35歳の男性。交通事故による外傷性脳損傷で入院となった。受傷10日後から作業療法が開始された。運動麻痺や感覚障害はみられなかった。些細なことで怒りをあらわにし、作業療法中も大きな声をあげ、急に立ち上がってその場を去る、というような行動がしばしばみられた。患者はこの易怒性についてほとんど自覚しておらず病識はない。この患者の怒りへの対応で最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第54回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
外傷性脳損傷後の易怒性や行動障害は、前頭葉機能障害など脳の器質的な問題に起因することが多く、患者自身に病識がないことが特徴です。このような場合、患者に自己洞察や感情コントロールを直接求めるのは困難であり、反発を招く可能性が高いです。まず作業療法士が行うべきは、患者の行動を客観的に観察し、どのような状況や刺激が怒りの誘因となっているのかを詳細に把握することです。これにより、環境調整や具体的な行動介入の計画を立てるための基礎情報が得られます。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者に病識がなく、自己洞察が困難な段階で原因追求を促しても効果は期待できず、かえって混乱や抵抗を招く可能性があります。まずは状況把握と環境調整が優先されます。正しくは:病識がある程度回復し、自分の感情と向き合える状態になってから、原因について自己洞察を促す。選びやすい理由:一般的な心理療法のアプローチとして正しそうに聞こえるため。混同注意:病識がある患者への対応と混同しやすい。
- 2. 患者は怒りに対する病識がなく、感情制御が困難な状態です。この段階で「自分でコントロールしろ」と指示しても理解や実行は難しく、むしろ反発や無力感を引き起こす可能性があります。正しくは:感情のコントロールが難しい現状を理解し、まずは怒りが誘発される状況を特定し、環境調整や具体的な行動変容を支援する。選びやすい理由:一般的に「感情は自分でコントロールすべき」という考え方があるため。混同注意:感情コントロール能力がある患者への対応と混同しやすい。
- 3. 患者に怒りに対する病識がほとんどないため、自分の行動が他者に与える影響を客観的に認識し、それを書き出すことは極めて難しいです。これは不必要な負担となり、治療関係にも悪影響を与える可能性があります。正しくは:病識が獲得され、自己認識が高まってから、行動が他者に与える影響について話し合う機会を設ける。選びやすい理由:自身の行動を客観視させるための有効な手段として考えられるため。混同注意:自己理解が深まっている患者への介入と混同しやすい。
- 4. 正解。外傷性脳損傷後の易怒性には、特定の刺激や状況が誘因となることが多いです。患者自身に病識がない場合、まずは医療者が客観的に行動パターンを把握することが、今後の適切な介入や環境調整の第一歩となります。正しくは:この選択肢は正しい。選びやすい理由:これはまさに専門職として初期に行うべき対応だから。混同注意:患者への直接的な介入と混同しやすいが、まずは情報収集が重要。
- 5. 患者に病識がなく、易怒性も強い状況で、一方的に脳損傷と症状の関係を説明しても、理解を得ることは困難です。むしろ、患者が説明を拒否したり、さらに怒りを増幅させたりするリスクがあります。理解の度合いに合わせて段階的に行うべきです。正しくは:まず患者の怒りのパターンを把握し、信頼関係を築きながら、タイミングを見計らって脳損傷と行動変化の関連について簡潔に伝える。選びやすい理由:病態の理解を促すことは重要だと感じるため。混同注意:理解力があり、病識のある患者への教育的介入と混同しやすい。
国試ポイント
脳損傷後の病識欠如がある患者の行動障害(特に易怒性)に対する初期の作業療法士の対応として、最も適切なものは何かを問う問題です。患者への直接的な指導や洞察促進よりも、客観的な情報収集と環境要因の把握が優先されることを理解しているかが重要です。
混同注意
脳損傷後の高次脳機能障害の症状と、それに対する初期の介入方法について、病識の有無や症状の重症度に応じた適切な対応の選択肢が混同しやすいです。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た場合、まず患者の「病識の有無」と「症状の緊急性・重症度」を判断し、それに基づいて「患者への直接介入か、環境調整・情報収集が優先か」を考慮して選択肢を選ぶと良いでしょう。
関連知識
外傷性脳損傷後の高次脳機能障害(特に前頭葉機能障害による遂行機能障害、行動・情動障害)、病識の概念、行動療法の基本原則(ABC分析など)、環境調整の重要性。