56歳の男性。数年前から頸椎椎間板ヘルニアを指摘されていた。昨日、自宅で転倒して突然に麻痺を呈した。頸髄損傷と診断され、主な損傷部位以下の機能はASIA機能障害尺度[ASIA Impairment Scale〈AIS〉]でBである。頸椎MRI(別冊No. 1)を別に示す。正しいのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
MRI画像から、C5/6レベルでの椎間板ヘルニアによる頸髄圧迫が示唆されます。AIS Bは不全損傷であり、損傷部位以下の感覚は保たれるものの、運動機能は障害されます。肩をすくめる動作は主に僧帽筋(C2-C4)によって支配されており、損傷レベルより高位の機能であるため、保持されている可能性が高いです。他の選択肢は、損傷レベル以下の機能や高位損傷で生じる症状を述べているため、誤りです。
選択肢ごとの解説
- 1. AIS Bは不全損傷であり、完全損傷を示す症状ではありません。横隔膜の麻痺は通常、C4以上の高位頸髄損傷(完全損傷)で生じますが、AIS Bでは残存機能があるため、直ちに麻痺があるとは断定できません。正しくは:AIS Bでは感覚は残存しているものの運動機能は損傷部位以下で失われているか著しく低下しているため、横隔膜の麻痺は通常見られません。選びやすい理由:頸髄損傷というキーワードから重篤な麻痺を想像しやすいため、横隔膜麻痺のような症状も含まれると誤解しやすいかもしれません。混同注意:完全損傷と不全損傷の区別、および各損傷レベルでの呼吸筋への影響と混同しやすいです。
- 2. 正解。肩をすくめる動作は主に僧帽筋の支配であり、これは脊髄副神経(C2-C4レベル)によって行われます。MRI画像から、主にC5/6レベルでの圧迫が示唆されており、このレベルより高位の機能は保持されている可能性が高いため、肩をすくめる動作は可能であると考えられます。AIS Bは不全損傷であるため、損傷レベル以上の機能は保たれていることが多いです。選びやすい理由:損傷レベルを特定し、そのレベルよりも上位の機能が保持されていることを理解していれば選択しやすいです。
- 3. 頸部の感覚は損傷レベル(C5/6が疑われる)よりも高位のデルマトームで支配されており、一般的に損傷部位以下の感覚障害が問題となります。頸部そのものの感覚は損傷レベルより上位に位置するため、通常は保たれます。正しくは:損傷部位以下の体幹や四肢に感覚機能障害を認めます。選びやすい理由:頸髄損傷という言葉から、頸部全体に問題が生じると短絡的に考えてしまうかもしれません。混同注意:損傷部位とデルマトームの関係、特に損傷レベルより上位の感覚は正常であることが多いという点を混同しやすいです。
- 4. スプーンを握る動作は、前腕の回内・回外や手関節・手指の屈曲伸展などの複雑な動きを含み、C6-C8レベルの運動機能が関与します。MRI画像で示唆されるC5/6レベルでの圧迫による損傷の場合、AIS B評価では通常、この機能は大きく障害されるため、自力での食事は困難です。正しくは:スプーンを握る動作は困難であり、自助具などが必要となる可能性が高いです。選びやすい理由:AIS Bが不全損傷であることから、ある程度の運動機能が残存していると期待してしまい、比較的簡単な動作であるスプーン操作が可能だと誤解する可能性があります。混同注意:AIS Bにおける残存運動機能の程度と、具体的な日常生活動作に必要な脊髄レベルの機能と混同しやすいです。
- 5. 棚の上の物を取る動作は、肩関節の屈曲・外転、肘関節の伸展、手関節・手指の協調した動きが必要であり、広範囲の運動機能(特にC5-T1レベル)が求められます。MRI画像からC5/6レベルの損傷が示唆され、AIS B評価であることから、この複合的な動作は非常に困難であると考えられます。正しくは:棚の上の物を取る動作は困難であり、届きやすい位置への配置や補助具が必要となります。選びやすい理由:不全損傷であるため、わずかな筋力があれば可能だと誤解しやすいかもしれませんが、重力に逆らう抗重力位での動作は非常に困難です。混同注意:損傷レベルと、上肢の複雑な動作に必要な筋力や関節可動域の関係を混同しやすいです。
国試ポイント
頸髄損傷のレベルとASIA機能障害尺度(AIS)の理解、および各レベルで支配される筋や感覚領域、それらに基づく日常生活動作能力の判断が問われています。MRI画像から損傷レベルを推測し、その情報とAIS Bの定義を結びつけて考える応用力が求められます。
混同注意
完全損傷と不全損傷の区別、AIS A、B、C、Dのそれぞれの定義、および各脊髄レベルでのデルマトームとミオトームを混同しやすいです。また、脊髄損傷のレベルと実際の日常生活動作の関連性が正しく理解されていないと誤った選択をする可能性があります。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た場合、まずMRI画像から損傷部位を特定し、次にAISの評価がA〜Dのどれであるかを確認します。その上で、損傷レベルより高位の機能は残存し、損傷レベルより低位の機能はAISの定義に従って判断するというプロセスで考えます。特に具体的な動作がどの脊髄レベルの機能に依存するかを把握しているかが重要です。
関連知識
ASIA機能障害尺度の完全な定義(A: 完全損傷、B: 不完全損傷で感覚のみあり、運動なし、C: 不完全損傷で運動あり、D: 不完全損傷で運動機能良好、E: 正常)、各頸髄レベルで支配される主要な筋群とそれによって可能になる動作(C5: 肘屈曲、C6: 手関節背屈、C7: 肘伸展、C8: 指屈曲、T1: 指外転)、呼吸筋の支配(横隔膜はC3-C5)。