23歳の男性。中学生の頃から対人緊張が強く、人前での食事で発汗や赤面、緊張が強まることがあった。進学後も実習の発表時に緊張が強く、動悸や発汗を苦にしていた。卒業後に、病院で作業療法士として働いていたが、通勤中のバスに停留所から同僚が数人乗り込んでくると、動悸、振戦、発汗が生じるようになった。車内に知り合いがいなければ不安や自律神経症状を生じることはない。この患者の障害で最も考えられるのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第61回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
この事例の男性は、中学生の頃から『他者の注目を浴びる状況』や『社会的な交流の場面』で一貫して強い不安と身体症状(発汗、赤面、動悸、振戦)を呈しており、特に知り合いがいる場合に症状が悪化するという明確な誘因があります。これは、他者からの評価を恐れ、特定の社会的状況を避ける傾向がある社交不安症の典型的な症状と診断基準に完全に合致します。
選択肢ごとの解説
- 1. 強迫症は、不合理な考え(強迫観念)や行動(強迫行為)が繰り返される特徴があり、この事例のような特定の社会的状況での不安症状とは異なります。正しくは:強迫症であれば、不潔恐怖から過剰な手洗いを繰り返したり、戸締りの確認を何度もするなどの症状がみられます。選びやすい理由:不安を伴う点で共通していますが、不安の原因が特定の思考や行為の反復に起因するものではないため、選択肢として不適切です。混同注意:全般性不安症や不安症スペクトラム内の他の疾患と混同されることがありますが、症状の性質が異なります。
- 2. 正解。この事例の男性は、中学生の頃からの対人緊張、人前での食事や発表における身体症状、さらには通勤バスで同僚と遭遇した際の動悸や発汗など、一貫して『他者の注目を浴びる状況』や『社会的な状況』において強い不安と身体症状を呈しています。知り合いがいなければ症状が出ないという点も、社交不安症の診断基準と合致します。
- 3. パニック症は、特定の状況によらず突然に激しいパニック発作が繰り返され、それに伴う予期不安を特徴とします。この事例では、不安が『特定の社会的状況』に限定されているため、パニック症とは異なります。正しくは:パニック症であれば、通勤バスだけでなく、自宅にいる時や買い物中など、予測できない状況で突然、動悸、息苦しさ、めまいなどの激しい発作が起こり、死の恐怖を感じることがあります。選びやすい理由:動悸や発汗といった身体症状は共通しているため、混同しやすいですが、パニック症は状況が限定されず、予期しない発作が主である点が異なります。混同注意:全般性不安症や他の特定の恐怖症と混同されることがありますが、パニック発作の予測不能性と予期不安が特徴です。
- 4. 解離性同一症は、複数の独立した人格(解離性同一性)が存在し、それぞれのパーソナリティが意識や記憶を支配する特徴があります。この事例には、複数の人格が出現するような記述は一切ありません。正しくは:解離性同一症であれば、記憶の欠落(時間や出来事の記憶がない)、声やしぐさの変化、異なる人格によって行動が変わるなどの症状がみられます。選びやすい理由:精神疾患という広い枠組みで考えた際に選択肢の一つとなりえますが、症状の内容が全く異なるため、混同の余地は少ないです。混同注意:他の解離症群(解離性健忘、離人感・現実感消失症)と混同されることはありますが、人格の複数性が特徴です。
- 5. 演技性パーソナリティ症は、他者の注目を集めようと常に振る舞い、感情表現が過剰で、誘惑的な行動をとることを特徴とします。この事例の男性は、人前での注目を避けたいという傾向を示しており、演技性パーソナリティ症とは真逆の症状です。正しくは:演技性パーソナリティ症であれば、注目を集めるために大げさに感情を表現したり、自己中心的でドラマチックな行動をとったりします。選びやすい理由:「人前での行動」という共通のキーワードがあるため、表面的な理解で選択肢として検討してしまうかもしれませんが、症状の本質が異なります。混同注意:自己愛性パーソナリティ症や境界性パーソナリティ症など、他のパーソナリティ症と混同されることがありますが、症状の核となる部分が異なります。
国試ポイント
本問題は、精神疾患の具体的な症状記述から、DSM-5などの診断基準に基づいた疾患の鑑別診断を行う能力を問うものです。特に不安症群の中での鑑別ポイント(症状の誘発状況、発作の性質など)を正確に理解しているかが重要となります。
混同注意
パニック症(予期しない発作)、全般性不安症(特定の状況に限定されない持続的な不安)、回避性パーソナリティ症(広範囲な対人回避と劣等感)などが鑑別対象となります。特に回避性パーソナリティ症とは症状が類似しますが、回避性パーソナリティ症はより広範囲な対人関係の回避と劣等感を伴う点で異なります。
次に同じ論点が出たら
次に同様の鑑別問題が出た場合、まず『症状が出現する状況が限定的か否か』を確認することが重要です。特定の社会的状況に限定される場合は社交不安症、予測できない発作が主であればパニック症、特定の状況に限定されない持続的な不安であれば全般性不安症、といったように絞り込むことができます。また、症状が『他者からの評価を恐れる』ことに起因しているかどうかも大きな判断基準となります。
関連知識
社交不安症(旧・社会不安障害)は、他者から注目される行動や社会的な状況において、強い恐怖や不安を感じる精神疾患です。DSM-5の診断基準では、他者からの負の評価への恐れが中心にあり、不安のために特定の社会的状況を避けたり、強い苦痛を伴いながら耐えたりします。薬物療法(SSRIなど)や認知行動療法が有効な治療法であり、作業療法では、不安を誘発する状況への段階的な曝露練習(例えばロールプレイング)、リラクゼーション技法の指導、社会的スキル訓練、不安に対する対処スキルの獲得支援などが行われます。