図のように右股関節を最大屈曲させた際に、左大腿部の挙上がみられた。短縮が最も考えられる筋はどれか。

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出典:厚生労働省ホームページ(第52回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
大腰筋は、腰椎から大腿骨小転子に付着する強力な股関節屈筋です。一側の股関節を最大屈曲させた際に、対側の骨盤が挙上するということは、股関節屈筋群の短縮によって骨盤が前傾している、あるいは後傾が妨げられている状態を示唆します。特にトーマステストのように、健側の股関節を最大屈曲した際に、患側の下肢がベッドから浮き上がったり、対側の骨盤が挙上したりする現象は、大腰筋を含む股関節屈筋群の短縮を示唆する典型的な所見です。この問題文では右股関節の最大屈曲に伴い左骨盤の挙上がみられたことから、左側の股関節屈筋群、特に大腰筋の短縮が原因と考えられます。大腰筋は脊柱と骨盤の安定性にも深く関わっており、その短縮は骨盤のアライメントに大きな影響を与えます。
選択肢ごとの解説
- 1. 大腿筋膜張筋は股関節の屈曲・外転・内旋に作用し、短縮すれば股関節の屈曲制限や外転・内旋変形を引き起こす可能性がありますが、対側の骨盤挙上(腸骨稜の挙上)の主要な原因ではありません。これは主に股関節屈筋群の短縮と関連します。正しくは:短縮が考えられる場合は、股関節の屈曲・外転・内旋制限が主要な症状として現れます。選びやすい理由:股関節に作用する筋肉であるため、選択肢として考慮されがちです。混同注意:股関節屈曲に補助的に作用するため、股関節屈筋群の短縮と混同しやすいかもしれません。
- 2. 大腿直筋は股関節の屈曲と膝関節の伸展に作用します。短縮すると股関節屈曲制限や膝関節伸展位での股関節屈曲制限が見られますが、対側の骨盤挙上を最も強く引き起こす筋ではありません。この現象は股関節深層の屈筋群の短縮を示唆します。正しくは:短縮が疑われる場合、エリーテスト(Ely test)などで膝関節を屈曲させると股関節が屈曲し、股関節を伸展させると膝関節が屈曲する現象が見られます。選びやすい理由:股関節の屈筋であるため、短縮によって股関節の動きに影響が出ると考えやすいです。混同注意:股関節を屈曲させる主要な筋の一つであるため、他の股関節屈筋群との鑑別が難しいことがあります。
- 3. 中殿筋は股関節の外転と安定化に主に作用します。短縮すると股関節の外転制限や、歩行時のトレンデレンブルグ徴候の原因となることがありますが、対側の骨盤挙上とは直接的な関連が薄いです。骨盤挙上は主に股関節屈筋群の短縮によって起こります。正しくは:中殿筋の短縮は、股関節外転可動域の制限や、患側を挙上しようとした際に骨盤が健側に傾く現象(トレンデレンブルグ徴候)などとして現れます。選びやすい理由:骨盤に付着する筋肉であるため、骨盤の動きに影響を与えると想像しやすいです。混同注意:骨盤周囲の筋であり、脊柱の側弯など骨盤の左右差を伴う状態と混同することがあるかもしれません。
- 4. 縫工筋は股関節の屈曲・外転・外旋と膝関節の屈曲・内旋に作用します。短縮すればこれらの複合的な動きに制限が生じますが、対側の骨盤挙上の主要な原因となるほど強力な股関節屈筋ではありません。この現象は、より深層の強力な股関節屈筋の短縮を示唆します。正しくは:縫工筋の短縮は、いわゆる「あぐらをかくような肢位」を取りにくくしたり、股関節の屈曲・外転・外旋の複合運動に制限を生じさせたりします。選びやすい理由:股関節を屈曲させる作用があるため、短縮が関係すると考えやすいです。混同注意:大腿直筋と同様に、股関節の屈筋の一つであるため、他の屈筋との鑑別が難しいことがあります。
- 5. 正解。大腰筋は強力な股関節屈筋であり、脊柱と骨盤、大腿骨に付着します。一側の股関節を最大屈曲させた際に、対側の骨盤が挙上する(上前腸骨棘が上方へ移動する)現象は、大腰筋を含む股関節屈筋群の短縮によって、骨盤が前傾し、結果的に反対側の腸骨稜が上方へ牽引されることで生じやすいです。特に右股関節の最大屈曲時に左骨盤が挙上した場合、右股関節屈筋(大腰筋など)の短縮によって骨盤が前傾傾向となり、さらに左の股関節伸展位にあるため、左大腰筋も伸張され、骨盤の安定性が損なわれることで生じえます。また、右股関節を最大屈曲させることで、骨盤が後傾することを防ごうと腰椎が屈曲し、それに伴って骨盤が代償的に動くことも考えられますが、最も直接的な原因として、股関節屈筋群、特に大腰筋の短縮が挙げられます。トーマステストの陽性所見に類似しており、このテストでは股関節屈筋群の短縮を評価します。
国試ポイント
この問題は、股関節屈筋群の解剖学的知識と、その短縮によって生じる身体のアライメント変化(特に骨盤の動き)を理解しているかを問うものです。トーマステストのような臨床的な評価方法と関連付けて理解しておくことが重要です。股関節屈筋群の中でも、特に大腰筋が骨盤の動きに与える影響が大きいことを知っているかが鍵となります。
混同注意
大腿直筋も股関節屈筋ですが、大腰筋ほど脊柱や骨盤のアライメント全体に大きな影響を与えるとは限りません。他の股関節屈筋(縫工筋、大腿筋膜張筋)も短縮による影響はありますが、対側の骨盤挙上という所見に対しては、大腰筋の関連性が最も強いです。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た場合、まず股関節屈筋群の短縮症状であるかを判断し、その中でも特に骨盤アライメントに影響が大きい筋(大腰筋)を鑑別できるかを確認する。また、各筋の付着部と作用を正確に理解しているかを問う可能性もあります。
関連知識
トーマステスト(Thomas test):股関節屈筋群の短縮を評価するテスト。仰臥位で、検査側の股関節を伸展位に保ち、非検査側の股関節を最大屈曲させ、膝を胸に引きつける。この際、検査側の股関節が屈曲したり、骨盤が挙上したりすると陽性。大腰筋、大腿直筋、縫工筋、大腿筋膜張筋などの短縮を示唆する。股関節屈筋群の機能解剖:大腰筋(主要な股関節屈筋)、腸骨筋、大腿直筋、縫工筋、大腿筋膜張筋。