48歳の男性。ALS。発症後8年が経過し在宅生活を続けている。四肢や体幹に運動麻痺を生じて、手指筋力はMMT 0レベル、ADLは全介助。さらに錐体路障害の症状を認め、人工呼吸器を装着している。この患者が導入するコミュニケーション機器で適切なのはどれか。2つ選べ。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2・5番
解説
このALS患者は、発症後8年が経過し、四肢と体幹の運動麻痺が重度で、手指筋力はMMT0レベル、ADLは全介助、さらに人工呼吸器を装着しています。このような状態では、発声によるコミュニケーションや、手指を用いた操作は極めて困難です。そのため、残存機能として比較的最後まで保たれることが多い眼球運動を活用したコミュニケーション手段が最も適切です。透明文字盤は介助者の助けが必要ですが、眼球運動で意思表示が可能です。眼球運動センサースイッチは、自力でコンピュータなどを操作できる高度な意思伝達装置として機能します。
選択肢ごとの解説
- 1. 人工喉頭は、喉頭を摘出した患者や声帯に機能障害がある患者が、電気的に音を発生させて発声補助を行う機器です。この患者はALSによる運動麻痺で発声が困難になっているため、声帯自体に問題があるわけではなく、また意思伝達に不可欠な手指やその他の運動機能が著しく低下しているため、人工喉頭を操作することは困難です。正しくは:この患者のように重度の運動麻痺がある場合、人工喉頭の操作は不可能に近いため、代替となる眼球運動や頭部運動で操作可能なコミュニケーション機器が適切です。選びやすい理由:発声が困難な患者にとって「人工喉頭」という言葉はコミュニケーション補助具として連想されやすいですが、ALSの進行期における発声困難の原因と残存機能が考慮されていません。混同注意:声帯機能障害による失声と、ALSによる発話に必要な運動機能の麻痺による発声困難を混同しやすいです。
- 2. 正解。透明文字盤は、介助者が文字盤を通して患者の視線を見て、どの文字を指しているかを判断することで意思疎通を図る方法です。この患者は手指筋力がMMT0レベルでADL全介助という重度の麻痺がありますが、眼球運動の障害についての記述がないため、残存している眼球運動を利用して意思を伝えることができる可能性が高く、導入が適切と考えられます。
- 3. キーボードカバーは、手指の震えや不随意運動がある人が、誤って複数のキーを押してしまうのを防ぐための補助具です。この患者は手指筋力がMMT0レベルと記載されており、自力でキーボードを操作できる機能が完全に失われているため、キーボードカバーを使用しても入力することは不可能です。正しくは:MMT0レベルの患者には、そもそもキーボード操作そのものが不可能なため、他の残存機能(眼球運動など)を利用した機器を検討すべきです。選びやすい理由:コミュニケーション機器としてのキーボードに関連する補助具であるため、一見選択肢としてありそうに思えますが、患者の重症度を考慮すると不適切です。混同注意:軽度の手指機能障害や不随意運動のある患者向けの補助具と、重度麻痺の患者向けの機器を混同しやすいです。
- 4. 音声メモICレコーダーは、患者自身が声を録音して後で再生するための機器です。この患者はALSの進行により発声が困難になっている可能性が高く(人工呼吸器装着からも推測される)、また手指もMMT0レベルであるため、レコーダーを操作したり、自身の声を録音したりすることはできません。正しくは:発声機能が失われている患者にとっては意味がなく、また手指で操作もできないため、この機器は不適切です。選びやすい理由:コミュニケーション補助具としてのレコーダーは広く知られていますが、この患者の残存機能では利用できません。混同注意:発声が可能で、かつ手指操作も可能な患者向けの機器と、ALSで発声・手指操作が困難な患者向けの機器を混同しやすいです。
- 5. 正解。眼球運動センサースイッチは、眼球の動きを感知してコンピュータなどを操作する機器で、ALSの進行によって四肢の運動機能が失われた患者にとって、最後の意思伝達手段となることが多いです。この患者は重度の運動麻痺がありますが、眼球運動に関する障害の記載がないため、残存している眼球運動を活用してコミュニケーションを図るのに非常に適しています。
国試ポイント
ALS患者の病期に応じたコミュニケーション手段の選択に関する知識が問われています。特に、進行期のALS患者において、手指機能や発声機能が失われた場合に、どのような残存機能を活用して意思疎通を図るか(特に眼球運動の活用)を理解しているかが重要です。
混同注意
患者の残存機能(特に重度麻痺における眼球運動の有無)を正確に評価せず、一般的なコミュニケーション補助具の知識だけで選択すると誤答につながりやすいです。例えば、音声関連の機器や手指操作を前提とした機器は、この患者の状態では不適切です。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出た場合、まず患者の身体機能のどこが残存しているか(特に発声、手指、頭部、眼球運動の有無と程度)を詳細に確認し、その残存機能を最も効果的に利用できる機器を選ぶ視点が重要です。
関連知識
ALSの病態進行とそれに伴う症状(球麻痺症状、四肢麻痺、呼吸筋麻痺など)、コミュニケーション手段の段階的導入(筆談、文字盤、意思伝達装置、ICT機器など)、各コミュニケーション機器の適応と禁忌。