50歳の女性。10年前に義母の介護に際して突然の視力障害を訴えたが、眼科的異常はみられなかった。1か月前に夫の単身赴任が決まってから、下肢の冷感、疼痛を主訴として、整形外科、血管外科などを受診するも異常所見は指摘されなかった。次第に食事もとれなくなり、心配した夫が精神科外来を受診させ、本人はしぶしぶ同意して任意入院となった。主治医が、身体以外のことに目を向けるようにと作業療法導入を検討し、作業療法士が病室にいる本人を訪問することになった。本人は着座すると疼痛が増強するからと立位のままベッドの傍らに立ち続けて、他科受診できるよう主治医に伝えてほしいと同じ発言を繰り返す。この患者に対する病室での作業療法士の対応で最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第54回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
この患者は精神科に入院していますが、身体症状(下肢の痛み、冷感)を強く訴え、その解決を求めています。過去にも身体症状で複数の科を受診しており、身体化症状である可能性が高いです。このような患者に対し、初対面の作業療法士がすぐに心理的な問題に切り込んだり、安易な約束をしたり、診断名や病態を説明したりすることは、患者の訴えを否定し、不信感を抱かせるリスクが高いです。最も重要なのは、まず患者の訴えを傾聴し、その苦痛に寄り添う姿勢を示すこと、そして得られた情報を他の医療スタッフと共有し、治療方針の一貫性を保つことです。初期段階では、患者の言葉を注意深く聞き、現状を把握することに徹するのが最も適切です。
選択肢ごとの解説
- 1. 作業療法士が患者に他科受診を約束することは、専門職としての権限を超えています。主治医の判断を覆すことにも繋がり、患者との信頼関係を損ねる可能性があります。正しくは:患者の訴えを傾聴し、その内容を主治医に伝えることまではできますが、受診の可否を約束することはできません。選びやすい理由:患者の苦痛を和らげたい、患者の要求に応えたいという思いから、安易に約束してしまいがちです。混同注意:患者の希望を聞き入れることと、専門職の役割や限界を理解することを混同しやすいです。
- 2. 患者は現時点で身体症状(下肢の痛み、冷感)を強く訴えており、身体的な苦痛に焦点が当たっています。この状況で唐突に心理的な問題(夫の単身赴任)に話を振るのは、患者が自分の訴えを理解されていないと感じ、拒否反応を示す可能性が高いです。関係性が構築されていない初期段階でのこのような質問は不適切です。正しくは:まずは患者の現在の身体症状への苦痛に寄り添い、訴えを傾聴することから始め、関係性が構築されてから徐々に心理的な側面に目を向ける働きかけを検討します。選びやすい理由:既往歴からストレスが関与している可能性が高いと判断し、早期に原因を探ろうとしてしまいがちです。混同注意:病歴から心理的要因が推測されるケースで、直接的に心理的側面に言及するタイミングを誤りやすいです。
- 3. 作業療法士が痛みの軽減を保証することはできません。作業療法は痛みの軽減を直接的に目的とする治療法ではなく、身体機能の改善や活動性の向上を目指すものです。安易な約束は、患者の期待を裏切り、不信感を生む可能性があります。正しくは:作業療法が目指す目標や、患者の生活にどのような良い影響を与えうるかを、具体的に説明し理解を求めるべきです。痛みの管理については主治医や看護師と連携します。選びやすい理由:患者の抵抗をなくし、作業療法にスムーズに導入したいという思いから、効果を誇張したり、約束してしまったりしがちです。混同注意:作業療法の効果を説明することと、効果を保証することを混同しやすいです。また、患者の不安を取り除きたいという思いから、安易に言いきってしまうことがあります。
- 4. 患者は身体症状の苦痛を強く訴えている状況で、「身体に異常はない」と繰り返し伝えたり、「心の病気」だと指摘したりすることは、患者の訴えを否定し、苦痛を軽視していると受け取られかねません。これにより患者は不信感を抱き、治療への抵抗感を強める可能性があります。正しくは:患者の訴えを傾聴し、その苦痛に共感する姿勢を示しながら、まずは信頼関係を築くことに努めます。心理的な側面への働きかけは、患者が受け入れられる状態になってから慎重に行うべきです。選びやすい理由:診断が確定しており、客観的な事実を伝えることが正しいと判断してしまいがちです。混同注意:事実を伝えることと、患者の感情や受容度を考慮して伝えることの区別がつきにくいです。
- 5. 正解。患者は精神科に入院しているものの、身体症状を強く訴え、他科受診を希望しています。作業療法士が病室を訪問した初期段階では、患者の訴えに耳を傾け、現在の苦痛や状態を正確に把握することが最優先です。この時点で独自の判断や介入をするのではなく、まずは情報収集に努め、チーム内での情報共有や連携を重視することで、一貫した医療を提供することに繋がります。患者の不信感を増やさないためにも、安易な発言は避けるべきです。正しくは:正しい選択肢のため、修正の必要はありません。
国試ポイント
身体化症状を持つ患者に対する精神科作業療法における初期対応。特に、患者の訴えと医療者の認識にギャップがある場合の、信頼関係構築とチーム医療の視点からの適切な介入が問われています。
混同注意
患者の訴えを傾聴することと、患者の要求を全て受け入れること(例:他科受診の約束)を混同しやすい。また、病態を説明することと、患者の受容度に合わせて情報を伝えることの区別がつきにくい。
次に同じ論点が出たら
今後同様の症例が出た場合、まず『患者の主観的な苦痛に寄り添う姿勢』『信頼関係構築の重要性』『チーム内での情報共有と一貫した対応』という視点から選択肢を吟味する。特に精神科領域で身体症状を訴える患者に対しては、安易に否定せず、まずは傾聴し、患者のペースに合わせて介入を進めることが重要である。
関連知識
身体化障害、転換性障害、精神科における作業療法の初期評価、医療におけるインフォームドコンセントとアドヒアランス、チーム医療の重要性、患者中心のケア。