50歳の女性。左椎骨動脈解離によるWallenberg症候群で3週経過した。四肢に麻痺と高次脳機能障害はないが、摂食嚥下障害があり経鼻経管栄養が開始された。嚥下造影では咽頭収縮不良による左側咽頭通過障害を認め、唾液を常にティッシュで拭っている状態である。発熱はなく、呼吸状態は安定している。この患者への対応で正しいのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第52回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
Wallenberg症候群は、脳幹の病変により嚥下に関わる神経(迷走神経、舌咽神経など)が障害されることが多く、片側の咽頭麻痺や咽頭収縮不全を引き起こします。本症例では嚥下造影で『左側咽頭通過障害』が確認されているため、左側の嚥下機能に問題があります。頸部を障害側(この場合は左側)に回旋させることで、障害側の咽頭を物理的に閉鎖し、食物を健側(右側)の咽頭へ誘導することで、誤嚥のリスクを減らし、嚥下を円滑にする効果が期待できます。これは嚥下障害に対する代償的嚥下方法の一つとして広く用いられます。
選択肢ごとの解説
- 1. 間接嚥下訓練は、食物を用いずに嚥下関連筋の強化や協調性向上を図る訓練であり、嚥下機能の改善に有効です。誤嚥のリスクなく行えるため、摂食嚥下障害患者に広く適用されます。特に本症例のように摂食嚥下障害があり、唾液誤嚥のリスクもある状況では、禁忌とする根拠はありません。正しくは:間接嚥下訓練は、誤嚥のリスクが低いため積極的に実施を検討すべきである。選びやすい理由:嚥下障害が重度であるため、安易な訓練は危険だと誤解する可能性がある。混同注意:直接嚥下訓練(食物を用いる訓練)との混同。直接訓練はより慎重な判断が必要だが、間接訓練は比較的安全に実施できる。
- 2. 正解。嚥下造影で左側の咽頭通過障害が確認されており、これは左側に何らかの機能不全があることを示唆しています。頸部を障害側(左側)に回旋させることで、咽頭腔を広げたり、食物の流れを健側(右側)に誘導したりし、嚥下を容易にする体位です。特にWallenberg症候群では片側の咽頭麻痺が生じやすく、この代償法が有効な場合があります。選びやすい理由:障害側へ回旋させるという点が、直感に反するように感じるかもしれないが、咽頭閉鎖を促したり、食物を健側に流したりする目的がある。混同注意:健側への回旋(障害側を向く)と、障害側への回旋(健側を向く)の区別。この場合は、咽頭の患側(左側)を閉鎖させる目的で、頭部を左に回旋し健側(右側)に食物を流しやすくする。
- 3. 間欠的経管栄養は、一度にまとまった量の栄養を摂取させる方法であり、消化管への負担を軽減し、栄養管理の効率化を図ることができます。また、口腔からの食事摂取に向けたリハビリテーションを進める上で、日中の口腔ケアや嚥下訓練の時間確保にも繋がり、生活リズムを整える上でも有用です。本症例のように、嚥下障害が慢性化する可能性があり、かつ状態が安定している場合には、間欠的経管栄養が十分に適応となります。正しくは:間欠的経管栄養は、状態が安定している本患者にとって、口腔ケアや訓練の時間を確保できるなどのメリットがあり、適応がある。選びやすい理由:経管栄養が開始されたばかりであることや、常に唾液を拭っている状態から、消化器系への負担を懸念し、持続的な栄養管理が必要だと誤解する可能性がある。混同注意:持続的経管栄養との混同。持続的経管栄養は安定しない急性期などに用いられることが多いが、間欠的経管栄養は安定期やリハビリ期に考慮される。
- 4. 垂直座位(90度の座位)は、重力により食物が咽頭・食道へ流れやすくなる利点はありますが、咽頭の収縮不良がある場合、気道と食道の選択的な開閉が不十分になり、誤嚥のリスクを高める可能性があります。嚥下障害がある場合は、顎を引いた前傾姿勢(顎引き嚥下)や、少し後傾した姿勢(リクライニング位)など、個々の嚥下機能に合わせた姿勢調整が必要です。単に垂直座位にするだけでは唾液誤嚥の防止にはなりません。正しくは:嚥下機能に合わせた姿勢調整(例:顎引き嚥下や軽度リクライニング)で唾液の誤嚥を防ぐことを検討する。選びやすい理由:食事や嚥下の際に「座る」という一般的なイメージから、垂直座位が最も正しい姿勢だと誤解しやすい。混同注意:健常者における食事姿勢のイメージと、嚥下障害者における誤嚥予防のための姿勢調整との混同。
- 5. 嚥下に関わる筋肉群には、舌骨上筋群や舌骨下筋群など頸部の筋肉が多く含まれます。これらの筋肉の強化は、喉頭挙上や舌の動きを改善し、嚥下能力の向上に繋がる可能性があります。Wallenberg症候群による嚥下障害においても、頸部筋の筋力訓練は有効なリハビリテーション手段の一つであり、禁忌とする根拠はありません。むしろ積極的に行うべき訓練であると言えます。正しくは:嚥下に関連する頸部の筋力訓練は、嚥下機能改善のために積極的に実施を検討すべきである。選びやすい理由:椎骨動脈解離の既往があるため、頸部への負荷を避けなければならないと誤解する可能性があるが、急性期を過ぎて安定していれば、適切な範囲での訓練は可能である。混同注意:急性期の安静保持と、安定期のリハビリテーションの段階の混同。また、過度な負荷をかける筋力訓練と、嚥下機能改善を目的とした適切な筋力訓練との混同。
国試ポイント
嚥下障害の病態理解と、それに対する具体的な代償的嚥下方法の知識が問われています。特に、障害部位とそれに応じた体位変換(回旋方向)の関連性を正確に理解しているかが重要です。
混同注意
頸部回旋の方向(障害側か健側か)を混同しやすい。健側を向く(障害側へ回旋させる)ことで、障害側の咽頭を狭めて食べ物を健側に流すという原則を理解しておく必要があります。
次に同じ論点が出たら
今後同様の症例が出題された場合、まず嚥下障害の病因(脳血管障害、神経筋疾患など)と障害部位(口腔、咽頭、食道)を特定し、その上で嚥下造影や内視鏡検査の結果から、具体的にどのような機能不全(例:咽頭収縮不良、喉頭挙上不全)があるかを把握します。その機能不全に対して、どのような代償的嚥下方法や訓練が最も効果的かを判断できるかが問われます。特に、回旋方向と嚥下メカニズムの関連は頻出です。
関連知識
嚥下障害の分類(器質性、機能性)、嚥下反射のメカニズム、嚥下造影検査(VF)の読影、嚥下圧測定、各種嚥下訓練(間接訓練、直接訓練)、代償的嚥下方法(頸部回旋、顎引き嚥下、頭部後屈嚥下など)、嚥下食の分類、経管栄養の種類(経鼻、胃瘻、腸瘻、持続、間欠)。Wallenberg症候群の症状(嚥下障害、構音障害、めまい、小脳失調、 Horner症候群など)。