53歳の女性。前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血にて救急搬送された後、クリッピング術が施行された。術後1週で作業療法が処方された。言語機能と身体機能には大きな問題はみられず、食事、更衣、整容などは自立していたが、担当の作業療法士の名前や新しい出来事が覚えられない、などがみられた。この患者に行う評価で適切なのはどれか。2つ選べ。
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出典:厚生労働省ホームページ(第54回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2・5番
解説
この患者は前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血後であり、言語機能や身体機能は保たれているものの、新しい出来事や情報を覚えられないという「記銘力障害」が主な症状として提示されています。このような記憶障害の評価には、全体的な認知機能のスクリーニングとしてMMSEが適切であり、さらに記憶機能を詳細に評価するためにWMS-Ⅲが選択されます。BITは半側空間無視、SLTAは失語症、VPTAは視知覚認知の評価に用いられ、本症例の主訴とは異なります。
選択肢ごとの解説
- 1. BIT(行動性無視検査)は、半側空間無視の評価に特化した検査です。この症例では、記憶障害が主な問題であり、半側空間無視を示唆する記述はありません。正しくは:BITは、半側空間無視が疑われる場合に実施する。選びやすい理由:高次脳機能障害の検査の一つであるため、知識が曖昧だと選択肢として誤って選んでしまう可能性がある。混同注意:他の高次脳機能障害の検査(MMSE, WMS-Ⅲなど)と混同しやすい。
- 2. 正解。MMSE(Mini-Mental State Examination)は、認知機能全般(見当識、記銘力、注意・計算、想起、言語、図形構成)を簡便に評価するスクリーニング検査です。この症例で見られる「新しい出来事が覚えられない」という記銘力低下を含め、全体的な認知機能の評価に適切です。選びやすい理由:高次脳機能障害のスクリーニングとして非常に汎用性が高く、初期評価として適切であるため。混同注意:より詳細な記憶検査(WMS-Ⅲ)や失語症検査(SLTA)との位置づけの違い。
- 3. SLTA(標準失語症検査)は、失語症の有無やタイプ、重症度を評価する検査です。この症例では「言語機能に大きな問題はみられず」と記載されており、失語症を疑う所見はないため、優先順位は低いです。正しくは:SLTAは、発話、聴理解、読解、書字などの言語機能に問題がある場合に実施する。選びやすい理由:くも膜下出血後に高次脳機能障害が生じることはよく知られているため、その一つとして言語障害も含まれるという発想から誤って選んでしまう可能性がある。混同注意:記憶障害と失語症を混同したり、言語機能の障害とその他の高次脳機能障害の区別が曖昧な場合に選びやすい。
- 4. VPTA(視知覚認知能力検査)は、視覚認知能力(図と地の弁別、空間関係、形態恒常性など)を評価する検査です。この症例の主な問題は記憶障害であり、視知覚認知の問題を示唆する記述はありません。正しくは:VPTAは、対象者の視覚認知能力に問題がある場合に実施する。選びやすい理由:高次脳機能障害の検査の一つであるため、知識が曖昧だと選択肢として誤って選んでしまう可能性がある。混同注意:他の高次脳機能障害の検査(MMSE, WMS-Ⅲなど)と混同しやすい。
- 5. 正解。WMS-Ⅲ(Wechsler Memory Scale-Ⅲ)は、包括的な記憶機能を評価するバッテリー検査です。患者が「担当の作業療法士の名前や新しい出来事が覚えられない」と訴えていることから、記銘力を含む記憶障害が主な問題であるため、WMS-Ⅲによる詳細な評価は非常に適切です。選びやすい理由:記憶障害に特化した詳細な検査であり、症例の主訴に合致するため。混同注意:MMSEのようなスクリーニング検査との違いや、他の高次脳機能障害の検査(BIT, SLTA, VPTAなど)との目的の違い。
国試ポイント
高次脳機能障害のスクリーニング検査と、特定の認知機能(記憶、注意、遂行機能、失語、無視など)に特化した詳細な検査を区別し、症例の主訴や疑われる症状に基づいて適切な検査を選択できるか、が問われる。特に記憶障害に対する評価が重点的に問われている。
混同注意
高次脳機能障害の各検査の目的と適応疾患(症状)を正確に理解していないと、混同しやすい。特に、汎用性の高いスクリーニング検査と、特定の機能に特化した詳細検査の違いが重要。
次に同じ論点が出たら
この問題で問われている「記憶障害」の評価だけでなく、他の高次脳機能障害(注意障害、遂行機能障害、半側空間無視など)についても、それぞれの症状と適切な評価バッテリーをペアで覚えているかを確認する。また、各検査の適用対象や評価できる認知領域の違いを理解しているか。
関連知識
高次脳機能障害(記憶障害、注意障害、遂行機能障害、半側空間無視、失語症など)の概念とそれぞれの主な原因疾患。各種高次脳機能検査の名称、目的、評価項目、特徴。特に、MMSE、HDS-R、WMS、BIT、SLTA、FABなどの主要検査については、内容を把握しておく必要がある。