60歳の男性。右利き。2か月前に右中大脳動脈領域の脳梗塞を発症。Brunnstrom法ステージは左上肢Ⅵ、手指Ⅴ、下肢Ⅵ。認知機能・言語機能・移動能力に著明な問題はない。現在は外来リハビリテーション治療を継続中であり、1か月後の職場復帰を希望している。発症前は会社勤務でパソコンによる経理作業に従事していた。職場復帰に向けた対応で最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第61回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
職場復帰支援では、まず対象者の現在の身体機能、認知機能、精神状態を総合的に評価し、その上で具体的な復帰プロセスを検討します。この事例では、身体機能(特に麻痺側である左手の回復度合い、下肢機能)が良好であり、認知機能・言語機能・移動能力にも問題がないとされています。しかし、「移動能力に著明な問題はない」とあっても、実際の通勤は身体的・精神的な負担が大きく、疲労や人混みでのバランス、時間の制約など、リハビリテーションの場では評価しきれない要素が多いです。特に職場復帰に向けては、まず「職場へたどり着く」ことが前提となるため、安全かつ持続可能な通勤手段の確認は、最も現実的で優先度の高い支援内容です。これにより、通勤に伴う具体的な課題を特定し、必要に応じた対策を講じることができます。
選択肢ごとの解説
- 1. この男性は右利きであり、麻痺側である左手の機能も良好に回復している(Brunnstromステージ上肢Ⅵ、手指Ⅴ)。パソコンを使った経理業務は右利きであれば、麻痺の程度が軽度な非利き手に多少の制限があっても遂行できる可能性が高い。現状で直ちに配置転換を求めるのは時期尚早であり、まずは現在の職務で復帰できるか評価し、必要に応じて環境調整を検討すべきです。正しくは:まずは元の職務での復帰可能性を評価し、必要であれば職務内容や環境の調整を会社と協議する。選びやすい理由:脳梗塞後の後遺症を考慮し、職務の軽減や変更が患者にとって負担軽減になると考えやすいため。混同注意:症状が重度で元の職務への復帰が明らかに困難なケースや、利き手が麻痺した場合の対応と混同しやすい。
- 2. 正解。脳梗塞後の身体能力が良好で、移動能力に著明な問題がないとされていても、長距離移動や混雑した公共交通機関での通勤は、健常時と比較して大きな身体的・精神的負担となる可能性があります。疲労感の増大や、バランス能力の微妙な低下、人混みへの適応などが考慮されます。職場復帰をスムーズに進める上で、安全で無理のない通勤手段の確保は、最も現実的で優先度の高い初期段階の対応です。
- 3. 患者は「移動能力に著明な問題はない」と記載されており、Brunnstrom下肢ステージもⅥと高いため、基本的なADL(着替え、入浴、食事など)はすでに自立している可能性が高いです。職場復帰を目指す段階で、集中的なADL訓練は優先度が低いと考えられます。正しくは:基本的なADLは自立していると判断し、職場復帰に特化した手段的日常生活活動(IADL)や作業関連の評価・訓練に移行する。選びやすい理由:リハビリテーションの基本的な要素であるため、一見正しい選択肢に見えますが、この患者の回復レベルと目標には合致しません。混同注意:発症直後や重度の障害がある患者に対するリハビリテーション計画と混同しやすい。
- 4. 主治医の診断書は復職の条件の一つであり、医学的な意見を裏付ける重要な書類ですが、それだけで復職が保証されるわけではありません。作業療法士としては、職場環境の評価、作業遂行能力の評価、通勤能力の確認など、多角的な視点から復職支援を行う責任があります。診断書のみに依存した情報提供は不適切であり、患者が復職後に困難に直面するリスクを高めます。正しくは:主治医の診断書は必要条件の一つであり、作業療法士は機能評価や環境調整を通じて、復職に向けた多面的な支援を行う旨を伝える。選びやすい理由:診断書が復職に必要な書類であることから、その重要性を過大評価してしまいやすいです。混同注意:医療機関での医療的判断と、作業療法士による生活・職業面への支援の役割。
- 5. この男性は右利きであり、左手はすでにBrunnstromステージで手指Ⅴ、上肢Ⅵと良好な回復を示しています。元の仕事がパソコンを使った経理業務であることを考えると、利き手である右手が無事であり、現在の左手の機能でも十分に対応できる可能性が高いです。完全な回復を待つことは、かえって社会復帰を遅らせ、患者の意欲低下につながる可能性があります。正しくは:現在の左手機能でも、右利きであることを考慮すると、職場復帰は十分に検討可能であると伝え、必要に応じて作業環境の調整や補助具の導入を検討する。選びやすい理由:障害のある側の機能改善を最優先と考える傾向があるため、選びやすいです。混同注意:重度の麻痺や利き手の麻痺で、その機能改善が絶対条件である場合と混同しやすい。
国試ポイント
職場復帰支援における作業療法士の役割と優先順位を問う問題です。患者の残存能力と仕事内容、職場復帰への意欲を総合的に判断し、最も現実的で実用的な介入を選択する能力が求められます。特に、ADLの自立度が高く、認知機能も良好なケースでの「次の一手」が問われることが多いです。
混同注意
基礎的なADL訓練と、職場復帰に向けたより応用的なIADL(通勤や仕事関連の活動)の区別。また、医学的な診断と、実際の職場での機能的ニーズとの違い。
次に同じ論点が出たら
通勤手段の確認後、どのような情報(例:通勤時間、混雑度、会社の物理的環境、業務内容の詳細、会社の産業医や人事担当者との連携)を得て、次に何を行うべきか。例えば、通勤時間中の疲労度評価、通勤ルートのシミュレーション、会社での作業評価、職場環境調整の提案など。
関連知識
脳卒中後の高次脳機能障害の評価と対応、BrunnstromステージとADL/IADL能力の関連、職場復帰支援のプロセス(準備期、復帰期、適応期)、労働衛生管理、産業リハビリテーション。