49歳の男性。右利き。右中大脳動脈領域の脳梗塞。回復期リハビリテーション病棟で作業療法が開始された。左上下肢に中等度の運動麻痺がある。BITは通常49/146、行動47/81。車椅子では常に図のような姿勢がみられた。この患者への作業療法で最も適切なのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
この患者は、右中大脳動脈領域の脳梗塞、左上下肢の麻痺、そして行動性無視検査(BIT)の低スコア(特に通常項目49/146点、行動項目47/81点)から、左半側空間無視を強く示唆します。さらに、車椅子での特徴的な姿勢もその徴候の一つです。半側空間無視は、損傷と反対側の空間にある刺激に注意を向けられない、あるいは認識できない状態を指します。視覚走査法は、無視側の空間に注意を向けるよう意識的に訓練し、系統的な視覚探索パターンを再学習させることで、半側空間無視の改善を図る代表的な介入法であるため、この患者に対する最も適切な作業療法介入と言えます。
選択肢ごとの解説
- 1. PQRST法は、文章の読解力を向上させるための学習戦略であり、半側空間無視という特定の認知機能障害に対する直接的な介入法ではありません。正しくは:半側空間無視の改善に焦点を当てた介入法を適用します。選びやすい理由:認知機能の改善を目的とする点では共通しているため、認知障害全般に効果があるかのように誤解される可能性があります。混同注意:読解能力や学習効率を高めるための一般的な認知戦略と、特定の高次脳機能障害へのリハビリテーション介入とを混同しやすいです。
- 2. 間隔伸長法は、記憶の定着を促すための学習方法であり、反復学習の間隔を徐々に長くしていくことで記憶保持を目的とします。半側空間無視の注意の偏りや探索障害を直接的に改善するものではないため不適切です。正しくは:半側空間無視の改善に焦点を当てた介入法を適用します。選びやすい理由:記憶障害や学習困難を抱える患者さんへの介入として認識されているため、他の認知機能障害にも有効だと勘違いしやすいです。混同注意:記憶障害に対する介入法と、半側空間無視による注意・探索障害に対する介入法を混同しやすいです。
- 3. 正解。患者さんの右中大脳動脈領域の脳梗塞、BITの低スコア(特に行動項目)、そして車椅子での特徴的な姿勢は、左半側空間無視を強く示唆しています。視覚走査法は、無視側の空間へ意図的に注意を向けさせ、系統的な視覚探索パターンを習得させることで、無視側の情報認識能力を向上させる、半側空間無視に対する代表的かつ効果的な介入法です。
- 4. 遮断除去法は、行動療法の一種であり、不適切な行動を維持している強化要因を取り除くことで、その行動を減少させることを目的とします。半側空間無視という認知機能障害そのものに対する直接的な介入法ではありません。正しくは:半側空間無視の改善に焦点を当てた介入法を適用します。選びやすい理由:リハビリテーションの場面で問題行動の修正に用いられることがあるため、何らかの障害改善に有効であると連想されやすいです。混同注意:行動障害や精神医学的な問題への介入法と、高次脳機能障害に対する直接的なリハビリテーション介入法を混同しやすいです。
- 5. 視覚イメージ法は、心の中で視覚的な情景や物体を思い描くことで、記憶の補助、リラクゼーション、あるいは運動イメージ訓練などに用いられます。半側空間無視による注意の偏りや探索障害を直接的に改善する効果は期待できません。正しくは:半側空間無視の改善に焦点を当てた介入法を適用します。選びやすい理由:『視覚』という言葉が入っているため、視覚に関連する障害全般に有効であるかのように錯覚しやすいです。混同注意:視空間認知や半側空間無視に対する介入と、記憶術やリラクゼーション、運動イメージなどの異なる目的の『視覚』を用いる介入とを混同しやすいです。
国試ポイント
この問題は、脳損傷部位とそれに関連する高次脳機能障害(特に半側空間無視)の知識、およびその障害に対する適切な作業療法介入方法を問うものです。BITのスコアや患者の行動観察(図の姿勢など)から症状を正確に把握し、個々の介入法の目的と適用範囲を理解しているかどうかが鍵となります。
混同注意
半側空間無視は、記憶障害や注意障害、失認など他の認知機能障害と混同されやすいです。それぞれの障害に対する評価法や介入法が異なるため、鑑別が重要です。また、『視覚』という言葉を含む選択肢(例:視覚イメージ法)が、半側空間無視に直接的に有効な介入と誤解されやすい点に注意が必要です。
次に同じ論点が出たら
次に半側空間無視に関する問題が出題された場合、まず患者の損傷部位(通常、右半球損傷で左半側空間無視)と具体的な症状(BITスコア、日常生活での無視行動、探索パターンの偏りなど)を確認します。その上で、提示された選択肢が、半側空間無視のメカニズム(注意の偏り、探索の欠如など)を直接的に改善する目的の介入であるかを判断します。
関連知識
半側空間無視の評価としてBIT(行動性無視検査)の他に、線分二等分線課題、模写、描画、文字抹消試験などがあります。介入としては、視覚走査法の他に、プリズム適応、視覚アンカー、リミテッドアームムーブメント(患側上肢の使用促進)、ミラーセラピー、電気刺激、薬物療法などがあります。脳の損傷部位と症状(例:右半球損傷と左半側空間無視)の関連も重要です。