33歳の女性。1年前から娘の不登校で心労が重なっていた。1か月前から不眠と意欲低下が出現した。2週前からは口数が減り、食事をほとんど口にせず、「私は母親失格です」と涙をこぼすようになった。夫に付き添われ精神科を受診し入院となり、作業療法が開始された。入院10日目、担当する作業療法士に「もう死なせて下さい。今日で終わりにしたいです」と訴えた。作業療法士の対応で適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
作業療法士が患者から自殺念慮を直接聞かされた場合、最も重要なのは、その訴えを真摯に受け止め、患者の感情を否定せずに傾聴する姿勢を示すことです。選択肢4は、患者の感情を尊重し、その背景にある理由を語るよう促すことで、安全な場で感情を表出させ、さらなる状況把握や支援につなげるための最初のステップとして適切です。これにより、患者は自分の苦しみが理解されようとしていると感じ、信頼関係の構築にも寄与します。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者さんの苦しみを他の人と比較して軽視する発言です。患者さんの感情を否定し、共感の姿勢を示さないため、信頼関係を損ない、心を閉ざさせてしまう可能性があります。特に自殺念慮を表明している患者に対しては、決して行ってはならない対応です。正しくは:患者さんの感情をそのまま受け止め、共感を示す言葉を選ぶべきです。選びやすい理由:一見、患者を励まそうとしているように見えるかもしれませんが、実際には苦しみを理解していないというメッセージになりかねません。混同注意:他の人の状況を引き合いに出して、患者に前向きになるよう促すことと混同しやすいですが、それは患者の感情の否定につながります。
- 2. 患者さんの自殺念慮を否定し、努力を促す発言です。患者さんは「頑張りたくても頑張れない」状況にあり、このような言葉はさらに自分を責め、孤立感を感じさせてしまいます。自殺念慮の背景にある苦痛を理解しようとせず、安易な励ましは逆効果です。正しくは:患者さんの発言を真摯に受け止め、その気持ちを語れるような機会を提供すべきです。選びやすい理由:患者に希望を持たせたい、元気になってほしいという思いから発せられることがありますが、患者の現状を理解していないと受け取られかねません。混同注意:ポジティブな言葉が常に患者にとって良いことであるという誤解と混同しやすいですが、感情の否定につながる励ましは避けるべきです。
- 3. 患者さんの自殺念慮という緊急性の高い訴えに対し、まず行うべきは患者さんの感情への直接的な傾聴と理解です。この対応は、問題の原因を薬効に限定し、患者さんの感情的な苦痛から目をそらしているように受け取られかねません。また、薬の効果の判断は医師の専門領域であり、作業療法士が即座に断定することは適切ではありません。主治医への報告はもちろん重要ですが、第一声としては不適切です。正しくは:まず患者の感情に寄り添い、傾聴することで、その苦しみの深さや具体的な内容を把握しようと努めるべきです。その後、状況を多職種で共有することは重要です。選びやすい理由:多職種連携を意識した行動であり、適切な対応の一部と捉えられがちですが、患者の緊急の訴えに対する第一歩の対応としては不十分です。混同注意:チーム医療における情報共有の重要性と、患者の感情に対する直接的な介入の優先順位を混同しやすいです。
- 4. 正解。患者さんの「死にたい」という切実な訴えに対し、その感情を否定せず、真摯に受け止める姿勢を示すものです。患者さんが自分の苦しみを言葉にできるよう促し、自殺念慮の背景にある具体的な思いや状況を傾聴することは、信頼関係の構築と、患者さんの内的な世界を理解する上で非常に重要です。これにより、自殺リスクの評価や、その後の適切な介入へとつながる第一歩となります。
- 5. 患者さんの現在の苦しみを、入院期間の短さを理由に軽視し、我慢を強いる発言です。患者さんは既に極度の精神的苦痛を感じており、このような言葉は「自分のつらさは理解されていない」と感じさせ、さらに孤立感を深め、自殺リスクを高める可能性があります。正しくは:患者さんの苦痛を認め、共感し、「つらい気持ちを話してください」と促すなど、感情の表出を支える対応が求められます。選びやすい理由:入院治療のプロセスの一部として、一時的な苦痛を乗り越えることを促しているように見えますが、患者の現在の絶望的な気持ちを無視している点に問題があります。混同注意:治療過程で忍耐が必要なことと、患者の切迫した感情を否定することとを混同しやすいです。
国試ポイント
精神科領域における患者の自殺念慮に対する適切なコミュニケーションと対応、特に傾聴と共感の重要性が問われています。患者の感情を否定せず、安全な状況で本音を語れる環境を提供できるかという、作業療法士としての基本的な倫理観と対人援助技術が試される問題です。
混同注意
患者を励まそうとする言動(選択肢2)や、問題解決を急ぐ言動(選択肢3)、患者の感情を軽視する言動(選択肢1、5)は、一見適切に見えても、患者の苦痛を増大させたり、信頼関係を損なったりする可能性があります。特に精神疾患を持つ患者、自殺念慮を持つ患者に対しては、共感と傾聴が最も重要であることを理解する必要があります。
次に同じ論点が出たら
同様の倫理的・コミュニケーションに関する問題が出た場合、まず『患者の感情を否定せず、受容する姿勢を示す選択肢』、次に『傾聴を促し、患者が安心して話せる機会を提供する選択肢』、そして『具体的な解決策の提示や、安易な励ましを避ける選択肢』を優先して検討します。
関連知識
精神科における治療的コミュニケーション、自殺リスクアセスメント、多職種連携、うつ病の症状と対応、精神科作業療法の役割。