72歳の男性。脳血管障害による左片麻痺。Brunnstrom法ステージ上肢Ⅲ、手指Ⅲ、下肢Ⅴ。回復期リハビリテーション病棟へ転棟した。病室ではベッドから起き上がり、端座位は可能である。車椅子からベッドへの移乗動作は自力でできるが、ベッドから車椅子への移乗動作は触れる程度の最小介助が必要である。 この患者の病棟でのベッドから車椅子への移乗動作自立に向けた指導で適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
移乗動作において、患者がベッドに浅く座ることで、重心を前方に移動させやすくなり、立ち上がり時の身体の前傾が容易になります。これは、重心線が支持基底面を効率的に越えるための重要な要素であり、立ち上がりから車椅子への重心移動をスムーズに行う上で適切な指導です。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。移乗動作では、重心を前方へ移動させ、重心線が支持基底面を越えることで立ち上がりが可能になります。ベッドの縁に浅く座ることで、立ち上がり時の身体の前傾が容易になり、また、足部をベッドの適切な位置(通常は膝よりやや後ろ)に置くことができ、立ち上がり動作の効率が高まります。深く座っていると、立ち上がり前に前方に移動する手間が増え、身体の前傾も困難になります。
- 2. 麻痺側下肢は支持性が不安定であり、体重をかけると転倒のリスクが高まります。安全な移乗のためには、安定した支持が必要不可欠です。正しくは:「健側下肢を軸に回転させる」または「麻痺側下肢への負担を最小限にするように回転する」が適切です。選びやすい理由:移乗動作で回転が必要であるという点は正しいものの、軸とする下肢の選択が誤っていることに気づかないと選んでしまう可能性があります。麻痺側への意識が向いてしまうと、かえって麻痺側を使ってしまうと誤解するかもしれません。混同注意:健側軸での回転と混同しやすい。または、麻痺側を「前に出す」などの動作と混同しやすい。
- 3. ベッドと車椅子を平行に設置すると、移乗の際に回転する距離が長くなり、患者の負担が大きくなります。特に麻痺がある場合など、不安定な状態での長距離移動は転倒のリスクを高めます。正しくは:「車椅子はベッドに30~45度の角度で、患者の移乗しやすい側に近づけて設置する」が適切です。選びやすい理由:車椅子をベッドのそばに置くという漠然としたイメージから、平行が正しいと誤解する可能性があります。混同注意:移乗時の適切な車椅子の配置角度と混同しやすい。
- 4. 立ち上がる際は、足部を膝よりやや後ろに引くことで、重心を前方に移動させやすくなり、身体の前傾と立ち上がり動作がスムーズになります。足部が膝より前方にあると、立ち上がり時に後方へ倒れやすくなったり、大きな力が必要になったりします。正しくは:「足部を膝よりやや後方へ引いて立ち上がる」が適切です。選びやすい理由:足の位置を意識すること自体は正しいので、前後の位置関係を誤解していると選びがちです。混同注意:立ち上がりやすい足の位置関係(膝より後ろ)と混同しやすい。
- 5. ベッドの高さが車椅子より低いと、立ち上がる際に大きな上向きの力が必要となり、患者の負担が増大します。特に下肢筋力が低下している患者にとっては困難であり、不安定になりやすいです。正しくは:「ベッドの高さを車椅子の座面とほぼ同じか、やや高めにしておく」が適切です。選びやすい理由:移乗しやすい高さ調整が重要であるという点は正しいですが、その具体的な高さ関係を誤解していると選んでしまうかもしれません。混同注意:移乗の方向(低い方へ降りる)と、実際に必要な高低差の調整(高い方から低い方へ移る場合はベッドをやや高くする)を混同しやすい。
国試ポイント
移乗動作における具体的な指導内容とその根拠(運動学的な原則、安全性、効率性)を理解しているかが問われています。特に、体位や姿勢の調整が動作に与える影響を正確に把握している必要があります。
混同注意
移乗動作の各段階における具体的な姿勢や道具の配置に関する知識が不確かな場合、誤った選択肢を選びやすいです。例えば、足の位置、車椅子の角度、ベッドの高さなど、細かい設定の原則を混同することがあります。
次に同じ論点が出たら
次に同様の論点が出た場合、スライディングボードを使用した場合の移乗指導、起居動作から座位への移乗、移乗動作の種類に応じた指導の違い、あるいは介助者の身体力学に基づく介助方法などが問われる可能性があります。
関連知識
移乗動作の基本原則(重心移動、支持基底面、身体のアライメント)、立ち上がり動作の運動学、片麻痺患者の介助・指導のポイント、車椅子の基本操作と環境設定。