63歳の女性。うつ病。元来、働き者で、園芸や裁縫を楽しんでいた。定年退職し、子どもの独立、親の死が続いたころから、趣味や家事をする気力がなくなり、不眠と強い倦怠感を訴え、入院した。薬物療法により症状が軽快し、1か月後には病棟内ADLはほぼ自立したため作業療法が開始された。作業療法の初期評価で最も適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第58回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
うつ病患者の作業療法では、治療初期において、患者の現在の生活リズムや活動状況を把握することが非常に重要です。日中の過ごし方に関する情報を得ることで、患者の活動レベル、意欲、興味、休息の取り方などを包括的に把握でき、個別的な介入計画を立てるための基礎となります。特に、入院中でADLが自立している場合でも、自発的な活動や時間の使い方に問題があることが多いため、この情報は作業療法を進める上で不可欠です。
選択肢ごとの解説
- 1. 初期の評価段階では、患者の能力を直接的に測るよりも、まず現在の生活状況や意欲レベルを把握することが優先されます。調理のような複雑な活動は、患者に過度な負担をかける可能性があります。正しくは:患者の現在の状態や意欲を考慮し、段階的に活動の評価に進むべきです。まずは、活動への興味や過去の経験を聴取し、簡単な活動から導入を検討します。選びやすい理由:ADLの評価は重要であるため、具体的な活動能力を評価したくなるかもしれません。しかし、うつ病患者の場合、意欲の低下や精神的負担を考慮する必要があります。混同注意:病棟内ADLが自立しているため、すぐにIADL(手段的ADL)の評価に進むべきだと誤解しがちです。
- 2. 主観的疲労度は重要な情報ですが、作業療法の初期評価として「最も適切」とは言えません。頻繁に尋ねることは、患者に自身の疲労感を意識させすぎ、かえって負担になったり、疲労感が強調されたりする可能性があります。また、治療によって症状が軽快している段階であれば、以前ほどの強い倦怠感ではない可能性もあります。正しくは:疲労度を把握することは重要ですが、過度に繰り返し確認するのではなく、活動実施前後や一定の期間で適切に評価項目に含めるべきです。また、疲労の訴えだけでなく、活動状況や表情、言動から客観的な疲労のサインも観察します。選びやすい理由:うつ病患者は倦怠感を訴えて入院しているため、疲労度の把握が重要だと感じるかもしれません。混同注意:症状としての倦怠感と、治療段階での活動量を考慮した疲労度の評価を混同しやすいです。
- 3. 裁縫は患者が以前楽しんでいた活動ですが、初期評価の段階で特定の活動を導入し、その遂行能力を評価することは適切ではありません。症状が軽快したとはいえ、うつ病患者は活動への意欲が低下していることが多く、無理に特定の活動を促すことは抵抗感や負担につながる可能性があります。まずは患者の興味や意欲を確認し、同意を得てから活動の導入を検討すべきです。正しくは:裁縫への興味や意欲があるかを確認した上で、患者のペースに合わせて活動導入を検討します。初期評価では、過去の活動歴や現在の興味を広く聴取することが優先されます。選びやすい理由:患者が過去に楽しんでいた活動であるため、それを導入して評価することが有効だと考えやすいです。ADL自立後なので、次のステップとして趣味活動を促したくなるかもしれません。混同注意:過去の趣味活動の再開と、現在の状態に合わせた活動選択・評価の段階を混同しやすいです。
- 4. 集団活動は初期の段階で導入するには負担が大きい場合があります。患者の個別性や現在の状態を把握しないまま集団活動に参加させることは、不安やストレスを引き起こす可能性があります。まず個別の面接や簡単な活動を通して、患者の社会性や活動への適応能力を評価することが先決です。正しくは:集団活動への参加は、個別評価で患者の状態や適応能力が確認された後、段階的に検討すべきです。まずは個別での関わりから始め、その中で集団への参加意欲や適性を見極めます。選びやすい理由:病棟内のADLが自立しているため、次のステップとして社会性の評価や集団活動への適応を見るべきだと感じやすいです。混同注意:個別の評価と集団での評価の順序を混同しやすいです。
- 5. 正解。うつ病患者の初期評価において、現在の生活リズムや活動状況を把握することは非常に重要です。日中の過ごし方、活動と休息のバランス、興味の対象などを把握することで、患者の現状の機能レベル、残存能力、生活習慣の問題点、そして今後の作業療法の方向性を具体的に検討するための基盤となる情報が得られます。入院しているとはいえ、病棟内での時間の使い方から、患者の意欲や活動性、興味の広がりを推測できます。正しくは:この選択肢は正しい評価項目です。選びやすい理由:この選択肢は、患者の現在の生活状況や活動レベルを把握するための最も基本的かつ重要な情報であり、他の具体的な活動評価よりも優先されます。混同注意:「病棟内ADLはほぼ自立」という情報から、既に基礎的な生活は問題ないため、より高度な評価に進むべきだと誤解しがちです。しかし、うつ病においては日中の活動状況の把握が、今後の生活再構築の出発点となります。
国試ポイント
うつ病患者に対する作業療法の初期評価における、患者の状態把握の優先順位が問われています。単にADLが自立しているからといって、すぐに具体的な活動や集団活動の評価に進むのではなく、患者の意欲や精神状態に配慮し、現在の生活リズムや活動状況を把握することの重要性を理解しているかがポイントです。
混同注意
病棟内ADLが自立しているという情報から、IADLや趣味活動、社会性といったより高次の活動評価を急ぎがちですが、うつ病患者の精神状態を考慮した上で、まずは現状の日中の過ごし方や活動の『質』を把握することが最も適切です。
次に同じ論点が出たら
次に同じ論点が出た場合、うつ病患者の治療段階に応じた評価の優先順位、特に『精神状態に配慮した評価の導入』や『生活リズムの再構築に向けた情報収集』が重要視されるかどうかを確認します。
関連知識
うつ病の作業療法では、活動性を取り戻すこと、生活リズムを整えること、自己効力感を高めることなどが目標となります。そのためには、まず患者の現在の生活実態を詳細に把握する必要があります。活動分析、時間管理、興味・関心チェックリスト、活動記録などが評価ツールとして用いられます。