70歳の男性。前頭側頭型認知症。元来真面目な性格であった。ここ数年は平気で他人の物を盗るようになり、注意されても意に介さなくなった。また、些細なことで怒り出すため、対応に困った家族が主治医と相談し、デイケアに通所し、作業プログラムに参加することになった。この患者への対応で適切なのはどれか。2つ選べ。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4・5番
解説
前頭側頭型認知症の患者は、脱抑制、実行機能障害、常同行動、環境変化への適応困難といった特性を持つことが多いです。そのため、作業療法においては、利用者が安心して取り組めるよう、混乱を招かない具体的な環境設定と一貫性のある支援が不可欠です。選択肢4のように道具を見やすい位置に置くことで、作業の開始や継続が容易になり、選択肢5のように決まった手順で作業を行うことで、予測可能性と安心感が生まれ、成功体験を積みやすくなります。これらは、症状を理解し、利用者の行動を支援する上で非常に重要な介入方法です。
選択肢ごとの解説
- 1. 認知機能が低下している方には、具体的で単純な指示が求められます。抽象的または複雑な指示は理解を困難にし、利用者を混乱させる原因となります。正しくは:具体的で、一度に一つの指示を与える。選びやすい理由:利用者の能力を過大評価したり、子供扱いを避ける意識から、あえて抽象的な言葉を選ぶべきだと誤解する可能性もあります。混同注意:認知機能が十分に保たれている利用者への対応や、言語理解能力が高い利用者への対応と混同することがあります。
- 2. 認知症の利用者を叱責することは、自尊心を深く傷つけ、精神的な苦痛や不穏、興奮、あるいは作業への拒否行動を引き起こす可能性が高いです。特に前頭側頭型認知症では脱抑制が見られるため、感情的な対応は避けるべきです。正しくは:失敗しても批判せず、肯定的な声かけや部分的な成功を認め、次の機会への意欲を促す。必要であれば、作業を簡単なものに変更したり、支援者が手助けしたりする。選びやすい理由:問題行動を修正しようとする一般的な教育的アプローチと誤解する可能性があります。また、盗癖があるため、叱責することで行動を止めさせたいと考えるかもしれません。混同注意:精神機能が正常な人や、意図的な問題行動に対する一般的なしつけと混同する。認知症の症状による行動を、本人の意思によるものと捉えてしまうことがあります。
- 3. 認知症の患者は環境の変化に非常に弱く、頻繁な場所の変更は混乱や不安を引き起こしやすいため不適切です。特に前頭側頭型認知症では、常同行動が見られることもあり、安定した予測可能な環境が重要です。正しくは:環境の変化を最小限にし、固定された席や場所で安心して作業できる機会を提供する。ルーティンを確立することが重要です。選びやすい理由:気分転換や新しい刺激を与えることが良いと考える可能性や、柔軟性を促す目的で有効と誤解する可能性があります。混同注意:環境の変化に柔軟に対応できる利用者や、新しい刺激を求める利用者への対応と混同する。また、マンネリ化を避けるという一般論と混同することがあります。
- 4. 正解。前頭側頭型認知症では、注意機能や実行機能の低下が見られることがあります。道具が見やすい位置にあれば、探索の負担が減り、作業への集中を促し、スムーズな活動を支援できます。これは、混乱を防ぎ、円滑な作業遂行を助ける環境調整の基本です。混同注意:物の盗癖があるため、見やすいところに置くと盗みやすいのでは?と考える人がいるかもしれませんが、OT介入としては混乱を防ぎ作業を促すのが優先されます。盗癖への対応は別途行う必要があります。
- 5. 正解。認知症、特に前頭側頭型認知症の患者は、慣れたルーティンや反復的な行動を好む傾向があります。決まった手順で作業を行うことで、予測可能性が高まり、安心感を与え、混乱を防ぎ、作業への参加意欲を促すことができます。これは手続き記憶を活用した効果的なアプローチです。混同注意:創造性や自律性を阻害すると誤解するかもしれませんが、認知症の状況では安定と予測可能性がより重要です。
国試ポイント
認知症全般、特に前頭側頭型認知症の行動特性と高次脳機能障害を理解し、作業療法士としてどのような環境調整や声かけ、行動介入が適切であるかが問われます。具体的指示、安定した環境、成功体験の提供、自尊心への配慮といった基本的な認知症ケア原則が重要視されます。
混同注意
他の認知症(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症)の特性、特に前頭葉症状と、他の脳部位の症状との違い。精神疾患の行動症状との鑑別。認知機能低下の程度による介入方法の違い。
次に同じ論点が出たら
次に同様の論点が出た場合、認知症の種類(特に前頭側頭型認知症の行動特性)を正確に把握し、それに応じた具体的な支援方法(環境調整、声かけ、活動内容の選択)が問われると予想されます。特に、不適切な行動に対する「対応策」だけでなく、「予防策」や「環境調整」に焦点を当てた選択肢に注目することが重要です。
関連知識
前頭側頭型認知症の主要症状(行動障害型FTDの行動変化、意味性認知症の言語症状など)、実行機能障害、脱抑制、常同行動、社会的認知障害。認知症ケアの基本原則(バリデーション、ユマニチュードなど)。環境調整の原則と実践。