状態の患者は、集中力や持続力が低下していることが多く、疲労を自覚しにくい、あるいは自己管理が困難な場合があります。作業療法士が適切に休憩を促し、時間管理を行うことで、疲労の蓄積を防ぎ、無理なく活動を継続させることができます。
- 3. 正解。患者さんの過去の趣味や得意な活動は、慣れ親しんだものであり、達成感や満足感を得やすく、意欲向上につながりやすいです。認知症や抑うつ状態であっても、馴染みのある活動であれば不安なく取り組めるため、作業療法の導入期に特に有効です。
- 4. 認知症患者や抑うつ状態の患者は、環境の変化や対人関係の構築に不安を感じやすい傾向があります。信頼関係を安定して築くことが治療上重要であるため、特に導入期には担当者を固定し、患者が安心して関われる状況を作ることが望ましいです。正しくは:一貫した支援を提供するため、担当の作業療法士はできる限り固定し、患者との信頼関係の構築を優先すべきです。選びやすい理由:病院の業務体制として担当者がローテーションすることがあるため、実務的な事情と混同しやすいかもしれません。混同注意:医療機関の一般的な体制と、患者の精神状態や認知機能に配慮した個別の対応を混同しやすいです。
- 5. 作業療法では、他者との交流を通じて社会性の維持・向上、孤独感の解消、協調性の促進を図ることも重要な目的の一つです。特に抑うつ状態の患者さんにとっては、適切な社会交流の機会を提供することが回復に寄与する場合が多いです。過度な交流制限は適切ではありません。正しくは:患者さんの状態を観察しつつ、他の参加者との交流を促し、社会参加の機会を適切に提供すべきです。選びやすい理由:認知症患者は混乱しやすいことがあるため、刺激を減らす目的で交流を制限した方が良いと誤解するかもしれません。混同注意:過剰な刺激の制限と、社会生活に不可欠な人間関係の維持・構築に必要な交流の機会提供を混同しやすいです。
国試ポイント
認知症と抑うつ状態を併発した高齢患者に対する作業療法の原則、特に導入期における配慮事項が問われています。患者の特性(認知機能低下、抑うつ)を理解し、安全・安心を提供しつつ、意欲を引き出す介入方法を選択できるかがポイントです。
混同注意
認知症患者への対応と、一般的な成人患者への対応の違い。また、認知症患者に対して刺激を最小限に抑えることと、必要な社会交流の機会を提供することのバランスについて混同しやすいです。
次に同じ論点が出たら
今後同様の患者が出た場合、認知機能障害の程度や精神症状の変動に応じて、休憩時間や活動内容、対人交流の促し方などを個別具体的に調整できるか。患者の表情や行動から疲労や混乱のサインを早期に読み取り、柔軟に対応できるかが問われるでしょう。
関連知識
認知症患者へのコミュニケーション技法(短い指示、具体的に、実演を交える)、活動の選択基準(意味のある活動、成功体験、難易度調整)、環境設定の原則。抑うつ状態の患者への介入(休息の保障、達成感、意欲の引き出し、社会交流の促進)。