32歳の女性。右利き。運輸会社で10年間事務を担当している。1か月前に脳梗塞を発症したが、運動麻痺は認めないため退院し職場復帰した。与えられた仕事は意欲的に集中して行い、指示されたことを実行することはできていたが、上司からは自分で段取りを考えて行動ができないとの指摘を受けることが多くなった。この患者の高次脳機能障害の検査で最も優先されるのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
この患者は、脳梗塞後に運動麻痺はないものの、上司から「自分で段取りを考えて行動ができない」と指摘されています。これは、課題の計画、実行、モニタリング、修正といった一連のプロセスを管理する「遂行機能」に問題が生じている可能性が高いことを示唆しています。BADS(遂行機能障害症候群行動評価)は、日常生活における遂行機能の障害を評価するために特化された検査であり、この患者の症状に最も合致するため、優先的に実施すべき検査です。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。患者は指示された業務はこなせるものの、自分で段取りを組んで行動することが困難という上司からの指摘があります。これは遂行機能(計画立案、問題解決、行動の開始・維持・転換など)の障害を示唆しており、BADSはこの遂行機能を包括的に評価する検査であるため、最も優先されます。
- 2. BITは半側空間無視を評価する検査です。正しくは:この患者は運動麻痺がなく、無視症状を示唆する記述もありません。遂行機能障害の評価には適していません。選びやすい理由:高次脳機能障害の検査として有名であるため、知識が曖昧だと選択肢として魅力的かもしれません。混同注意:遂行機能の評価と、半側空間無視の評価とを混同する可能性があります。
- 3. CASは失語症(言語機能障害)を評価する検査です。正しくは:患者は「指示されたことを実行することはできていた」とあり、言語理解や表出に大きな問題があるとは示唆されていません。遂行機能障害の評価には直接的ではありません。選びやすい理由:脳梗塞後の高次脳機能障害では失語症もよく見られるため、選択肢として考慮されがちです。混同注意:失語症の評価と遂行機能の評価を混同する可能性があります。
- 4. CATは認知症全般を評価するバッテリーですが、32歳と若年であり、認知症を疑う典型的な症状(記憶障害、見当識障害など)の記述はありません。正しくは:患者の症状は遂行機能の特定の困難を示唆しており、認知症のスクリーニング検査としては適切ですが、より具体的な遂行機能の評価にはBADSが適しています。選びやすい理由:高次脳機能障害の全体的な評価として考えやすいかもしれませんが、具体的な遂行機能の問題を捉えるには専門性が劣ります。混同注意:一般的な認知機能全般の評価と、特定の高次脳機能(遂行機能)の評価を混同する可能性があります。
- 5. RBMTは日常生活に関連する記憶障害を評価する検査です。正しくは:患者の主訴は「自分で段取りを考えて行動ができない」ことであり、記憶障害そのものが主な問題として述べられているわけではありません。遂行機能障害の評価には適していません。選びやすい理由:高次脳機能障害では記憶障害も頻繁に見られるため、選択肢として魅力的かもしれません。混同注意:記憶障害の評価と遂行機能の評価を混同する可能性があります。
国試ポイント
高次脳機能障害の臨床症状から、どの評価バッテリーが適切かを判断する能力が問われています。特に、遂行機能障害の具体的な症状と、それを評価する代表的な検査(BADS)を結びつける知識が必要です。
混同注意
各高次脳機能障害(失語、記憶障害、半側空間無視、遂行機能障害、認知症全般など)の代表的な評価バッテリーと、それぞれの検査で評価される内容を正確に理解していないと、他の選択肢を選んでしまう可能性があります。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出た場合、まず患者の具体的な症状記述(例:『計画ができない』『順序立てられない』『複数のことを同時にできない』など)から、どの高次脳機能が障害されているかを特定します。その上で、その機能に特化した、あるいはそれを包括的に評価できる検査を選択します。
関連知識
BADSの評価項目(規則遂行、行為の計画、視覚探索、地図検索、鍵探し、六角形作成課題、動物のデザインなど)や、各検査の適用対象疾患・評価目的。遂行機能の概念(計画、目標設定、問題解決、自己修正、行動制御など)。