48歳の男性。工場勤務から管理職に抜擢され時間外労働が増えた。精力的に取り組んでいたが、熱心に指導してきた部下の退職を契機に自責的になり、出勤できず、家で寝ていることが増えた。妻の勧めで入院し、薬物療法が開始された。睡眠障害や倦怠感が若干軽減し、入院10日目に作業療法が処方された。導入時面接では返答がスムーズにできず、「動けない」「何もしたくない」「退職したい」と述べた。作業療法士の対応で最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第61回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
症例はうつ病と診断され薬物療法が開始されたばかりで、抑うつ気分、意欲低下、自責感が強く、作業療法導入時にも「動けない」「何もしたくない」「退職したい」と述べている。この段階では、いきなり複雑な活動や判断を求めるのではなく、まずは入院生活に慣れ、小さな達成感を積み重ねることが重要である。入院生活チェックリストは、生活リズムの把握や日中の活動を促すことで、少しずつ活動性を高め、自己効力感を回復させる足がかりとなる。これは行動活性化のアプローチにも通じる。
選択肢ごとの解説
- 1. 身体機能の評価は作業療法の重要な要素であるが、本症例のように抑うつ気分や意欲低下が著しい導入初期の段階で、いきなり身体機能という具体的なパフォーマンス評価を行うことは、患者にとって負担が大きく、自己肯定感をさらに低下させる可能性があるため不適切である。まずは、患者が抵抗なく取り組める活動から始めるべきである。正しくは:身体機能の評価は、患者の活動性が回復し、より具体的な目標設定が可能になった段階で、必要に応じて行う。導入初期は、リスト形式など回答しやすい方法での活動量の把握に留める。選びやすい理由:作業療法は身体機能評価を重視する学問であるため、真っ先に評価を考える傾向がある。しかし、うつ病患者の精神状態を考慮する必要がある。混同注意:急性期身体疾患患者への作業療法介入と、精神疾患患者、特に抑うつ状態の患者への介入の違い。
- 2. 患者が「動けない」「何もしたくない」と述べていることは、抑うつ状態の典型的な症状であり、これを理由に導入を中止することは、作業療法を提供する機会を逸することになる。導入時面接で患者の訴えを聞き、それに寄り添いながら、患者が参加しやすいような活動を提案することが重要である。正しくは:導入を中止するのではなく、患者の訴えを受け止めつつ、負担の少ない構造化された活動を提案し、参加を促す。面接方法や活動内容を工夫して対応する。選びやすい理由:患者の抵抗感や訴えに対し、無理強いしないという配慮から中止を選択しがちである。混同注意:患者の拒否と、うつ病の症状としての活動性低下への対応の混同。
- 3. 「面接はパラレルな場で行う」という選択肢は意味が不明瞭である。パラレルな場とは、複数の患者がそれぞれ独立した活動を行うことを指すことが多いが、面接は通常、個別に行われる。また、この段階の患者には、まずは個別での丁寧な関わりが求められる。正しくは:面接は、患者が安心して話せる個別的な環境で行う。または、患者の状態に合わせて、面接形式だけでなく、簡単な活動を通してコミュニケーションを図るなどの工夫をする。選びやすい理由:集団での作業療法や活動も多い中で、パラレル活動の概念と混同しやすい。混同注意:個別面接とグループ活動、パラレル活動の概念の混同。
- 4. 患者は「退職したい」と述べているが、これは抑うつ状態による悲観的な思考の影響が大きい可能性がある。この段階で退職という重大な決断を家族に相談するよう勧めることは、患者に大きな精神的負担を与え、回復を妨げる可能性があるため不適切である。まずは症状の改善と回復を優先すべきである。正しくは:退職の意思については、現在の症状によるものかもしれないことを患者に伝え、まずは治療に専念し、症状が改善してから改めて考えるよう促す。現段階では退職に関する判断を保留し、不安な気持ちに寄り添う。選びやすい理由:家族との連携は重要であり、重大な決定には家族の関与を促すのが一般的であるという考えから選択しやすい。混同注意:うつ病による一時的な悲観的思考に基づく意思決定と、病状が安定した上での合理的な意思決定の区別。
- 5. 正解。入院生活チェックリストの記入を促すことは、現在の抑うつ状態の患者にとって適切な対応である。リスト形式は自由記述よりも回答のハードルが低く、現在の生活リズムや活動内容を客観的に把握できる。また、自身の活動を振り返ることで、わずかな活動でも「できた」という達成感につながり、行動活性化の第一歩となる。これは、症状が重く意欲低下が著しい導入初期の患者にとって、負担なく取り組める活動である。選びやすい理由:特に無し。混同注意:特に無し。
国試ポイント
うつ病患者の作業療法導入期の介入の原則、特に活動性の低下が著しい時期の関わり方。
混同注意
急性期うつ病患者に対する早期の介入が、患者の負担を増大させ逆効果になることと、適切な段階で活動を促すことの区別。
次に同じ論点が出たら
うつ病患者の作業療法導入期において、患者の現在の意欲や活動性レベルを考慮し、過度な負担をかけずに達成感を得られるような、段階的かつ構造化された活動から始めることが適切であると判断する。
関連知識
うつ病の治療段階に応じた作業療法の目標設定と介入内容。行動活性化療法、活動スケジュール法。