59歳の男性。右利き。脳梗塞による左片麻痺。発症21日目のBrunnstrom法ステージは上肢Ⅳ、手指Ⅲ、下肢Ⅲ。表在感覚は上肢手指下肢共に鈍麻。椅子座位で机上の布を用いたワイピングの上肢機能的訓練を図のように行った。訓練の目的はどれか。2つ選べ。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3・5番
解説
この訓練は、Brunnstromステージ上肢Ⅳの患者に対して、机上で布を拭くという具体的な動作を用いて行われています。上肢Ⅳステージでは、共同運動からの分離運動の促進が重要な訓練目標となります。ワイピング動作は、肘関節の屈曲・伸展といった分離運動を伴うため、肘の分離運動の改善が目的の一つとなります。また、机上での拭き動作は、腕を前方へ伸ばし、布を押し出す際に肩甲骨を前方に突き出す(前方突出、プロトラクション)運動を促します。この肩甲帯の前方突出運動は上肢のリーチ動作や、より広範な機能的な上肢使用に不可欠であり、麻痺側ではしばしば制限されるため、その改善も重要な目的となります。
選択肢ごとの解説
- 1. ワイピング訓練は、布を軽く保持して腕全体を動かす動作であり、握力そのものの集中的な強化を目的とするものではありません。手指の粗大な握り込みはBrunnstromステージⅢで可能ですが、この訓練が直接的な握力増強に特化しているとは言えません。正しくは:握力を主要な訓練目的とする場合は、握る動作に特化した訓練(例:ハンドセラピィボールの握り込み、握力計の使用)を選定します。選びやすい理由:布を握る動作が含まれるため、握力に関係すると考えるかもしれませんが、握り込みよりも上肢全体の運動パターンに焦点があります。混同注意:手指の機能全般の改善と混同しやすいですが、握力は手指機能の一部であり、ワイピングでは特化した改善は期待しにくいです。
- 2. 患者のBrunnstromステージは手指Ⅲであり、手指の巧緻性(細かな精密な動き)はまだ非常に難しい段階です。ワイピング動作は手指の個別運動や精密な操作をほとんど伴わない粗大な運動であり、巧緻性の改善には不向きです。正しくは:手指の巧緻性を改善する目的であれば、ペグボード、ボタンの着脱、ピンチ動作など、より精密な手指の運動を伴う訓練を選定します。選びやすい理由:手指を使う動作ではあるため、巧緻性の向上につながると思われがちですが、ワイピングはあくまで手指の粗大な把持と腕の運動が中心です。混同注意:手指を使った活動であるという点で、手指のすべての機能(握力、巧緻性など)を改善すると誤解されやすいです。
- 3. 正解。患者の上肢BrunnstromステージはⅣであり、これは共同運動パターンから分離した運動が可能になり始める段階です。ワイピング動作では、体幹や肩の動きと協調しつつ、肘関節を独立して屈曲・伸展させる動きが重要になります。この訓練は、肘の分離運動を促し、より自由な上肢運動パターンを獲得するのに適しています。
- 4. 設問に表在感覚が鈍麻であるとありますが、この訓練は主に上肢の運動機能改善を目的としています。ワイピングによる触覚刺激はありますが、感覚鈍麻の直接的な治療や改善を主目的とするものではなく、運動訓練の効果として感覚入力があるに過ぎません。正しくは:感覚改善を主な目的とする場合は、様々な質感の物体の識別、感覚弁別訓練、視覚や聴覚との統合訓練など、感覚刺激に特化したアプローチを選定します。選びやすい理由:感覚鈍麻があるため、何らかの感覚刺激が訓練目的になるのではと考えるかもしれませんが、これは運動訓練であり、感覚訓練とは区別されます。混同注意:運動訓練中に生じる二次的な感覚入力と、感覚そのものの直接的な改善目的を混同しやすいです。
- 5. 正解。机上で布を拭くようなワイピング動作では、腕を前方に伸ばす際に肩甲骨が体幹から前方に突き出す動き(プロトラクション)が不可欠です。脳卒中片麻痺の患者では、この肩甲帯の前方突出運動が制限されやすく、上肢のリーチ動作や機能的な活動に影響を与えます。この訓練は、肩甲帯の適切な運動を促し、上肢機能の向上を図る目的として適切です。
国試ポイント
本問題は、脳卒中後の上肢機能訓練におけるBrunnstromステージと具体的な動作訓練(ワイピング)を結びつけ、その訓練の目的を正しく理解しているかを問うものです。特に、粗大な運動から分離運動への移行段階における訓練目標と、特定の動作に含まれる関節運動や肩甲帯の動きを識別する能力が試されています。
混同注意
手指の機能全般(握力や巧緻性)と、上肢全体の粗大運動や分離運動、肩甲帯の動きを混同しやすいです。また、感覚鈍麻があることから、感覚改善を目的の一つとして選択してしまう可能性がありますが、この訓練は運動機能訓練であり、感覚刺激は二次的なものです。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た際は、提示されたBrunnstromステージ(特に上肢と手指)から、患者がどの程度の運動分離能力を持っているかを正確に把握することが重要です。次に、提示された訓練内容が具体的にどのような関節運動や筋活動を伴うのかを詳細に分析し、それがBrunnstromステージに応じた適切な訓練目標に結びつくかを判断します。感覚に関する記述があった場合でも、訓練が運動訓練であれば、感覚改善は主目的ではないと考えるように注意が必要です。
関連知識
Brunnstromステージの各段階における上肢・手指・下肢の運動特性とその訓練目標。肩甲帯の運動(前方突出、後退、挙上、下制、上方回旋、下方回旋)と上肢機能との関連。ワイピングやリーチ動作などのADLに結びつく機能的訓練がどのような関節運動や筋活動を伴うかの分析能力。